「いやー、にしてもまさか二人がここにいたとは! 驚いちゃったね~」
「う、うん。私たちも驚き。ね、な、凪原さん」
「うん……」
広報部の部室内。
テンション高めな大樹は相変わらずとして、天井と笹はどことなく気まずそうにしてた。
理由は……もしかして、俺が来たからか?
わからない。推測だけど、なんとなくそんな気がした。そういう空気を感じる。
「それでそれで、二人ともさ。これ聞いていいのかわかんないんだけど、さっきまでどんな話してたん? 俺、女子トークの内容とか結構気になっちゃうタイプなんだよ~。特に彼女のとか」
「えっ……!? な、何……話してたか?」
露骨に天井の表情が強張る。
笹は一瞬チラッと俺の方を見て、うつむいた。
「そ、そんなの大樹くんには教えられないっ。私の適当な世間話とかならともかく、笹ちゃんの相談に乗ってたからっ」
「お。凪原さんの相談か~。ふむふむ。気になりますな」
「き、気にならないでっ。大樹くん、ほんとそういうとこだよ? も、もう少しデリカシーを身に付けてもらわないと」
「えぇ~? でも、気になるのは気になるよぉ~。ぴえん」
「ぴえん、じゃないよっ。もうっ。凪原さんも無理に話そうとしなくていいからね? 私も絶対に大樹くんにはさっき話してたこと言わないから」
天井に言われ、笹は控えめに頷き、安堵した様子。「ありがとう」と。
そして、またチラリと俺の方を見てくる。何だろう。すごく俺に言いたいことがあるような視線だ。
「はぁ……。だったらまあ、仕方ないか。さっちゃん、俺と蒼、今からちっと話すんだけどさ、ここにいていいかな?」
「へ? そ、そうなの?」
「うん。一応大事な話ではあるんだけど」
「それなら、私たち出て行くよ。こっちの話はひと段落ついて、今から別の場所行こうってことになってたし」
「あ。そうなの? なら……」
言葉を濁しながら俺の方を見てくる大樹。
そしてまた続けた。
「そうしてくれるとありがたいかな。また後で連絡は入れるよ。ごめんな」
「う、うん。全然。そういうことだから、私たちはここで――」
「――いや、待ってくれ」
椅子から立ち上がる天井を制止させる。
俺は声を掛け、ジッと彼女を見据えた。
「天井、ごめん。笹も。二人さえ良ければここにいてくれないか?」
「え!? あ、蒼!? でも――」
「いいんだ。これから話すこと、笹はもちろん、できれば天井にも聞いて欲しい。広報部の部員で、気心知れた仲だから」
大樹に言うと、納得してくれて仕方ないという表情。
「お前が言うなら……俺はいいんだけどさ」
「悪い。天井と笹もいいかな?」
問うと、二人は顔を見合わせ、頷いてくれた。
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「……それで、蒼先輩。お話というのは……?」
椅子を用意し、四人が向かい合ったような形で座る。
俺の斜め前にいた天井が問うてきた。
俺は頷く。
「単刀直入に聞く。皆から見て、岡城茜はどう目に映ってる?」
「へ……?」「……?」「なんだそりゃ?」
天井、笹、大樹が同時に首を傾げた。
少し質問の仕方がざっくりしすぎたか。
「すまん。聞き方を変える。最近の茜を見て、皆違和感とか感じたことはないか?」
「違和感……ですか?」
天井が再び首を傾げる。
俺は頷いて返す。
「最近、茜に会ってないってんならいいんだ。けど、もしも会って、あいつを見たっていうのなら、その様子におかしなところがなかったか聞きたい」
「そうです……ね。私は……見かけた程度なんですが……」
言いながら、天井の視線が笹の方へと泳ぐ。
笹もそれに気付き、天井の方を見た。
そして意味ありげに頷き、
「蒼先輩。私と天井さん、さっきまで茜先輩のことについて話してたんです」
「え。そうだったの?」
「はい。私……その、数日前、実は茜先輩と二人きりでお話をして……」
「数日前? それって……」
「先輩に詳しいことを言わないで、人と会うってことだけ言った日です。あの時、私茜先輩と会ってたんですよ」
「マジか……。それってどっちから誘ったんだ? 笹……からはさすがに誘えないよね?」
「そうですね。茜先輩から誘われて。猫カフェに行った日」
「あそこの段階で会ってたのか。俺が席外してるタイミング?」
「そうです。あの時でした」
全然知らなかった。裏でそんなことがあったのか。
「それで、茜とはどんな話を? なんか天井は言いづらそうな感じで笹のこと今見てたけど」
「……はい。実際、茜先輩と付き合ってた蒼先輩には言いづらいことではあります」
「……そっか」
「けど、さすがにここまで来たら言います。私の中だけで溜め込んでても何も解決しないし……それに……」
「うん」
「……蒼先輩が早いところ……あの人と距離を置くことこそが重要だと思ったので……」
笹の言葉を聞き、大樹はわかりやすく驚いていた。
「蒼が岡城さんと早いとこ距離置いた方がいい……!? ど、どういうこと……!?」と。
ただ、俺は違った。
笹がここまではっきりと言うことは想定してなかったが、心の中で「やはり」と思った。
たぶん、笹も茜の強烈な違和感を会った時に感じたんだ。
さらに俺は追及する。
「うん。俺も大樹と同じことが言いたい。それ、どういうこと? 何でそう思ったか、詳しく聞かせて欲しい」
「はい。一つずつ、漏れることなく伝えます。あの人の異常性」
笹は淡々と、しかし事細かに茜のことについて話してくれるのだった。