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第51話 由利と星奈と時夜の過ぎ去りし日々

俺達は帰りに寄り道して、焼きそば屋さんで出会った常連さんのお勧め観光名所、白糸の滝に来ていた


ここは特に富士防衛線とは関係ないが、その神秘的な美しさが見る者の心を落ち着かせてくれる


〇白糸の滝



幅約150m、高さ約20mの湾曲した絶壁の全面から、湧き出る富士山の伏流水が大小数百の滝となって流れ落ちる。


その名にふさわしく幾筋もの絹糸をかけたように清冽な水が流れ落ちる様子はどこか女性的な美しさやさしさを感じさせる。


滝壺に近づけば、三方から滝がアーチ状になって迫り、その場に居る者を幻想的な世界へいざなってくれる。


俺達は滝が見える少し開けた場所にシートを敷いてお土産でもらった焼きそばを頂く


「冷めているけど美味しいですね」


「ええ、肉カスを横に固めて避けておいてくれてるから油っぽくないしベチャっとしないでいいね」


「ふふ、進君わたしの肉カスすこしあげるね」


3人は冷めたけど美味しい富士宮焼きそばを堪能しながら目の前の神秘的な滝を見つめていた


「すこし私達の昔話聞いてほしいの」


そう口にした由利さんの表情は冷静でその視線は目の前の白糸の滝を見つめていた、周囲は少し日が陰りうっすらと夕焼けになりかけていた


〇由利の昔語り


由利と星奈、それと時夜は所謂、幼馴染の関係だった


星奈の家は老舗旅館、由利の家はリゾートホテル経営、黒原の家は地元大地主の名士で祖父も父親も県議会議員であった


そんな黒原家からの支援もあり熊井家、笹本家は祖父母の代から家同士の付き合いが強かった


熊井と笹本家の祖父母は富士防衛線で残念ながら亡くなってしまったが、義理固い黒原の祖父は熊井、笹本の家を手厚く支援し家業が絶えぬ様に取り計らったと言う


そんな事もあり由利、星奈、時夜は一緒に遊ぶことが多くなりそれなりに仲は良かったという


状況が変化したのは3人が小学校6年に上がった頃、当時大人しく少し影のあった時夜は一応シーフ (盗賊)のタレントを持っていたが昔から不器用で力も弱く運動神経もあまり良く無かったので授業中にクラスメイトの男の子にイジメられる様になった


その度に星奈と由利が助けに入り時夜を庇ったが、子供の思考は時に残酷で女の子に庇われる時夜は二人の見えないところで更に過激にイジメられる様になった


そんなある日、時夜はクラスのボスで戦士のタレントを持ったイジメの首班格の男の子に呼び出された公園で取り巻きの女の子の目の前で裸にされ笑い者にされていた


聞きつけた由利と星奈がいつも通り時夜を庇う様に前に立ちはだかりイジメの首班の男の子と対峙する


この時既に星奈も由利もそれぞれマジシャンとヒーラーの才能を開花させており、初級程度の呪文は扱えたので難なくイジメのリーダー格を追い払い時夜を救出する事が出来た


その後公園での喧嘩にタレントの魔法やスキルと使用したと近所の住人から学校に苦情が入り、イジメていた連中と星奈、由利、時夜は教師にこっぴどく叱られた


その際も星奈と由利は時夜がイジメられてる事を先生に訴えたがとうの時夜は黙ったままで、イジメを行っていた男の子もそんな事は知らないとしらを切る


職員室から解放され帰宅途中に星奈と由利は時夜に何故いじめの事を先生に告げないのか?と詰め寄るが時夜は「うるさい!」と二人を拒絶し一人先に帰ってしまう


それから時夜は学校に来なくなり不登校のまま小学校を卒業する


そして中学に上がると、星奈と由利は時夜に登校する様に呼びかけるが数か月ぶりに見た時夜は以前にも増し根暗で陰鬱な風貌になってしまってガリガリに痩せこけてしまっていた


