〇富士の樹海前 防衛戦中央 防衛前線
進達が魔族を退け富士山の山頂火口から脱出した後・・・
場面は変わり、富士の樹海前 最終防衛線中央部隊
「総司令!!」
中央部隊で鬼神の如く魔物を切り倒している源蔵の元に伝令が駆け付ける
「報告します!!右翼部隊、敵のスタンピートが沈静化、残敵掃討しつつ中央部隊と合流するとの事です!!」
伝令はそれだけ伝えると隠密スキルで姿を隠しながら戦場へと消えて行った
「師匠!?もしかして!!」
伝令の言葉を聞いていた岩城が源蔵の元に駆けよる
「岩城、まだ敵はかなりの数、残っている気を緩めるな」
「あははは、ですな・・・では師匠ご武運を!!」
岩城は斧を振り回しながら、モンスターの溢れるただ中に突入して行った
「・・・・坂野、岩城の世話を頼む」
「はぁ~畏まりました、でも、それも、もう終わりの様ですね」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
暫くすると、坂野の言葉通りになる・・・時を置かずして十文字達の右翼部隊が合流して中央部隊が騒がしくなる
「犬飼師匠!!十文字 南斗 今から師匠の援護に入ります!!」
十文字の纏う白銀の鎧は魔物の返り血で真っ赤に染まっていた・・・顔も髪も泥だらけで細かい切り傷も見受けられるが、その表情には達成感を感じる
「良かろう・・・此処は十文字に任せる」
源蔵は中央部隊と右翼部隊の混成部隊を十文字に託し、自らは仮設の司令部があるテントに帰還する
「犬飼司令、お疲れ様です」
出迎えた真理恵が源蔵に向って頭を下げ司令官の席を軽く後ろに引く
源蔵は杖を支えに席に座ると、仕込み杖から愛刀の神刀滅却を抜き出し刀身を見つめる・・・・・
神刀滅却は美しい裏刃紋の刃先に所々刃こぼれがしていた
「お前にも無理をさせたな・・・」
犬飼新陰流の師にして源蔵の父から50年前に免許皆伝と共に受け継ぎ、長きに渡り一緒に戦場を駆け巡った相棒
「フフフ、儂もお前もすっかりロートル・・・儂も腰に来てしまったわい、歳には勝てぬな・・」
源蔵の語り掛けに、愛刀の刃口は静かに輝き答える
「総司令おしぼりとお茶です」
おしぼりとお茶をお盆に用意して差し出す真理恵
「ああ、有難う真理恵・・・しかし、どうやら彼はやり遂げてくれた様だ・・・お前の男を見る目は確かだな」
「!?御爺様!!っ、いえ・・失礼しました総司令、公務中です私的な発言はご遠慮下さい」
真理恵の動揺した姿を見て苦笑しながらお茶を口にする・・・
「ふむ・・・どうやら傑の方の左翼もケリがついた様だ・・・」
源蔵の言葉にテントから出て左翼部隊の戦場であろう左の崖付近の森を双眼鏡で確認する真理恵
「砂塵が舞い上がって確認出来ませんが・・・」
「ふふふ」
しかし源蔵は確信した様に静かに笑いながらお茶を飲み干した・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
その日の夕刻・・・富士樹海前 仮設司令部テントにて
「皆の働きにより、空前の規模のスタンピードを防ぎきる事が出来た!!この地に住む全ての住人になり替わり礼を言う」
「有難う!!そして一人も失う事無く生還できた事、本当にめでたい!!」
「そして・・・・・・」
その場に居る全員が源蔵の視線の先に居る人物に集中する
「見事、竜王オロチを倒し復活を阻止した、龍道 進君と鳥居 五月くん、蜂須賀 雫くん、熊井 星奈くん、笹本 由利くんの偉業を称えたい!!」
「うぉぉぉぉ!!」「やったなぁ!兄ちゃん!!」「お嬢さんたちも良くやった!!」
パチパチパチパチ
テント内の全員、それとテント内に入れなかった他のメンバー全員が5人に向って拍手を送る、みんな疲れを吹き飛ばす様な笑顔で俺たちを称えてくれた
そんな皆を見渡しなが源蔵は静かに微笑むと
「今日は皆疲労が溜まっていると思う、笹本ホテルのご厚意で全館貸し切りにしてもらってるので、ゆっくり体を休めて明日、祝賀会を催したい」
「「「おおおおおおお」」」
「それでは本日は皆ご苦労!!」
赤く染まった夕日も富士山の山肌に隠れ、辺りはすっかり暗くなってしまった・・・
荘厳な富士の山は、オロチとザビーネとの壮絶な戦いの末、その山頂の一部を削り取られ、かつて浮世絵の世界観で描かれた神秘的な姿を失ってしまった
しかし、その背後に真っ赤な夕日を背負いこの国の象徴たる神山だと今もなお主張する
俺はその山の頂に自身の身体を岩に変え、父としての誇りに生きた気高き竜王の姿を見た・・・そして誓う
「オロチ・・・必ずお前に娘との時間を取り戻してやる・・・少しだけそこで休んでいてくれ」
俺は振り返り富士山に背をむけ、俺を待っている二人の元に向って歩み出す・・・・
こうして、前代未聞のオロチの復活に端を発し日本初の大規模な魔物のスタンピードを起こした、第二次富士防衛戦は人類側の勝利に終わった
しかし、その中でも失った物が有る事を知る人達は、勝利の余韻に酔いしれる者達とは別の想いを胸に、次なる目的に向って決意を固めるのであった
第二章 第二次富士防衛戦 完