〇笹本リゾートホテル 住み込み用の社員部屋
ピンポン~♪
立花さんの家から帰ってきてシャワーを浴び一息ついていると、部屋のインターフォンが鳴る、ドアカメラを確認すると五月と雫が笑顔で小さく手を振っていた
俺は玄関を開けると、パンパンに膨れたコンビニの袋を手に俺の部屋に入ってきた
「お邪魔しま~す」「あら意外と良いじゃない」
二人は俺の部屋をキョロキョロ見渡しダイニングテーブルへコンビニ袋を置くと中の惣菜とジュース、それと大量のお菓子を取り出していた
「あはっ、鰐淵さんに進の事を話したら沢山おまけしてくれたわ」
「そういう事ぉ~あっコップ借りるねぇ~」
雫は3人分のコップを並べるとジュースを注いだ
「それじゃ、結構時間経っちゃったけど、すすむんとの再会とお互いの無事を祝ってぇぇ乾杯ぃ~」
「「乾杯~」」
3人でグラスを合わせジュースで喉を潤す
「本当に無事で何よりね、一時はどうなるかと思ったわ」
「ホント、進と一緒だと人生退屈しないわ」
「いや・・・今回は本当に二人に助けて貰ったよ・・・暫く見ない間に逞しくなったんじゃないか?」
二人は顔を見合わせて苦笑した
「フフフ、その事も話さないとね」
「そうねぇ~すすむんビックリしちゃうかもねぇ~」
しかしコップをテーブルに置くと雫は真剣な表情で俺を真っ直ぐ見つめると
「すすむん・・・あの魔族の女を追って富士山に行くのね・・・・」
「!?・・・ああ・・・このままにしては置けない・・それと俺も二人に話があるんだ・・・」
俺は犬飼総支部長に話した内容を二人にも話した
「・・・そう・・・進のその力はゲーム中で培ったキャラクターの能力だったのね・・」
「二人とも・・・俺の話を・・・」
「信じるに決まってるでしょ?ねぇ雫」
「ええ、すすむん、実はね私らも頭の中に聞きなれない声が聞こえる様になったの・・・それで私ら二人はその声に導かれて・・・」
二人は顔を見合わせ頷くと
「私は呪術師に・・・」
「私は賢者に、それぞれクラスチェンジしたの」
「えええええええっ!!!」二人の話に驚く俺を
「まぁまぁ落ち着て・・驚くのは此れからなの」
「私と雫にはヒロインの固有スキルというのが使える様になったの」
そういえば地下室でザビーネを追い込んだ呪文とスキル・・・あれは確かにこの世界の呪文やスキルでは無かった・・
「それって・・・魔族に使ってた・・?」
二人はゆっくり頷く
「そっか・・・二人にも何か特異な事が起こってるのか・・・もしかして俺と関わったからなのか・・・」
「ふふ、かもしれないけど私らはこの力を授かって嬉しかったの」
「え?」
「だって、これですすむんと同じ道を一緒に歩めるでしょ?なぁ~んて言ったら惚れちゃう?」
・・・・・・・・・・
「え?ちょっと、やだぁ何を泣いてんのよぉぉ」
「え?・・・・泣いてる・・・俺が?」
自分の頬を手で触ると指先に雫が触れる・・・そうか・・俺・・・一人じゃ無かったんだ・・こんな素敵な二人に・・
二人に静かに頭を下げる
「ちょっと!」
「止めてよ、すすむん・・」
「有難う・・五月・・雫・・二人とも俺に付いてきてくれるか?」
「はぁ?当然でしょ?」
「ええ当然ね」
「・・・・・ぷっ・・・ふふ・・あはははは」
「ふふふ・・・「「あははははは」」
暫く3人で笑い合ったあと俺は紡ぐように話を始める
「俺・・さっき立花さんの家に行って来たよ・・・」
俺の事を真っ直ぐ見つめて二人は黙って俺の話を聞いている、俺は天井を見つめながら紡ぐ様に話を続ける
「立花さん・・・慎吾さんは最後に妹さんを家族を守って死んだ・・・慎吾さんは俺に言ったんだ・・」
『大事な物は何が何でも守り抜け』
「慎吾さんは、きっと大事な物を守り抜いたんだと思う・・・でも・・・残された人たちには後悔しか残らない・・・もはや償う事も謝る事も出来ない」
「死んだら・・・例え大事な人を守れても後から残るのは深い悲しみだけだって・・判ったんだ・・」
「失った命も時間も戻らない・・人は過去には戻れない・・そんな失意の気持ちを抱え残された者は、そんな思いを抱え前に進まなきゃいけない」
「そして俺は思った・・・俺は失った物の大きさに見合うだけの何かを成せるのか?と・・」
沈黙していた雫が口を開く
「だから・・・行くのね・・・」
「ああ、すべては繋がりだと思う・・慎吾さんが身をもって示してくれた・・・立花さんの家族が俺に気づかせてくれた・・そして五月と雫が覚ましてくれた・・」
俺の手に五月と雫が自分の手をそっと重ねる
「俺は何かを成す為に此処にいる・・・俯いていられない・・熊井旅館の皆、笹本ホテルの皆、富士宮焼きそば屋の皆・・・この地に住む皆・・皆に大事な人がいて皆が大事な人なんだ」
「俺はそんな大事を守りたい・・・」
「うん進なら出来るよ」
「そうよ、なんたって最高のヒロインが二人も居るんだからね♡」
二人は席を立ち俺の左右に寄ってくるとそっと二人は俺の頬に口づけをする
「!?・・さ、五月!?雫も!?」
「ふふ・・ヒロインからの愛の祝福よ」
「あはっ私は唇でも良かったんだけどなぁ~♡すすむは私らの旦那様なんだからね」
俺は二人を抱きしめ、恥も外聞も無く泣いた・・・だがこれは悲しみの涙ではない・・・誰かに必要とされる喜びを知った嬉しさの涙だから