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第17話 中途半端な告白だけはしません

「でも、竹崎……笹の兄を懲らしめるってのは具体的にどうやってくつもり? 俺はあまりまだ彼のことをちゃんと知らないんだけど」


「明日、くらいですかね? まずは兄の通ってる芝野井高校に潜入してみようかなって思ってます」


「え。せ、潜入?」


 あまりにも大胆な作戦だったので、つい手に持っていた人参とピーラーを落としてしまいそうになった。


 今は二人でカレーを作ってる最中だ。


 笹が一人で作るって言ってたけど、なんか作らせるのも申し訳ないから、俺も参戦することにした。大丈夫。野菜の皮むきとかなら俺でもできる。細かい味付けは無理だけど。


「潜入って、それどのタイミングで? 竹崎と直接会おうってこと?」


「会って色々言ってやるのが一番手っ取り早いんですけど、やっぱり蒼先輩の気持ちを考えると、それもできないなって。兄には会わないです」


「じゃあ……いったい何を……?」


「兄のこと、よく知ってる友達がいるんです。一応学年は私の一つ上で、ちょうど蒼先輩と同級生の女の子なんですけど、その子に会って色々話しようと思ってます」


「あ、あぁ~。そういう」


 なるほど。そういう手法が使えるのか。


 笹、結構顔広いんだな。俺とは大違いだ。


「まあ、端的に言っちゃえば、兄と仲の良かった幼馴染ですよ。ちょうど、蒼先輩と茜先輩みたいな感じです」


「え」


「名前は杉原佳澄すぎはらかすみ。おっとり系の美人さんなんですけど……写真、見ます?」


「今、いいの?」


 米研いでる最中っぽいけど。


「いいですよ。ちょっと待っててください」


 言って、笹は濡れてた自分の手をタオルで拭き、すぐそこのリビングのテーブル上に置いてたスマホを取りに行く。


「あ、こらたろ助。スマホふみふみしちゃダメだよっ」


 で、遊んでもらえると勘違いしたのか、笹がそっちへ行った途端にテーブル上で眠ってた飼い猫・たろ助が起き、彼女のスマホを足で「取っちゃダメ。構え」とばかりにふみふみし始めた。


 笹はそんなたろ助を抱っこし、手に取ったスマホをスワイプ。


 程なくしてこっちへ戻って来た。


「ほら、蒼先輩。この人です。この人が私たちの幼馴染の佳澄ちゃん」


 言われて、俺は人参の皮むきを中断させ、差し出されたスマホの画面を見る。


 そこには、お姉さんっぽい垂れ目美人な女子が映ってた。確かに笹の言う通り、文句なしに可愛い。


「可愛いでしょ? 私の言ってた通り」


「……ああ。ふっつうに可愛い。びっくり」


「惚れちゃダメですよ? 先輩が惚れていいのは、今のところ私だけですから」


「いや、笹には惚れていいのか。それにもびっくりしたんだが」


「はい。いいです。茜先輩に未練たらたらで、他の女の子に中途半端な好意しか向けられない今の蒼先輩を受け入れられるのは、きっと私だけでしょうから」


「何だその考察……。いいよ。中途半端な好意なら、笹にも向けない。だってそれってつまり、片手間な女の子を作るなら私にしとけばいいじゃんって言ってるようなものだろ?」


「まぁ、そういうことです。私、凪原笹、蒼先輩の片手間女になります」


「……仕方ない感出しながら言わなくてもいいから、そんなこと。絶対しませんから、安心してください。そんなの」


 呆れながら俺が言うと、笹は「えー?」となぜか疑心に満ちた目でこっちを見てくる。


「だったら、その間の先輩の女の子欲はどこで発散させるんですか? 遠慮しなくてもいいんですよ? 私のこと、使ってもらっても」


「なんか一気に表現がいかがわしくなったな。女の子欲なんて発散させなくてもいいから安心してくれ。そして米を研いでくれ。途中だったろ?」


「発散させなくていいわけないじゃないですか! 歳頃の男子高校生なのに! 先輩は痴漢でもするつもりですか!? そんなの、お縄ですよ! お縄!」


「しませんってそんなの。お縄にもならない。何度も言うけど、安心してよし。笹にも中途半端に手は出さない」


「……なら、どうなったら手を出すんですか……?」


「どうなったらって、それは――」


 流れで言いかけて、ハッとする。


 ちょっと待て。この質問はダメだ。安易に答えていいものじゃない。


 寸前のところで冷静になり、「ふぅ」と息を吐く。危なかった。


「……まあ、笹が泣いちゃったりした時……かな」


「え。泣いた時……?」


「悲しそうにしてたら、『あ~、もうどうしたの~? よしよし~』って頭を撫でる。手を出してな」


「……うわぁ。つまんないんですけどー……」


「なんでだよ? 意味はちゃんと通ってる。つまらんも何もない。そんなもんだよ」


 言うと、笹は「むー」と頬をぷくっと膨らませ、たろ助を床に下ろした。そして、米を高速でシャカシャカ。さっきよりも三倍は早い。


「先輩はもっと私のことを女の子として見るべきですっ。なんか今だと、妹って感じじゃないですか」


「ん。まあ、間違ってないかもな」


 俺の言葉に、笹の米を研ぐスピードがさらに上がった。


 で、研いだ後の水を捨て、また水道から水を汲み、それを炊飯器にセット。


 ポチーっと勢いよく炊飯スタートのボタンを押す。


 それから、頬を膨らませた顔で俺の方を見つめてくる。


 いやいや。よくわかりませんが、そんな顔で見られましても。笹さん。


「……蒼先輩の……ばか」


「……何でそうなる……」


 俺はただただ冷や汗を浮かばせるしかなかった。


 笹はプイっとそっぽを向き、ジャガイモの皮むきを始めるのだった。


 ……わからん……。


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