〇笹本リゾートホテル 1F祝賀会会場
相変わらず目の前では五月と雫、それと美月さんと雪菜さんが恋バナと俺の事を面白可笑しく話しており終始和やかな雰囲気だ
傑さんも会話に混ぜて貰えず会話の端々で愛想笑いしながらお酒をチビチビと口に運んでいる
「・・・龍道様・・・犬飼会長がお話した事があるとの事です別室に席を用意しましたので、どうかお越し下さい」
会場のスタッフらしき男性が俺の元に腰を屈めながら寄って来て犬飼会長からの伝言を伝えて来た
「え?僕一人でですか?」
「はい・・・出来ましたら・・・」
「ダメよ、すすむん私達も行くから」
「そうよ水臭いじゃない」
いつの間にか会話の輪から外れて俺の傍に立っていた五月と雫が腕を組みスタッフの方を睨み付ける
「わ、解りました、お二人もご同行願います・・・」
俺は未だに二人で話が盛り上がってる美月さんと雪菜さんをそっとしておき、傑さんに犬飼会長に呼ばれて席を外す事に断りを入れスタッフの後について会場を後にした
案内された部屋は会場の横にあるスタッフの控室だった
「ここですか?」
「・・・・・・・」
スタッフの人は無言でドアの前で頭を下げてそれ以上は何も言わない・・・
コンコン♪
『進君入りなさい』
ドアの向うから犬飼会長の威厳に満ちた声が聞こえる
「失礼します・・・・」
部屋に入ると先程の明るい会場のせいなのか少し薄暗く感じる部屋だった、周囲に目を凝らすと丸い小さなテーブルの奥に犬飼会長が杖をついて座っている
「真理恵さん?」
犬飼会長の後ろに立っていた真理恵さんは何時になく緊張した様子で俺たちに頭を下げる
「悪いなこんな所に呼び出して」
逆光で犬飼会長の表情がよく確認できない・・・と言うのも背後の大型テレビの電源が入っていて白い画面が映っていた
「いえ・・・僕に何かお話でも・・?」
「うむ・・・厳密に言うと儂ではないがな・・・」
そう言うと背後のスクリーンが切り替わり・・・・・
「上様・・・彼が龍道君でその後ろに居るのが鳥居の娘と総司の孫娘で御座います」
犬飼会長と真理恵さんは背後に映し出された人物に深々と頭を下げ俺達の事を紹介する・・・
「進君・・・礼を尽くしなさい・・・失礼の無いように」
唖然として立ち尽くす俺にそう声を掛ける犬飼会長のただならぬ緊張感の籠った声に慌てて頭を下げる俺達・・・
『源蔵・・・堅苦しい挨拶は抜きでよいよ・・・この場は私の望んだ場だ』
「御意」
目の前に映し出された人物の陰からは画面越しからも判る程の神々しさを感じる・・・いったい何者だろ・・・
「は、初めてお目にかかります・・・龍道進と申します・・」
「鳥居 五月です」「蜂須賀 雫です」
『うむ・・・私は
「え?あ、は、はい・・・壮健に御座います・・・」
『それは
《ドラゴンロードのスキルで精神操作をジャミングします》
《エラー168 精神操作を完全にジャミング出来ませんでした》
《エラー168 完全にジャミングするにはステージ3の権限が必要です・解除するには権限者によるアクセスが必要です、詳しくは権限者へ問い合わせ願います》
(!?またあの声・・ジャミングが出来ない?次のステージに?)
