『竜輝くんは、基本私と一緒に遊ぶ時は私の行きたいところへ優先的に連れて行ってくれてた。だから、茜さんとデートする時も茜さんが行きたいところを尊重してあげてるんじゃないかな? 完全に憶測だけど』
竹崎がよく入り浸ってる場所やデートに選ぶところはどこが多いか。
俺の繰り出した質問に対して、杉原はそう答えてくれた。
つまるところアレだ。この回答は、要するに『茜さんと付き合ってた瀧間くんなら、茜さんの行動パターンや好きな場所、好きなことについてよく知ってるだろう。その場所が竹崎竜輝のいる場所だ』と暗に答えてくれてることになる。
だったら話は簡単。茜の好きなことやよく行きがちな場所なんてほとんど押さえてる。
それらをしらみつぶしに放課後だったり、休日に行けばいいだけだ。何のことは無かった。
「――じゃあ、まずは猫カフェですか? 猫カフェに潜入すれば二人はいるかもしれないんですかね?」
購買で買ったサンドイッチを食べながら、笹が問うてくる。
俺はそれに対して頷き、お茶を一口飲んだ。
今は昼休みだ。日中、笹と二人で密会できるのはこの時間しかない。
学年が違うから教室のある階も違うし、授業と授業の合間の休憩時間は何かと忙しい。十分程度で満足な会話ができるはずもなく、その時間に会うのはやめようってことになったんだ。
「学園都市から少し歩いてさ、あるよね? あそこ。ペットショップ横の」
「ありますね。犬が好きな友達も学校帰りによく行ってるみたいです」
「犬かー。俺、どっちかというと猫派なんだよな」
「それはどうして?」
「ん……。どうして、か」
なんだろ。特にこれといって明確な理由はないかも。見た目が可愛いから? 直感的に癒されるから?
「うーん……。やっぱアレかな? 犬と比べて一般的にコンパクトだし、性格とか振る舞いがどことなく女の子みたいな雰囲気を感じさせてくれるから、とかかな……?」
「なんか……ふふっ。思ってたより変態っぽいですね、それ」
「え!?」
クスッと笑いながら言われてしまった。
つい、反射的に声を上げてしまう。
「もっと、なんかこう……目が可愛いからとか、モフッとしてるからとか、そういうシンプルなの予想してました(笑)」
「え、えぇ……? 俺のもシンプルじゃなかった……? いや、でも女の子っぽいってのは確かにキモいか……。うぐぐ……」
「確かに蒼先輩の言いたいことはわかりますよ? わかりますけど、全員が全員猫っぽくて素っ気なくて、どこかSっぽい子ばかりじゃないので」
「……ですね。よくよく考えたらその通りだと思います」
「っふふ……。あと、その言い方だと、先輩の趣味趣向がしっかり反映されてるみたいでした(笑)」
「へ……? って、ちょっ、さ、笹さん……?」
なんか距離が近く……。
「蒼先輩は犬っぽくベタベタ懐かれるよりも……素っ気なくアメとムチを使い分けるみたいにお相手した方が好みってことですね?」
「え、えと……」
「こっち……ちゃんと見て? 蒼先輩?」
「あっ……。は、はい……」
いや、「は、はい……」じゃないよ。「あっ……」じゃないよ。何だこれ。何かのプレイですか。あからさまにイケナイ雰囲気なんですが。
「好き?」
「あ、あぅえ……。そ、その……」
「すーき?」
「…………う……うん……」
「だめ。ちゃんと言いましょうね。……好き?」
「……っ。す……好き……」
恥ずかしい思いを振り切って、どうにかその一言を口にする。
すると、笹は恍惚に満ちたような、どこか危ない光を灯してる瞳を細くさせて笑みを浮かべた。
「よく言えました。えらいですね、蒼先輩」
「っ~……」
優しく頭を撫でられ、褒められてしまった……。
なんかこれ、家で笹がたろ助を撫でてる時と似てるような気がする。
俺はあくまでも猫が好きなのであって、猫になりたいわけじゃないんだけどな……。まあ、いっか。すごく気持ちいいし……。
「……蒼先輩?」
「……何でしょう?」
言った瞬間にムニっと頬をつままれてしまった。
痛くはないです。ほんとムニムニされるだけ。
「違いますよ。そこは『何ですかにゃ?』って言ってくれないと」
「別に俺、猫にジョブチェンジしたいわけじゃないんですが……」
「でも、私は先輩のこと、猫ちゃんにしたいですよ?」
「いや、君の願望は聞いてないよ……」
「私だけの猫ちゃんにして、家猫として飼ってあげたいです。……特別に、檻の中に閉じ込めて」
「なんか今、最後やばいこと言わなかった?」
「……? 言ってないですよ? 一つもやばいことなんて言ってないです」
そんな、『当然のことなら言いましたけど』みたいな顔しながら首を傾げないで欲しい。追及し難くなるし、追及するのが怖くなる。恐ろしい子。
「話が脱線しましたね。とにかく、猫カフェには行きましょう。そこに行けば、竹崎竜輝と茜先輩がいる可能性は高そうですし」
「……了解です」
頷いて、俺はペットボトルに残っていたお茶を飲み干すのだった。