〇黒原邸 地下室
時夜の話を聞き終わり俺たちには沈黙の時間が流れる・・・しかしその沈黙を破るのは麻美さんの悲痛な叫び声だ
「・・・・さない・・・」
「絶対に許さない・・・・この人殺しぃぃ!!」
時夜は自分のしたことに驚きながらも、麻美からの恨みとも憎しみともとれる殺意の籠った眼差しに耐え切れず項垂れる
「時夜・・・・」
星奈さんも声を掛けづらい様だ・・・由利さんは蹲ったまま一言も語ろうとしない・・・
五月は雫とお互い支え合って抱き合いながら俺の横まで来て不安そうに俺の方を見上げる、俺は二人に微笑みながら頷くと時夜の元に向かう
「時夜さん・・・貴方がマミという魔族の女に精神操作されていたとしても、今の話を聞く限り貴方ご自身の意志は貴方の中に存在していた・・・」
「・・・・」
「すべての事件があの魔族の女の仕業では無いと思います・・・」
「ご自身の行動に責任を果たしてください・・・被害にあった方と向き合ってこれから・・・・」
ドガァァ!!
「「「!?」」」」
背後で爆発音と共に黒煙が巻き上がる
「キャハハハ、やってくれるじゃないぃぃ小娘共~さすがの私も危うく消滅するところだったわ」
全員が振り返ると、殆ど裸とも言うべき黒い面積の少ない生地の服を身に纏い漆黒のマントを揺らしさっき倒れたはずのザビーネがその場に立っていた
「そ、その紫の肌は・・・・」
立ち上がり此方を不敵な笑みを浮かべ見ているザビーネの肌は青紫色をしていた、まさに話に聞いていた魔族の姿そのものだった
「まぁこの姿でお目にかかるのは初めてねぇ~それだけお嬢さん方の魔法が強力だったって事だったわけよぉ~本当に痛かったんだからぁ~」
そんな雰囲気などみじんも感じられない・・・
「ま、マミ・・・・お前・・・その姿・・・・」
「ふふ、時夜さん貴方との夫婦ごっこもまぁ退屈しのぎになったわ~人間が不幸のどん底に落ちる姿もわりかし楽しめたし」
「ふっふざけるなぁぁ!!俺を・・俺を騙して」
「あら、それは私のせいでは無いわよね?元々貴方の心の中にあった思いを私がちょっと後押ししただけよ?恨まれる筋合いはないわ」
「!?そ、そんな!!そんな訳ないだろ!!」
「まぁもう良いわ使えない玩具は不要よ?ごみ箱行きね」
「くっ・・・」
俺はザビーネの前に立ちはだかると、その邪眼を睨み付ける
「お前の目的は何だ?なんのために時夜に・・・この町の人たちに危害を加える」
「ふふふ、まぁ目的は教えてあげるわ・・・・もうすぐこの地で富士の樹海からの魔物の氾濫・・・スタンピードが始まる」
「「「「!!!」」」」
「なっ!!!スタンピード!?なんで・・・何故そんな事にぃぃ!!」
「フフフ、簡単な話よ、もうじき富士の樹海の魔素が許容量を超える事になるの、その際にあふれ出す魔物の強さは平常時の比ではない魔素の影響を強めた魔物の強さは・・・・そこのお嬢さんたちは実感してるよね?」
「!?ま、まさか・・・あのコボルドキング・・・ベルセルクと名乗った!?」
「ベルセルク?五月いったい何の事だ?」
「ふふ、まぁ私が直接送り込んだ魔素では無いからネームドになるほどでは無いにしても、スライムが普通にレッドスライムになるくらいはあり得るわね」
「・・・・レッドスライムって普通に中級じゃない・・・これは・・・大変な事になるわ」
「俺がそんな事させない!必ず阻止する!!」
神龍の一撃の体制に入り腰を落とし右拳を腰に構え力を集中させザビーネを威圧すると、ザビーネは目を細めて俺を睨み付ける
「へぇ~とんでもない理力を感じるわね・・・でも残念だけど既に手遅れ」
「どういう事だ・・・・・」
構えを崩さずザビーネを正面に捉えたまま問いただす
「既にオロチの封印は壊したわ、ここで私を殺しても間に合わない・・・オロチと一緒に封印されてた魔素がすでに溢れだしてるわ」
「くっ!」「「「!!!」」」
「あら?貴方オロチの封印が解かれた事を疑わないのね・・・まぁ良いわ私もこの町が魔物とオロチに蹂躙される所を見ずに死ぬのは不本意だから、この場は失礼するわね~♡」
「まっまて!!逃がすか!!」
「じゃ私に逢いたかったら富士山の山頂で待ってるからねぇぇそれじゃ~またね」
ザビーネの背後に出来た黒い空間に身体が吸い込まれる
「あ、そうだぁゴミは処分しとかないとねぇぇ~【ボンッ!!】キャハハハ」
ザビーネは手で弾ける様なしぐさをするとこの場から消えていった
「何だ!?」
「ぎがぁっぁぁぁっぁあ」
背後の時夜が額を押さえ苦しみだす・・・・床に仰向けになり倒れ込むと転がりながらのたうちまわる
「何が!?どうした時夜さ・・・・・!?その額・・・黒子が!?」
時夜さんの額の黒子が不気味に脈打ちながら顔全体に広がり皮膚の表面を侵食し始める・・・既に目の所まで大きくなった黒い肉腫が肥大し不気味に脈打ちながらどんどん大きくなる
「いだぃぃぃ!!助けてくれぇぇ由利ぃぃ星奈ぁぁやだぁぁあ」
「と、時夜!!」
慌てて時夜に駆け寄る星奈さん、肉腫のグロテスクさに恐怖で腰を抜かしてる麻美さん、しかし由利さんが時夜を見る目は冷めきっていて無表情だった
「由利!?回復魔法を!!由利ぃぃ!!」
「何故?何故助けないといけないの?そんなクズ死んだらいいじゃない?」
「ちょっ!?由利!?どうしちゃったの!?」
「龍道 雫の息吹!!」「竜の息吹」
俺と雫のスキルで回復をしようとするが・・・・「ダメだ・・・肉腫が消えない・・・もう時夜さんの身体と一体になってる・・・」
頭は口元を残し黒い肉腫に侵食され既に眼球も肉腫に押し出され剥き出しの無残な状態だ
「時夜さん、しっかりするんだ!!」
「・・・・・おれ・・・・は・・・・どこで・・・」
【ボッン!!】
肉腫は鈍い音だけ残し弾け時夜さんの頭部は跡形もなくなった、俺は五月と雫を抱きしめその光景を見ない様に身体で隠す
星奈さんは腰を抜かして呆然としており、麻美さんはあまりの凄惨な状況に悲鳴を上げ気を失ってしまった
由利さんは静かに立ち上がると、そのまま何も言わずに地下室から出て行った
俺は由利さんの後に続いて地下室から出るように皆に指示し慎吾さんの遺体を抱えると、時夜さんたちの死体をそのままにして地下室を後にした
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・・・・・・・・・・・・・・・
先に出た由利さんが連絡していたのか直ぐに地元の警察が駆け付け地下室の様子を確認すると全員が事情聴取と言う事で警察署に同行する事になる
警察に魔族の事もザビーネの言っていた事も包み隠さず話すと、直ぐに上司と協議すると取調室から出て行った
「お待たせしました・・・・すいません龍道さんと話をしたいと言う方と電話がつながってます」
俺は渡された電話器を耳に当て恐る恐る声をだす
「もしもし・・・お電話変わりました・・龍道です・・・」
「久しいな・・・犬飼 源蔵だ・・・・」