画面に映し出された綾小路さんが声を発した瞬間に部屋中がただならぬ空気に変わった気がした・・・
「あ、あの・・・その前に綾小路さんは・・・」
俺は恐る恐る画面越しに映る人物に何者か尋ねようとしたが・・・何故か喉元が詰まったみたいに言葉が出ない・・
『ハハハ、許せこれも我がスキルによるものだ、我が天命より授かりしタレントは【神の使い】』
そう綾小路さんが話した瞬間、面越しの綾小路さんの背中に羽の様な影が現れる
「上様・・・綾小路様はこの世界に3人しか居ない超級職のタレントをお持ちの超越者であらせられる・・・」
犬飼会長が俺の質問に低い声で答える・・・犬飼会長程の人が緊張で若干声が震えてる
それだけで綾小路と名乗った人物が想像を絶する力の持ち主で有ることが判る・・・それにしても神の使いか・・・
『と言う訳だ、我がタレント神の使いは戦闘系では無いのだが精神系のゴッドスキルを有していてな、こうして声を発するだけで聴いた相手を委縮させてしまうのだよ』
確かに背後に控える五月も雫も、犬飼会長の横に立つ真理恵さんも先程から全く声を発してない・・・いや声を出せないのか?
『ふむ・・・しかし君には効果が薄い様だ・・・ますます興味深いな・・』
「・・・・魔族の事についてでしたよね」
『あ、ああそうだな詳しく頼む』
「私の戦った魔族は神の定めた禁忌を犯し竜族の血を強引に摂取しデモ・パンデモニウムという新たな力を得ました」
『神の定めた禁忌・・・それは三柱神の誓いの事だな』
「はい、恐らくですが人神にのみ許された超越者を魔族の中で作為的に生み出そうとしてるのでは無いかと推測します」
『竜族の不滅の命、魔族の無限の魔力、人族の成長する力、それらを全て魔族が手に入れようとしてるのか・・・』
「はい・・・魔族が何を狙ってそんな事をしているかまでは分かりませんが・・・」
『魔族の狙いが解らないがそこまで力を求める所以は・・・新世紀変異(ニュージェネシスミュータント)』
「新世紀変異?聞いたことない言葉です」
『ふむ・・・今詳しく話す事は出来ない・・・が、君は以前東京のハンター支店で
魔笊・・・確か支店で戦った人狼が口にしていた魔物に別世界の人間の魂を憑依させる魔族の秘儀の事だよな・・・
『もしも・・・もしもだが、それを魔物では無く竜族や人間の身体で行ったら?』
「!?」
『そうだ・・・恐らく世界は混乱・・・カオスに陥るだろう・・昨日まで友人・家族・・・そして恋人だった者が急に別人になってしまうそんな世界が訪れるとしたら?』
「しかも
『ふむ・・・・我がスキルでの未来視ではそこまで先の未来は見通せぬ・・・が・・・』
『源蔵』
「はっ・・・・」
綾小路さんからの音声が急に聞こえなくなった・・・・しかし犬飼会長は時折頭を下げたりして頷いている
(綾小路さんと犬飼会長が思考で直接会話してるぽい、これも神の使いの精神操作系のスキルなのかな?)
俺の記憶の中の神の使いという職業は超級職で勇者の次にクラスチェンジした職業だ
ドラゴンロードのゲームの世界での神の使いは強力な魔法耐性と状態異常の無効化・・・それと専用スキルにゴッドスキルというスキルが使える
ゴッドスキルは仲間の能力向上、敵の能力低下がメインのスキルだ・・・ただ俺がゲームプレイしてるスタイルが序盤で永遠とレベル上げ・・・だったので、最初から仲間はおらずソロでの戦闘だったので、戦闘含めフィールドでもゴッドスキルを使った記憶は殆ど無い
その恩恵を感じる事無く、クラスチェンジ必須職である呪術師の魔法と忍者から継承した忍術で戦っていた記憶しかない
「・・・・待たせたね・・・上様からのご指示だ・・・」
俺たちはゴクリと唾を飲み込み犬飼会長の次の言葉に固唾を飲み身構える・・・・
「龍道 進君・・・・本日をもって君の東京からの追放処置を解除する・・・・そして」
「魔都への侵入調査及び・・・・・北の大陸にいらっしゃる残りの超級職の超越者のお二方への目通りを実現し、この度の魔族の不穏な動きへの対処協力要請の交渉使者の任を命ずる」