「また・・・ここか・・・」
俺は狭間の空間に浮いていた
「今度もまた運命が交錯するのか・・・なぁ進とすすむん」
俺が目を向けると、そこには淡く光る球体と無表情の龍道 進が立っていた
《察しが良くてなによりだ、今回は貴様にも運命が交錯する時が近い事が分かっていた様に思うが?》
確かにその通りだ・・・この地に来てから聞こえる得体の知れない声と圧倒的なプレッシャー何かが起こる前兆にしか思えない
《確かにそこまでの事象が揃って居れば流石の貴様でも気付くと言う物か・・・》
「おい、何勝手に人の頭を覗いてやがる・・・プライバシーもクソも無いな」
《くだらぬな・・・その様な些末な事をいちいち気にかけてはおれぬ》
「ちっ!所であの声の主は何だ?俺と何の関係がある・・・」
《ほう・・・いや貴様の想像した通りだ・・》
また勝手に思考を読みやがって・・・しかし・・・
「という事はあの声は、35年前に封印されたオロチだと言うのか・・」
《・・・・・その通りだ》
「奴は何故今になって俺に語り掛けて来た・・俺に何を求める」
《違うな・・奴にとってお前は異端、おおよそ認知出来る存在では無いという事だ》
《奴は人類に対し激しい怒りを抱いている》
「35年前の事なんか今を生きる人たちには関係ない事だろ?」
《奴等竜族にとっての35年とは瞬く間・・・長寿命の種族故、35年前に起きた事は奴等にとっては昨日の事と同じだ》
「一体35年前に何が有った、何故奴等竜族はそこまで人類を憎む」
『ここからは僕が説明するよ』
黙って話を聞いていた龍道 進がここにきて重たい口を開く
『事の発端はオロチの娘が何者かに傷つけられ、希少な竜族の血を取られた事が原因なんだ・・・』
「娘!?オロチに娘がいたのか?」
『そう・・竜族はそもそもの個体数が極端に少ない、それは竜族という種族が抱える繁殖力の低さに影響があるんだ』
「そもそも、雄雌が居るのかも怪しいもんだ・・・奴らはどうやって種族を増やしているんだ?」
『多種族との交配だよ』
「!?じゃ何か?竜族は人間との間に子供を設けるのか!?」
『正解だけど半分だね・・・人間だけでない魔族も対象なんだ』
「魔族も!?・・・いや・・まぁそもそもトカゲの化け物と交配するって話自体ぶっとんだ話だ・・・」
『しかし交配する相手は誰でも良い訳では無い・・・数十年・・・いや数百年に一度現れるかどうかの希少な相手・・ここでは竜の巫女と呼ぶが』
「竜の巫女?・・・まぁ呼び名なんかどうでもいい、オロチはその巫女との間に子供・・娘だったか?を設けたんだな?」
『そう、しかもオロチの番になった竜の巫女は・・・・・魔族だ・・』
「魔族!?」
『そう、オロチは魔族から出た竜の巫女と交配し娘を授かった』(俺の頭の中でトカゲの化け物と三角の尻尾で蝙蝠の羽を生やした悪魔が抱き合う映像が流れる)
《・・・くだらぬ・・安っぽい漫画の世界だな・・》
「て、てめぇまた勝手に人の頭を!!」
『竜族は交配する相手の姿になって求愛すると言われてるんだ、それに魔族とは言っても殆ど人間族と姿は変わらないよ?肌の色や角・・まぁ羽もある者も居るみたいだけど一番の違いは使う魔法が人のそれとは比較にならない強大なんだ』
《オロチは魔族の女に求愛しそれに答えた女との間に娘を設けた・・・しかし生まれたばかりの娘は魔族の妻と一緒に何者かにさらわれた》
『オロチは必死になり娘を探したんだ、時には魔族に姿を変え魔街を彷徨い、時には人間と姿を変え人の街を、必死にね』
《竜族は繁殖力が極端に低くその個体数は他の種族と比べると圧倒的に少ない、それ故種族愛が非常に強く同族はその血に含まれる金属物質により呼び合う習性が備わっておる、その特性によりなんとか娘を見つける事が出来たのだが・・》
『その時発見された幼い娘は心無い人間により酷い拷問を受け全身が切り傷だらけだったらしいよ、オロチはその場に居た全員を殲滅し娘は救いだしたが、結局その後も妻の行方は分からないままだった』
《娘の方も重体でいくら不滅に近い肉体を持つ竜族とは言え生まれて間もない幼体の娘には耐え切れなかったのだろう》
『これはオロチも知らない事だけど、その時魔族の竜の巫女は娘とは別の場所にうつされていて娘を守る為に負った傷で死んでしまい、浅間大社の近くの山に遺棄されたんだよ・・・』
「そんな・・・そんな酷い事をする人間がいるのか・・」
『娘の方はオロチの庇護の元でなんとか回復できたんだけど、その時点では妻の死を知らないオロチはその後も妻の事を必死に探し、ようやく娘と妻を連れ去った人間の一人を捕縛したんだ、しかしその人間から聞き出した話は母親の方は邪魔だから殺したという絶望的な事実だった』
《しかし、その話には裏がある、じつは巫女は死んでいなかった、魔族の血のなせる業なのか竜の巫女の奇跡か遺棄された山奥でなんとか息を吹き返した・・・しかし》
「しかし?」
《女は魔族としての力を失い、それまで記憶も無くしていた、そして山道を彷徨っていた所を偶然通り掛かった人間の老夫婦に助けられ一命を取り留めた》
『娘を傷つけられ、妻を殺されついにオロチの人類に対する怒り爆発しオロチの人類侵攻が始まったんだ』
「そうか・・・オロチも哀れな奴だったんだな・・しかし・・・だからと言って無関係な人を殺して良い理由にならない」
『そしてこの話にはもう一つ続きがあるんだよ』
「なんだと?勿体ぶるような所か?早く教えろよ」
そして言葉を紡ぐ龍道 進が無表情から少し悲しい表情に変わる
『一命を取り留めた魔族の竜の巫女は富士防衛線において浅間大社でオロチを鎮める踊りを踊ったサクヤ隊の一人だったんだよ』
「え?!」
『オロチの侵攻直後で記憶を取り戻した彼女は最後まで怒りに我を忘れ荒れ狂う愛しい夫に向かって怒りを鎮める様にメッセージを送り続けていたが、その想いが夫に届くまでに力尽きたんだ』
「そ、そんなの・・・・あんまりだ・・」
『その事は彼女が胸元に忍ばせていた夫と娘へ宛てた手紙に書き記されていたようだね、勿論だけど夫がオロチであるとか自分が魔族だとかは書いて無かったけど自分が死んだ後、いつか自分のこの気持ちが夫と娘に届く様にと遺言のつもりで書いていたみたいだね』
確かに35年経過した後にもサクヤ隊に魔族の女性が居たなんて報道はされてない
「話が反れたが、そのオロチがもしかして復活でもするのか?」
《察しがいいな・・・》
絶望を告げる光る球体の無慈悲な言葉に嫌な予感が胸の中で膨れ上がるのを感じた