〇笹本リゾートホテル フロント前のメインロビー
「皆さんお世話になりました・・・・」
俺はロビーの真ん中で深々と頭を下げる
「元気でな・・・・・」
「はい・・・・皆さんこそ身体に気を付けて下さい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「ねぇ進・・・本当に一緒に来ないの?」
「ああ・・・悪いな五月・・俺は・・・」
「五月、進君には進君の考えがあるんだ・・・進くんの考えは犬飼会長もお認めになってる事だ」
「やっ、やっぱり私、すすむんとここに残る」
「雫・・・貴方たちの休学届は今日まで学生の本分を忘れちゃダメよ、なにより進君は必ず雫の元に戻ると言ってるのよ?イイ女と言うのは男の帰る場所を守るものじゃない?」
「で・・でも・・・」
雫は不安な表情をしながらトランクの取っ手を強く握り俯いている
・・・・・そうあの綾小路さんとのテレビ会談の時に犬飼会長から受けた命令・・・
「魔都への侵入調査及び・・・・・北の大陸にいらっしゃる超級職である残りの超越者のお二人への目通りを実現し、この度の魔族の不穏な動きへの対処協力要請の為の使者を命ずる」
俺の中でザビーネをこのままにしておく選択肢はあり得ない・・・オロチとの約束を果たすため必ずザビ―ネを仕留めるそれは決定事項だ
そして狭間の世界ですすむん達に告げられた魔族の不穏な動きについても気になっている
その上で綾小路さんから告げられた新世紀変異・・ニュージェネシスミュータント 聞いたことの無い用語だったが何故か俺の胸にナイフでも突き刺さった様な痛みが走った
この胸に刺さったナイフが何なのか・・・それを確認するまでは・・・
考え事をしている俺の元へやってきた真理恵さんが頭を下げ
「先に戻られた犬飼会長より話は聞いてます、進様はもう一度、富士山の山頂に上られるのだとか・・」
「はい・・・ただ今は未だ富士山の山頂に魔素が充満していて危険だと言う事なので3、4日後にもう一度・・・」
俺の目的は真理恵さん達、あの場に居た人達には話してある
今はあの場に居なかった他の人に機密が漏れるのは避けたいとの意図かあえてそれ以上は言葉にしない真理恵さん
「もはや私がどこうこうは言えませんが・・・どうかご無事で」
「紅、進の事頼むわよ」
「不本意だけど貴方に託したわ」
「はい、お任せ下さい雫姉様・・・必ず旦那様を無事姉さま方の元へ無事お連れ致します」
当然ながら紅には俺に同行してもらう為、残ってもらう事にした
「では進君我々は先に東京に戻っているよ・・・今度は東京で行きつけのバーで飲みたいもんだ」
そう言うと傑さんは俺に握手を求めて来た
「はい、是非」
俺は傑さんの手を取り握手を交わす
「ふふふ、僕の事も忘れないでくれよ?それとお義父さんとの面談もね」
そう言いながら傑さんと握手してる上に被せる様に手を置く小五郎さんは俺に向ってウインクした
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
五月、雫はそれぞれ鳥居スタッフサービスと蜂須賀クリニックとプリントされた車の後部座席に乗り込むと車の窓を開け
「進!東京で待ってるから!」
「はやく終わらせて戻ってくてね、カレー作って待ってる・・・」
「ああ、二人とも・・・待っててくれ・・すぐに戻るよ」
二人は悲しそうな顔をしながらも笑顔で手を振り笹本ホテルを後にした・・・
「・・・紅」
「はっ」
紅は俺の背後で俺に向って膝をついて頭を下げる
「決行は3日後だ・・・そこでオロチと再び会話を試みる・・・それ以降は目的を達成するまでこの地に戻る事は無い」
「解っております」
「・・・・紅・・・この地で父の封印された富士の火口で待っていてもいいんだよ?」
俺の言葉に紅は黙って首を横に振る
「それは旦那様のご命令であっても聞けません・・・私の身と心は旦那様に捧げると誓いました」
「龍の誓いか・・・」
「その通りです、竜族にとっての誓いは神聖にて不可侵・・・私が旦那様に嫁ぐ事を父上にお願いしたのはその覚悟を以っての誓いです」
「解った・・・もう言わない・・・すまなかったな」
「いえ・・・」
俺は紅にオロチとの対話に必要な物を再度確認して手分けして集める事にした・・・
封印されたオロチと一時的にとは言え意思疎通する為には今オロチに施されている結界の内側に入る必要がある
その上で対話終了後に結界より抜け出す必要がある
まず結界の内側に入る為に必要な親水と呼ばれる水・・・これは以前星奈さんと由利さんに連れて行ってもらった「白糸の滝」の上流にある湧き水の事らしい
もひとつは、妖馬の鬣(ようばのたてがみ)と呼ばれる魔物からのドロップアイテム、これは富士の樹海の中に生息するケルピーという馬の様な魔物を倒した際に稀にドロップするレアアイテムだ
そして後一つが・・・オロチの牙だ
これが一番の難題である・・・とうのオロチ自体が封印の中に居り牙を採取しようが無い・・・
「とにかく出来る事はやり切るのみだ・・・」
俺は決意を新たにし、此方を真剣な表情で見つめる紅の頭を撫で微笑む