〇熱海警察署 取調室
俺は警官から電話が繋がっていると言われ受話器を渡され恐る恐る電話口に出る
「もしもし・・・お電話変わりました・・龍道です・・・」
『久しいな・・・犬飼 源蔵だ・・・・』
電話口には真理恵さんの祖父でハンター協会の総支部長 犬飼会長だった
「お、お久しぶりです・・・」
『先ほど協会本部にそちらの警察署署長より電話があり儂が直接報告を受け今君に電話してる・・概要は聞いたが君から直接聞きたい』
俺は源蔵さんから言われ目の前に居る事情聴取をしていた警官と電話を替わると、警官は緊張した様子でその場で直立し空中に向って何度も頭を下げ「はい、はい」と受け答えると再び俺に受話器を預け、机の上の録音機や天井の監視カメラを全て停止し同聴人を伴い取調室を出て行った
『人払いは済ませた・・・では君からの話を聞こうか』
「はい、まず結論から申しますと、近いうちにこの地で魔物のスタンピード(氾濫)が発生します、またその原因とも言うべき富士山に封印されたオロチも復活します」
『・・・・・・それは報告にあった魔族の女・・・ザビーネ・ヴィレと名乗ったらしいが、その魔族が齎した情報か?』
「その通りです・・・そして・・・オロチの件ですが・・・実は俺がこの地に来て直ぐに頭の中に声が聞こえてきて、それが後になってオロチの声であると・・・」
『ふむ・・何故君にそんな声が聞こえたのか・・・何か心当たりがあるか?』
(もう隠しておいても仕方ない・・・信じて貰えないのであればそれもよし)俺は覚悟を決め源蔵に自分の事を正直に話す
「俺はこの世界の龍道 進であると同時に別の世界の龍道 進でもあります」
『ふむ・・・その話は真理恵から聞いてる・・俄かには信じ難い話だが今まで起こってる特異な現象から察するに本当の事と認識するしか無さそうだ』
「そう・・・ここまでが皆さんに説明した俺の素性です・・しかし俺の中にはもう一人・・と言うべきなのか分かりませんが・・・存在してます」
『ほう・・・また別の世界の龍道 進と言う事かな?』
「・・・・・ある意味でそうかも知れませんがもう一人の俺は、俺がテレビゲームの中で遊んでいたキャラクターです」
『ゲーム?・・それは又奇妙な話だな・・・』
「そうですね俺もそう思いますし今でも思ってます・・・しかし現実的に俺の持つ力はそれが事実であると裏付けてます」
『力?君のあの超常的な力か?私はてっきり別の世界の龍道 進君の力だと思っていたが‥違うのか?』
「はい・・・ゲームの中ですすむんと名付けたキャラクターを前の世界の龍道 進は限界まで強くしました、そしてその世界で最強の職業ドラゴン ロードすらも極めてしまった」
『・・・つまり君のその力はゲーム中で研鑽されたキャラクターの持つポテンシャルであると・・・そして最強の職業 ドラゴン ロード・・か・・・ドラゴンつまり竜の主・・』
「申し訳ありません、こればかりは証明する物はなにもありません・・・・・しかしオロチからは俺を忌避する様な言葉を掛けられました」
『ふむ・・・今の君の話は俄かに信じられないし、そもそもドラゴン ロードという職業は聞いたこともない・・・超級と言われる世界に3人しか居ない方々も勇者・法王・神の使いとオリジナルの職業に就かれておられる、もしかしたら君の職業判定で出たDニュートという新職業も本当ならドラゴン ロードと表示するべき所がコンピューターが処理しきれなかったのかもしれないな』
「総支部長・・・僕は富士の火口に向おうと思います」
『・・・・・何をする気だ?』
「黒原邸の地下から逃げた魔族の女は富士の火口で待つと言っていました、そしてオロチの声がここ最近聞こえなくなったのも気になります・・・」
『行ってどうする・・・魔族の女と戦いオロチを再び封印するか?』
「解りません・・・でもこのまま待っていても何れ魔物が氾濫しオロチにより再びこの地が蹂躙されるだけです・・・俺はこの地を・・この地に住まう人々を守りたいんです」
『なるほど・・・お前を彼の地に送り込む様に指示された方の思惑は此処にあったと言うわけか・・・』
(・・・いったい誰の事を言っているんだ?)
