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第34話 クイズ

「それじゃあ、蒼先輩。作った肉じゃが、帰ったらまた食べてくださいね。私の自信作ですので」


「うん。今日も色々ありがと」


「はい。……その、ま、また明日……です」


「……また明日。おやすみ」


「おやすみなさい」


 夜。時刻は二十時ぴったりを指し示してる。


 昼休みに約束した通り、俺は放課後を笹の家で過ごし、今日も夕飯をごちそうになった。


 色々会話もした。


 学校でのこと、テストが近くなってきてること、それと……俺が前にいた広報部でのこと。


 どれも会話として盛り上がったし、すごく楽しかった。


 楽しかったんだけど……。


 話題のすべてが、今俺たちのやろうとしてることとは的外れなものばかりだった。


 竹崎の話も無ければ、俺が奴とどんなことを話したかの追及もない。


 それどころか、その話をしないで欲しいと暗に訴えられてるかのような空気感もあって、俺は結局何もそのことについて話せなかった。


 切り出そうとしても、すぐさま別の話題を振られ、空振りに終わる感じ。


 言うまでもなく、笹の様子が変だ。


 昨日会った人が誰なのか、どんなことを話したのかも言えない。


 そして、茜が嫌いだとハッキリ言った笹。


 いったい何があった。何があったっていうんだ。


 多少強引にでも聞くべきだった。


 くそ……。


「……!」


 そうして、笹からもらった肉じゃが入りのビニール袋を持つ手に力を込めてた時だ。


 ポケットに入れてたスマホから、LIMEのメッセージ通知音が鳴る。


 送り主は誰なのか、大方想像はついていた。


 恐らく、早く私のいる場所へ来てくれ、という催促メッセージだろう。


 スマホを取り出し、確認する。




 岡城 茜 『公園で待ってる』




 ……やっぱりな。


 というか、まだ茜は俺をブロックしてなかったらしい。


 意外だった。てっきり速攻でブロックされたものかとこっちは思ってたのに。


『わかった』


 そう、メッセージを返し、俺はまた歩き出した。






●〇●〇●〇●〇●〇●〇●






「やっと来た。待ってたよ」


「……うん」


 辿り着いた公園。


 そこには確かに茜の姿があった。


 わずかながらの電灯の下、一人で立ってたのだ。


「女子が一人で公園に居ていい時間じゃないと思うけど。いつから待っててくれたんだよ?」


 問うと、茜は顎元に人差し指をやり、考える仕草。


「だいたい、三十分前くらいからかな? 暗かったし、誰もいないから少し寂しかった」


「っ……」


 にこりと微笑みながら言う茜。


 三十分って……。かなり待ってんじゃないか……。


「でもまあ、蒼、ちゃんとここに来てくれたから問題無しだよ。もしかしたら来てくれないかもって思ってたし。誘ったのも今日の昼休み終わり間近だったから」


「……行くに決まってんだろ。約束したし、俺が行くって言ったら、よっぽどのことが無い限りちゃんとそうするから」


 それは、茜ならきっと知ってるはずだ。


「そっか。……そうだよね」


「ああ。そうだよ」


「とりあえず、そこのベンチ座ろっか。少しだけ話し込むから」


 言われ、俺たちは二人ですぐそこにあったベンチへ腰掛ける。


 久しぶりだった。こうして二人きりでちゃんと落ち着いて話すのなんて。


「……それで、話っていうのは……?」


「うん。凪原笹さんのことで少しね」


「え……。笹……?」


 まったく想定してなかった。


 どうしてここで笹のことが……?


「蒼、びっくりした? 私が笹さんとつながってるの聞いて」


「……それは……まあ……」


「ちなみに、昨日会ってお話してきたの。二人きりで」


「は!?」


 反射的に茜の方を見てしまう。


 まさか、笹の様子がおかしかったのは、茜が何か――


「笹さん、すごくいい子だね。色々と私のこと先輩として立ててくれるから、こっちも話しやすかったよ。また休日に誘って二人でどこかへ行きたいくらい」


「ちょっと待ってくれ。話が飛躍して進んでる。そもそもだ。なんで笹が茜と二人で? 別に接点とか特にないだろ。顔見知りってのは一応同じ学校だからあるかもだけど」


「そんなことないよ? 接点なら全然ある」


「え……」


 嘘だろ。初耳だぞ、そんなの。


 困惑してる俺を見て、茜はクスッと笑った。


 そして、なぜか少しばかり距離を縮めてくる。


 それに気付いた俺は茜が近付いてくるのと比例するように離れるんだけど、ベンチの座れるスペースが限界になったところで逃げ場が無くなり、追い詰められてしまった。


「ちょ、あ、茜……?」


「……蒼。今から私、クイズ出すね? 答えて?」


「は……? く、クイズ……?」


 近い。体と体の距離どころか、顔と顔まで近い。


 付き合ってた時にはなかった緊張感を覚えていた。


「な、何だよクイズって……。いきなりだし……ち、近いって……」


「ふふっ。近くてもいいじゃん」


「良くないよ……! お前今、竹崎と付き合ってんだろ? なのに、俺なんかといたら――」


 喋ってる最中だったけど、不意に茜が俺の唇に人差し指を押し付けてくる。


 そのせいで俺は黙り込んでしまった。話せないし、それに……少しドキッとした。


 茜、いたずらながら艶やかな目をして、俺をジッと見つめてきてたから。


「そこは今、忘れて?」


「……っ」


 忘れられるわけないだろ。


 そう思ったが――


「クイズに答えて欲しいの。私が今、蒼のことどう思ってるのか」


「……???」


「私はまだ、蒼のことが嫌いでしょうか? それとも……」


 好きでしょうか?


 どっちでしょう?


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