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第76話 夜空の月が導く未来

〇笹本リゾートホテル  30Fレストラン


「やっぱり・・・・ダメでしたか・・・星奈さんでも」


「ええ、御免なさいね折角、進がバイト代で御馳走してくれると言ってくれたのに・・・由利たら話も聞いてくれなくて・・」


「全く、進が御馳走なんて年に1回あるかないかってイベントなのにね!」


「全くねぇ人の旦那が折角、お情けで、仕方く、嫌々誘ってあげたって言うのに~ねぇすすむん♡」


「ちょっ!?俺そんな事思ってないよぉぉ!」


俺たちは2日前に起こった黒原邸の事での慰労会と称しバイト代が入ったので俺が奢るからと五月と雫、星奈さんと由利さんを呼んで、ささやかな食事会を手配していたが


俺が連絡するも、由利さんからの返事は無く仕方なく星奈さんにお願いしたが結果は惨敗だった


「しかし・・・いくらショックだったとしても・・・由利どうしちゃったのかしら?」


自分のせいで責任を感じて遠慮してると星奈さんは思っているらしい、確かに星奈さんは一歩間違えば危うかったがそもそも由利さんは操られてた訳だし・・・


「時間が解決する事もあるでしょうし・・・由利さんの事はご家族に任せるしか無さそうですね・・」


「それより・・・ここのレストランて・・・」


五月はレストランの内装を見渡しながら俺の方を向き直り心配そうに俺の顔を覗き込む・・・


「ああ、慎吾さんが働いていた店だよ・・・慎吾さんの作る料理・・・食べたかったな・・」


俺たちはウエイターに飲み物を頼み、全員同じコース料理を頼んだ


ウエーターが飲み物をワゴンで持ってくる・・・


「お待たせしました」


「!?」


「・・・・先日は、失礼しました・・・」


なんとウエイターとして飲み物を持ってきてくれたのは、麻美さんだった


「あ、麻美さん!?どうしてここに!?」


エプロンの裾を少し摘まんで俯き気味に俺の質問に答える


「兄の・・・兄の働いていた所で兄の見ていた景色を見て兄が何を想って生きて来たのか・・・自分の目で心で知ることが私を命がけで守ってくれた兄に向き合う一番の近道だと思いまして・・」


「麻美さん・・・」


「なんて~今日から働き出した見習い中の見習いなんですけどね~」


麻美さんは笑顔でそう答えてくれた、その笑顔はまだぎこちなく彼女本来の物では無いとは思うがそれでも彼女は前に進もうと必死にもがいているのだ


「守るべき大事がまた一つ増えたな・・・・」


「??龍道さん何か仰いました?」


俺の呟きに麻美さんはキョトンとして星奈さんは首を傾げているが、五月と雫は目を瞑ってジュースを飲みながら小さく笑っていた


それからコース料理が次々と運び込まれてくる、笹本さんに御馳走してもらった様な最上級のコースでは無いがどれも美味しかった


「ふふ、わたしこのコンソメスープ気に入ったわ~こんどすすむんにも作ってあげるねぇ~♡」


「へぇぇ見かけによらないのね?雫は家庭的な事とは無縁な雰囲気なのにね・・・意外」


星奈さんの評価に少しだけ気分を良くしたのか澄ました顔でジュースを飲み干す雫


「わ、私だって・・ほら!このサラダなら!!」


五月の必死な抵抗を冷ややかな目でみてる星奈さんは


「五月は・・・まぁ期待を裏切らないわね」


「ちょっと!?星奈さんも雫も失礼じゃない!!!ねぇ進もなんか言ってやってよ!!」


おれは興奮して席を立ちあがった五月の肩を押さえ席に着かせると


「お、俺は五月の料理食べてみたいなぁぁぁ」


「!?本当!?ふふふ良いわよ~沢山作ってあげるから!私ハンバーグとか得意なのよね」


「おお~俺、ハンバーグ大好きだよ!楽しみだ」


そんな俺の横で雫が呟く


「・・・すすむん・・心配しないで状態異常回復も使えるようになってるから・・・死ぬような事にならない様にするわ・・」


「・・・・・・・・・うそ・・」


「・・・・・・・・・マジ・・」



「ぷっ・・・アハハ、アンタら3人本当にお似合いっていうか、無敵だわぁアハハハハ」


「ちょっと!!女狐あんた失礼じゃない!!進もほら!!何か言って・・て・・星奈・・」


「アハハハハって・・あれ?なんか笑いすぎたのかしら?・・・泣けてきちゃった・・・」


星奈さんの瞳にうっすら涙が零れる・・・


「・・・・・すすむん・・少し席を外してくれる?すこし女同士で話したいの・・・そうねぇ15分位時間を潰してきてくれる?」


五月の方を見ると黙って頷いていた・・・


「あ、そうだなぁ俺まだこのホテルの最上階の展望室見たこと無かったんだぁぁちょっと見てこようかなぁぁ」


そういうと席を立ち少し席を外すと店員に伝え、エレベーターで展望室に向った



〇笹本リゾートホテル  展望室


エレベーターホールから出るとそこは全面ガラス張りの広い部屋だった、人の姿は無く貸し切り状態だった・・それにしてもホテルの宿泊客が殆ど居なくなった、チェックアウトする人は居るがチックインする人が全く居ない・・本当に五月と雫しか宿泊客が居ない様だ・・・


俺は展望室で一番見晴らしの良さそうな窓から外を見渡す・・・・こちらからは薄っすら月明かりで海面の揺らめきが見えるオーシャンビューだった夜の海は少し不気味で少しだけ落ち着く・・・


魔族の女・・・ザビーネ・・・この地に再び混沌を巻き起こそうとしてる・・・決して許す訳にはいかない・・・


そしてザビーネが復活させようとしてるオロチ・・・あれから一度も声が聞こえない・・封印が解けかかっているからか?それともザビーネが失敗したのか?


「後者なら一番いいんだがな・・・」


そうは行かない事は俺の直感が告げてる・・・それに少なくない犠牲が出ている・・・慎吾さん・・時夜さん・・・それ以外にもザビーネの策略により多くの人が本来掴むべき幸せを不当に奪われた事だろう・・・


失った時間も想いも命も元には戻らない・・・だから人は人を思いやり限りある時間を必死で生きるのだろう・・・人より遥かに長い時間を生きる魔族や竜族とは根本的に感覚が違うのだ


この気持ちが、素晴らしさが、伝える事が出来るなら魔族や竜族とも手を取り合い生きて行けるのだろうか?


ふと展望台の時計を見ると約束の15分を過ぎようとしていた


「そろそろ戻るか・・・・」


俺は展望台のエレベーターの下降ボタンを押し振り返る・・・夜空に浮かぶ月が怪しく光って見えたのは俺の不安な心の現れか?


ピィン♪


エレベーターが到着しドアが開くと眩しい光が零れ俺の身体に降り注ぐ、エレベータに乗るとレストランのある30Fのボタンを押し閉じるドアの向うに見える優しい光を携える月を眺めながら気持ちを切り替えた












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