〇富士山山頂 火口付近
俺は、由利さんに埋め込まれた死の肉腫を取り除く為、満身創痍のザビーネに向け留めの一撃を打ち込むべくエンチャットした木の棒を振りかぶり上空に飛び上がった
【ゼル・ウルベリア・メギド・ネシア(魔道の王命にて黒星雲の滾りを黒き雷の槍とし化し彼の地を焦土せん)】
上空で木の棒を振りかぶる俺に向って、何処からか聞こえてきた闇魔法の詠唱と共に黒い雷が降り注ぐ
「なっ!!このぉぉ!!」
バチィィィ!!キィィィン
直撃を避けるため黒い雷に向ってエンチャットした木の棒を振り抜きぶつける・・・黒い雷とエンチャットした木の棒が衝突した衝撃で電気を纏った火花が飛び散り周囲の空気がオゾン化して異臭を放ち空気が切り割かれる様な音が鳴り響く
「きゃあぁぁ耳がぁぁ」「鼓膜がぁぁぁ」「ひぃぃぃ父上ェェ」
耳を押さえ地面に蹲る五月達・・・
俺は衝撃派で地面に向って弾き飛ばされ思いっきり叩きつけられる、背中に強い衝撃が走り息が出来なくなる
【ザビーネ・・・ここは引け】
「!?なっ待って!!私は未だ・・・【今は良い・・引け】・・・・はい・・畏まりました・・」
ザビーネは悔しそうに唇を噛みながら俺の方を睨みながら残ってる左手を俺に見せつける・・・その手にはオロチの首の内の一つが握られていた
「今回は此れが目的だから、今回はこれで引いてあげる・・・・私に会いたいならこの国の北にある大陸の半島・・・魔族の都・・魔都に来い・・」
「そうしたら今度こそ、その首を引きちぎってやる!!」
ザビーネはそう言い残し背後の黒い渦の中に消えて行った・・・・
「・・・ま・・・まて・・・に・・にげ・・・くそぉぉぉ!!」
まだ上手く体が動かない・・・手を伸ばしザビーネの消えた空間に向って詰まる呼吸のなか空しく俺の声が消えていく・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
五月と雫が俺の元に駆けつけ身体を気遣ってくれたが、大丈夫だからと断りオロチと由利さんの方を診てくれと頼んでおく
オロチと由利さんの事が心配だったのもあるが・・・・・
(さっきのザビーネと戦っていた俺・・・・あの高揚感・・・ザビーネの身体を破壊していた時の心が震える様な興奮・・)
これが、狭間の世界で二人が言っていた第一フェーズに移行した時の危険性なのだろうか?
自分の手を見ると震えているのが解る・・・自分で自分の事が解らないそれがどうしようもなく怖い
「進様・・・その・・・父が・・お話させて頂きたいと・・」
背中越しに声を掛けて来たのは、ピンクの前髪の隙間から不安に揺れる赤い瞳を潤ませている紅だった・・
「あ、ああオロチは・・大丈夫そうか?」
俺の言葉に表情が陰る紅
「体の方は治療して頂けて・・・・なんとか・・しかし」
言いにくそうにしてる紅の頭をポンポンと軽く叩き、立ち上がると雫に治癒してもらって元の筋肉質な大男の姿に戻っているオロチの元に向う
「オロチ・・無事か?」
「おお、主様・・ご心配をおかけしました」
振り返るオロチ・・・・・・・
「オロチ!?その右目は!?」
オロチの右目のある部分は不自然に空洞になっており浅黒い空間が広がっていた・・・
「お恥ずかしい限りです・・・あの女・・ザビーネに持って行かれた肉体の一部が復元出来なくてこの様な有様に、お見苦しい姿を御見せして申し訳御座いません」
俺は雫の方を向くと、雫は苦い表情のまま静かに首を振る
「奥方様のせいでは御座いません、恐らく魔族に奪われた体の一部が戻らない内はどんな治療も効果は無いと思います」
「そうか・・・・俺が取り逃がしたせいで・・・本当に申し訳ない・・」
オロチは俺の背後で俯いたまま立ち尽くす紅の方を見て
「主様、少し娘と二人にさせていただけないでしょうか?少し話をしたいもので」
俺と雫は黙って頷きオロチと紅をその場に残し、五月と目を覚ました星奈さんが様子を見てる由利さんの元に雫と向かった・・
由利さんの周りに展開していた聖域結界は雫によって既に解除されており、地面に突き刺さった布津御霊からの力場は停止している
「五月・・・由利さんの様子は?」
由利さんを抱き起している五月に声を掛ける・・・・
「・・・・進君・・・」