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第35話 頼れる親友と切るべきかもしれない元大切な人

「おい、蒼? おーい」


 ボーっとしてたところだった。


横から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきてハッとする。


「あ……。だ、大樹……」


「何だ? どうしたんだよ? 帰りのホームルーム終わったぞ? 帰んないの?」


 言われて周りを見渡す。


 本当だ。皆、部活道具を持って教室から出て行ったり、友人同士固まってこれからどうするのか話し込んでる。全然気付かなかった。


「あ、あぁ……。帰る。帰るよ」


「なんかボーっとしてんな。体調でも悪いか?」


「……いや、そういうわけじゃないんだけど……」


「だったらどうしたよ? お前らしくもないなー、なんか」


「……悪い」


「別に謝んなくてもいいけどさ」


 さすがに大樹に今の俺の悩みを打ち明けるわけにはいかなかった。


 天井と付き合ってて、幸せの中にいるはず。


 俺の面倒ごとに巻き込むわけにはいかない。天井にも悪いし。


「もしかして、アレか? 最近、蒼が仲良くしてた女の子。一年生の凪原さんだっけ?」


「え?」


「あの子関連でなんかあったとか?」


「っ……」


 隠し通すつもりだったけど、一瞬顔が引きつったのがバレたんだと思う。


 大樹は「ははーん」とジト目でこっちを見てき、俺の肩に手を置いた。


「お前さ、今日これから予定とかあんの?」


「……いや、特には……」


 特別予定ないが、笹に会おうとは思ってた。LIMEも来るだろうし。


「ならよ、ちょっと久々に広報部の部室来ねー?」


「は……?」


「大丈夫。岡城さんと別れて初めて行くから皆が気を遣うんじゃないか、とかは考えなくてもいい。今日は部活自体は休みなんだ。ただ、部室に来てくれるだけでいい」


「……なぜ?」


「シンプルにお前と会話したい。最近ずっと凪原さんに熱中だったっぽいし」


「……それは……」


「あと、さつきも今日俺以外の誰かと遊ぶっぽいんだ。ぼっちで寂しいからよ。付き合って、ダーリン♡」


「……きもいって……」


「はははっ! ま、そういうことだ。来てくれんだろ? 広報部の部室」


「……ったく」


 結局、俺は大樹に押し負ける形で広報部の部室へ行くことになった。


 本当に久しぶりだ。


 茜と別れてからは、一度も足を運んでいない。


 その理由は、さっき大樹が言ってた通りのものだ。


 広報部の部員は、皆俺が茜と付き合ってたのを知ってるし、茜もよく俺と一緒に部室へ足を運び、和気あいあいと話をしたりしてた。


 だから、茜との関係を解消させてしまった今、俺が広報部へ顔を出せば、必ずといっていいほど皆遠慮して接してくる。


 幼馴染との恋人関係を消滅させる。それはよっぽどのことがあったからだと思われてるんだろう。


 実際はあっけなくて、そこまで気まずくしてくれなくてもいいんだけどな。


 まあ、その辺のことは俺自身が努力すべきなんだが……面倒くさくなって、部室へ行かないという選択肢を取ったことで終わってしまってた。


 またいつか、あの時みたいな風に戻ればいいのにな。


 そう思ったりもするわけだ。






●〇●〇●〇●〇●〇●〇●






「しかしよ、蒼くんや」


「何だよ?」


「件の凪原さんだけど、どうも俺のさつきちゃんがさ、最近彼女と仲良くなったと報告してきたんじゃよ」


「え。そうなのか?」


 広報部の部室へ向かう道中。廊下を歩きながら、俺は大樹の教えてくれたことに驚いていた。


「あり得ん話じゃないだろ。同じ高校の同じ一年生なんだし。面識はあるだろうし、何かのきっかけで仲良くなっても何ら不思議じゃない」


「まあ、それもそうだな。確かに」


 よくよく考えてみると、俺は笹の友人関係とか、そういうことをまるで知らない。


 いや、もちろんそこまで俺が把握しておかなくてもいいと言われればその通りなんだが、考え始めると気になってくる。笹は普段、どんな友達と一緒にいるんだろう。放課後はいつも俺と一緒にいてくれるが。


「いい子らしいじゃん? 凪原さん。さつきが言ってたぞ」


「……うん。そりゃそうだろうな。俺も一緒にいていい子だなって思うし」


「蒼先輩にも合うと思うって言ってた(笑)」


「それは余計なお世話だよ。合う合わないなんて俺が実際に接してみて決めるし。……っていうか、そんなこと天井は言わないだろ。どうせお前が今考えた」


「いやん♡ バレちゃった、さすが蒼キュン♡」


 くねくねしながら言う大樹。


 俺はため息をつき、頭を掻いた。やれやれだ。


「けどよ、俺的にはさ、お前に早いとこ立ち直って欲しいんだ」


「立ち直る?」


「岡城さんだよ、岡城さん。蒼にとっては幼馴染だし、忘れろとは言わんけどな。それでも、次の彼女を作るなり、何かに打ち込むなりして、早いとこ立ち直って欲しいなって思うんだ」


「……充分立ち直ってないか?」


 問うと、大樹は「いやぁ」と首を横に振った。


「全盛期とは程遠いね。もっと元気あった。この町牛耳れるくらい」


「俺はどこのマフィアかってんだよ……」


「ははは。ま、それは冗談だ」


 言って、俺の肩を叩く大樹。


「要は元気出して欲しいってことよ。な、頼むぜ親友?」


「……わかったよ」


「あと、なんか俺にできることがあれば、その時は頼ってくれ。さつきの時もお前にはだいぶ世話になったんだし」


「了解」


 大樹の求める元気な俺ってのが自分であまり掴めてないけど、たぶんなんとなく、こいつはこいつで俺が思い悩んでることを察してくれてるんだと思う。


 だったら、俺も俺で一人で悩まず、もう少し大樹を頼っていいのかもしれない。


 ――茜と縁を切るにはいったいどうすればいいと思うか、って。


「おし。なら我ら広報部の部室にとうちゃーく……と言いたいとこだが、待て。誰もいるはずないと思ってた部室に誰かいるぞ、蒼」


 扉に顔を近付け、室内を覗きながら言う大樹。


「え? 誰だよ?」


 俺が問うと、大樹は首を傾げ、


「わからん。場所、やっぱ変えるか……?」


「いいよ。気にしない。入ろう」


「お前がそう言うなら、まあいいけども……」


 言って、二人で部室へ入る。


 すると、そこに居たのは――


「あれ? 大樹くんと……蒼先輩!?」


「あ、蒼先輩……!」


 天井と笹だった。


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