例えば、だ。
何か問題があって自分がどん底の気分でいたとする。
そんな時、自分よりも不幸な女の子を見つけたならば、どういった行動をとるべきなのか。
それはすごく難しい問題で、昨日あの後、俺は笹の教えてくれたことに何も返すことができなかった。
「……くそ」
休み時間の教室で、一人机に突っ伏しながら小さく呟く。
すると、だった。
「あ、あの、瀧間先輩……? 起きてらっしゃいますか……?」
頭上からコソコソッと声がする。
びっくりして勢いよく顔を上げると、そこには笹じゃない見慣れた後輩の姿があった。
「あ……。天井」
天井さつき。
小動物系で栗色ロングヘアが特徴の可愛らしい女の子。
大樹と同じ広報部の部員であり、大樹の彼女。俺たちの後輩で芥山の一年生だ。
「は、はい。天井です。ごめんなさい、お眠りのところ声を掛けてしまって」
天井は申し訳なさそうにぺこりとお辞儀する。
礼儀正しくて、淑やかな雰囲気なこの子が大樹の彼女だとは本当に思えない。
性格もタイプも真逆な凹凸カップルだ。
「いや、いいよ。それより、こんなとこまで来てどうかした? 大樹になんか用とか?」
問うと、天井は恥ずかしそうにして頷く。
周りの目も気になるんだろう。一年生がなんで二年の教室に? とか思ってる奴もいなくはない。
この子の性格的にもきつい状況であることには間違いなかった。
「ちょっとだけ大樹くんと広報部の次月号パンフレットについてお話がしたくて……」
「なるほどね。でも、今は――……」
言いながら、俺はぐるりと教室中を見回してみる。
大樹の姿はない。トイレか、どこかに行ってるみたいだ。どこどこに行くからっていう伝言とかも預かってない。行方不明だった。
「ごめん。大樹の奴、どこかに行ってるみたいだ。場所もイマイチわかんないんだけど」
「あ、そ、そうなんですか……。弱りました……」
「んー……」
このまま『また時間空けてから来てくれ』と追い返すこともできはした。
が、天井は邪険に扱えるタイプの子じゃない。
どっちかというと丁寧に扱ってあげないといけない女の子だし、俺も弱った。どうしようか。
「……あ、そうだ。なら、一緒に体育館前の自販機で待っとくか?」
「へ? 体育館前ですか?」
「うん。俺たち次の授業体育なんだ。移動教室だし、更衣室で着替えるのに早めに体育館入りして来ると思うからさ。待ち伏せするみたいな感じで一緒に待ってよう」
「い、いいんですか? 先輩を付き合わせてしまって……」
「それはいいよ。俺もどうせ体育なんだし。唯一の懸念点を挙げるなら、天井が次の授業のために教室へ戻らないといけないことだけど……」
「時間ですか? それなら大丈夫です。安心なさってください」
「そか。なら、行こう」
言って、俺たちは体育館前の自販機へと向かった。
俺も俺で、こうして話しかけてくれたのはありがたい。
誰かと一緒にいると余計なことを考えないで済むからな。