『君の話は理解した、どうやら未曽有の危機が近づいている事に間違い無さそうだ・・・我々も準備して静岡に入る・・5日・・いや3日は行動を起こさずそこで待機だ、いいな』
「・・・・解りました・・それまでに此方でも情報を整理して準備を整えます・・・それに・・先の魔族との戦闘で数名の方が命を落とされてます」
『君が気に病む事では無いと思うがな・・・報告だけ見れば黒原 時夜とそれに加担していた者達は自業自得とも思えるが・・・でも確かに犠牲になった者が居るのは事実だな君の思う様に・・・』
「はい・・・有難う御座います、この件で自分に何が出来るのか・・・自分が何をしなきゃいけないのか・・向き合ってみようと思います」
『そうか・・・・・では3日後に合流するとしよう』
それだけ言うと通話は切れた・・・・おれは受話器を握ったまま暫くその場に立ち尽くす
自分が何をしなきゃいけないか・・・か・・・それを確かめる為にも富士の火口に行く必要が有りそうだ・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
俺たちはその日の夜には解放された・・・・その日の晩
俺は五月達を笹本ホテルに送り届けると、行くところがあると皆との食事を断り一人外出する、五月は心配そうにしていたが雫は察してくれてる様だった
警察の人にお願いして聞き出した住所をスマホに入力し地図を見ながら歩いて探す・・・
「ここだ・・・・」
恐る恐る呼び鈴を鳴らす・・・・返事は無い・・・・もう一度呼び鈴に指を掛けた時ガチャと玄関のドアが少し開き中年のやつれた女性が顔を覗かす
「・・・何方様でしょう・・・今日は少し立て込んでまして・・・」
「僕は龍道 進と申します・・この度は真に申し訳御座いませんでした!!」
深々と頭を下げ目の前の女性に謝罪する・・・・返事はない・・・がドアから漏れる光が俺の足元まで伸びてきて頭越しに
「どうぞ・・・お入りください・・」
「失礼します・・・・」
玄関で靴を脱ぎ中に入ると狭い2LDKの間取りの奥に簡易的な仏壇と遺骨が入った箱が鎮座してある・・・その横には真っ赤に染まったワンピ―スを握りしめ体育座りで蹲る茶色い髪の女性が居る
「手を・・合わさせて頂いても宜しいですか?」
俺の問いに小さな丸いテーブルの前に座っている痩せている男性が黙って頷く、俺は仏壇の前に正座し手を合わせる
「慎吾さん・・・貴方が俺に教えてくれた事・・・決して無駄にしません」
暫く黙祷したのち、慎吾さんの両親の方へ向き直り土下座する
「この度は・・・息子さんを巻き込んでしまい・・誠に申し訳御座いませんでした」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
「龍道君・・・と言ったかい?息子は・・・妹を・・家族を守って死んだんだ・・・褒めてやってくれ・・・くっ!!」
「うっうう・・・・」
両親が目頭を押さえ涙を拭っていると顔を伏していた麻美さんが目元を真っ赤にした顔で怒鳴る
「何が褒めてってくれよ!!何が家族よ!今更なのよっ!!最初から誰も皆お兄ちゃんを信じてあげられて無かったじゃないっ!!お父さんも!お母さんも!・・・私も・・・」
「それが今更そんな事言われてもお兄ちゃんが浮かばれる訳無いじゃない!!・・・・私達家族は・・・お兄ちゃんを・・・家族を・・・信じられなかった・・・自分を信じてくれない家族をお兄ちゃんは最後まで・・・うっうわぁぁぁぁぁん」
麻美さんは慎吾さんの血に染まったワンピースを握りしめ子供の様に泣き喚いた・・・ご両親も・・・自分の膝の上で拳を握って肩を震わせ泣いていた・・・
この涙は慎吾さんを失った悲しみと、愛する家族を最後まで信じられなかった事への後悔が入り交じった・・・そんな涙なのだろう・・
俺はそんな立花家の皆に玄関先で頭を下げ笹本リゾートホテルに戻ることにした
帰り道・・・外はすっかり真っ暗になっており星々が空に輝く・・・半分に欠けた月の光が淡く地面を照らす
「・・・・俺は果たして失った物に値する何かを成せるのだろうか・・・」