県議会議員でもある父親からの叱責もあり、しぶしぶ中学に通う時夜だが相変わらずクラスの中に馴染めず一人で過ごす日が続く


星奈も由利も出来る限り時夜の事をフォローしたが部活動や年頃なので他の女の子との交流も増えると次第に時夜との付き合いも減って行く


そして中学生活最後のランク判定にて星奈と由利はBランク判定を貰いクラスメイトや仲間内で喜んでいたが、その陰でDランクの判定の時夜は絶望していた


Dランクの判定自体が非常に珍しく全国の統計ではAランクが0.2% Bランクが14.3% Cランクが81.4% Dランクが4.1%となっているらしい


それから3人は高校に上がると性別の違いなのか殆ど接点が無くなってしまった、元々容姿も社交性も高い星奈と由利はそのタレントの実力も相まって学校でも人気の所謂カースト上位に位置する様になった


一方で人気者の星奈や由利の目もあり直接的なイジメや嫌がらせは無くなったモノのクラスからは無視される存在となった時夜はただ学校に来て帰るだけの生活を送る様になった


そして時夜の様子が変わる決め手となったのは星奈と由利に初めての恋人が出来た事だった、


高校生の恋愛だったので子供じみたお遊びみたいなものだったが、学校の帰り道でお互いの恋人と手を繋ぎ4人で楽しそうに下校してる様子を偶然目撃した時夜は絶望した表情をして星奈と由利に暴言を吐きその場を逃げ出した


それ以降は星奈や由利から語り掛けても何やらブツブツと独り言を言い無視する様になった、そのくせ星奈や由利の下校中の後を付け回したり、夜に家の周りをうろついたりストーカー気味になっていったという


その後、すぐ由利の方は彼氏と別れたが、星奈は2年の時のクリスマスイブに彼氏の家に入って行くところを時夜にみられてからは時夜の付きまといが無くなり、由利の事だけを執拗に付け回す様になった


しかし星奈も3年に上がると彼氏と別れ、進学ではなく東京に出てハンターとして一旗揚げるという夢を追いかける事になった、その夢に由利も同調し一緒にハンターとして課外活動に勤しむ様になる


そして卒業と同時に家を出て二人で東京に移り住むことになり、静岡から出る時は多くの同級生が見送りに来てくれていた・・・


しかしその中に時夜の姿は無かったという



「ていう感じ・・最後の方は時夜と険悪な感じで疎遠になったけど昔は仲よく一緒に遊んだのも事実なんだ」


由利の話を聞いていた星奈は少し膨れた顔をして


「ちょっと?由利、今このタイミングで私の高校時代の恋愛事情を進に言うとかひどくない?」


「ふふ、星奈さんの学生時代はきっと可愛らしかったんでしょうね」


俺はフォローのつもりで言ったのだが、どうやら藪蛇だったみたいだ


「なに?それ?今はもう可愛くないって事?進は私の事好みじゃない?」


明らかに落ち込みレジャーシートの端に生えてる雑草を毟りだした


「え?いえ今はその・・とても綺麗で・・・とても・・魅力的だと思います・・すいません俺みたいな陰キャに言われたらキモイですよね・・」


「本当?進にそう思ってもらえて凄くうれしい!!」


そういうと俺に抱き付いてくる


「ちょっと・・星奈私の真面目な話の腰を折らないでよ・・・」


「つまり、あの茶店で出会った時夜は私らが見てきた時夜とは別人の様に高圧的で残忍になってて私も驚いたって話・・・大人しくて人と接する事が苦手な大人しい男の子だったけどあんな風に人に暴力を振るう様になるなんて・・・」


「そうね・・由利の話を聞いてもいまだに信じれないよ・・・私らが東京に行ってる間の5年で時夜に何があったんだろう・・」


俺は時夜さんの変貌も気になるが、横に控えていた黒いドレスの女のあの怪しい目が気になって胸の中に不安な闇が広がるのを感じていた



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