「では、お客様二名様ですね~。こちらの席へどうぞ~」
俺とは対称的なほどに明るい店員さんの声が店内に響き渡る。
新たにやって来た二名の客。
それは茜と、あの竹崎竜輝だった。
「せ、先輩……。あれ……」
「あ、ああ……」
蚊の鳴くような声で言ってくる笹に対し、俺は小さく頷く。
二人は俺たちに気付くことなく、奥の方の席へと案内されていった。
「ま、まさか本当に来るなんて……。私たちが来た時点で居なかったから、他の場所で探すのがベストかなって思ってたのに……」
「……そうだね。俺も……びっくりした」
びっくりしたから、体の震えが止まらない。
そうだ。これはびっくりしたからだ。びっくりしたから、俺は今怯えるように震えてるんだ。そうに決まってる。
「……蒼先輩……。その……ほ、ほんとに大丈夫ですか……?」
「え……? な、何が……?」
「何がって。あの二人のことに決まってるじゃないですか。まだ精神的にも立ち直れてないのに、こうして出会っちゃって……」
顔をうつむかせ、申し訳なさそうに言う笹。
悔しいけど、その通りだ。俺はまだ茜のことに関して、まったくと言っていいほど立ち直れていない。
……けど。けど、だ。
「……大丈夫」
「……へ……!?」
笹の手に、俺は自らの手をそっと重ねる。
その手は震えてるのが明らかだってのに。
「……今日は、なんだかんだ……あいつらに会うためにここまで来たんだ。それなのに……ビビってるからって何もしないのは……意味がわからない。俺は……大丈夫だから」
「……あ、蒼……先輩……」
きっと笹から見て、今の俺は随分とダサく映ってるんだろう。
こんなセリフを吐いても、強がってるのはバレバレだ。
だけど、いくらダサかろうが、やらないといけないことはある。
俺は今日、しっかりこの目に二人の光景を焼き付けるんだ。
と、そんなことを考えてる矢先のことだった。
「っ……」
「……!?」
不意を突いたかのように、笹が隣から身を寄せて来た。
戸惑い、体の熱が一気に上がる。
「さ、笹……?」
「…………ごめんなさい。ほんとに、ほんとに……」
「え……?」
どういうことだ。何がごめんなさいなんだ。
反射的にそう問おうと思ったけど、なんとなくその謝罪の意味がわかって、俺は何も返すことができなかった。
そうか。俺は……そうだった。
そのまま、身を寄せて来た笹を受け入れ、ジッとする。
それから、一分ほど経ったくらいだろうか。俺はおもむろに切り出した。
「……あいつらのとこ、行ってみようと思う。俺」
「……へ……!?」
驚いたからか、俺に身を預けていた笹は、飛び起きるかのように少し距離を取り、こっちを見てくる。
信じられない、とでも言うような目だった。
「もちろん、茜と竹崎が一緒にいる時じゃない。竹崎の方、かな。あいつがちょっとトイレに行ったりした時を見計らって、会話しに行こうと思うよ」
「で、でも……」
「大丈夫。もうビビったりしないからさ。笹はここで待ってて」
言うと、笹は心配そうに俺を見つめてくれ、やがて「わかりました」と了承してくれた。
「……先輩……。また後で……その、謝らせてください……」
「え? また?」
「……はい。私……いつもこんなだから……」
そう、呟くように言う笹の顔はいつも見ないくらい落ち込んでる。
俺は……もう一度彼女の手に触れた。
とにかく君には明るくいて欲しい。そう言葉を告げて。