竹崎と別れ、適当に間を空けてからカフェ店内へ戻る。
笹は自分で言ってた通り、元居た席にて猫とじゃれ合ってた。
その様子がどことなく微笑ましくて、俺は改めて自分が緊張状態にあったことを実感した。急に脱力して、体が重くなったのだ。笑みもこぼれてしまう。
「ただいま。一仕事終えて来たよ」
「おかえりなさい、です。どうでした? 竹崎竜輝は」
「まあ、思ってた通りの奴ではあったよ。……あったけど……」
「あったけど?」
笹が小首を傾げる。
俺は軽く自虐的な笑みを浮かべながら、「わからない」といった風にジェスチャーして、返した。
「どことなく、奴も何か抱えてるような、そんな気がした。明確に何に対して悩んでるのかはわからなかったけどな。本当になんとなくだから」
「そう……ですか」
「うん」
言って、俺が席に腰を下ろすと、笹の元でゴロゴロ転がってた猫はピューっと向こうの方へ逃げてしまう。
そんなに警戒しなくてもいいのに。
少し残念な気持ちになりながら、俺は「ふぅ」と一つ息を吐いた。
物事は思うようにいかないもんだ。ほんと。
「まあ、何が言いたいかっていうと、実になるような情報は入らなかったってことかな。一応茜がある程度幸せそうにやれてるってのはわかったけど」
「茜先輩、ですか」
「そうそう。茜先輩。俺と別れて楽しそうだってよ。竹崎、言ってた」
「…………それは、よかったですね……って言っていいんですか、これは?」
「いいよ。いい、いい。むしろ幸せを願ってやってくれ。俺の幼馴染だし、元好きな人だし。幸せじゃなかったらどうしようかって、そっち方面でソワソワしてたくらいだし、俺」
「なるほど、です」
「何度も言うけど、俺に至らないところがあってこうなったんだ。今さらヨリを戻してどうこうって話じゃないよね。現状確認、みたいな。すっごい気持ち悪くて、女々しいことだけどさ(笑)」
「そんなことないですよ。女々しくなんてないです。むしろ優しくて、私は好印象ですけど?」
「ありがと。そう言ってくれるの、たぶん笹くらいだ。竹崎には言われたよ。女々しいこと聞くなって」
「あんな人の言うこと、真に受けなくていいです」
「茜も言いそうだよ。なに彼氏でも無くなったのに訳わかんないこと聞いてんの、って」
「それは蒼先輩の推測じゃないですか。茜先輩はそんな……こと…………」
「そんなこと?」
「…………ごめんなさい。確かに言うかもしれないです」
「だろ?」
「ごめんなさい」
「いやいや。別に笹が謝るようなことじゃないって。現実的に言いそうなわけだし」
「………………」
黙り込む笹を見ながら、俺はすっかりぬるくなってしまってた残りのアイスココアを飲み干した。
そろそろここ、出た方がよさそうだな。
竹崎と一緒に居る茜とは顔を合わせたくない。
「笹。なら、やることも一通りやれたし、そろそろ出てもいい?」
「あ、はい。大丈夫です。出ましょう」
「また来ようよ。今度は心置きなく猫を撫でられる日とか選んでさ」
「別にそれはいいですけど。家に帰ればたろ助もいますし」
「えらいな。他の猫とかに浮気したくならないんだ?」
「ならないですよ。私、どこかの誰かさんと違って、人にも浮気しませんし、猫にも浮気しませんから」
「……ははっ。そっか」
その誰かさんとは、いったい誰のことを指すんだろうな。
俺は笑い、伝票を手に持って会計へと向かうのだった。
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猫カフェでの竹崎たちへの接触を終えた俺たちは、その後すぐに解散した。
笹を家まで送り届け、家路につく。
道中、彼女はどことなく元気が無く、いつになく考え事をしてたような感じだったけど、俺がどうしたのか聞いても、「何も無いですよ」の一点張りだった。
本人がそう言うんだから、実際そうなんだろう。
仮に何かあったとしても、それは今話せる状態じゃないってことだ。
だったら、無理に聞くべきじゃない。心配は心配だったけど、心配するだけで、それ以上は話を聞かなかった。
で、そんなことがありつつ、俺は無事帰宅。
帰るや否や、すぐ風呂に入り、夕飯を食べてから、翌日の課題を終わらせる。
そして、そろそろ寝ようかというタイミングで、意外な人物からLIMEのメッセージが届いた。
杉原だ。笹と竹崎の幼馴染である、杉原佳澄。
『夜分遅くなのと、いきなりで本当にごめんなさい。明日、放課後時間作ってもらえること、できるかな?』
『少し、二人きりで話したいことがあるんだけど』
「……え?」
思わず、頓狂な声を出す俺だった。
話したいこと……? それも二人きりってどういうことだ……?