〇富士山本宮浅間大社
主祭神に木花之佐久夜毘売命(このはなさくやひめのみこと)を奉じる全国に点在る浅間神社の総本宮
「日本(ひのもと)の 大和の国の 鎮めとも います神かも 宝とも なれる山かも 駿河なる 富士の高嶺は 見れど飽かぬかも」と歌われる様に富士山を御神体とし、その御神体を鎮める木花之佐久夜毘売命を奉じる歴史ある大社
歴史上の偉人により数百年前に建造され、龍壮暦1224の今現在は本殿と拝殿とを残すのみである
かつては霊峰として富士山を信奉する人々の信仰対象であったが、富士防衛線以降で富士山信奉は別の意味で現実と化し現在に語り継がれる事になる
「俺も浅間大社は学校の教科書で何度も見ました(この世界の龍道 進の記憶だが)・・・こうして実際に訪れるのは初めてです・・・」
入口の社作りからも歴史を感じさせる趣がある、周囲には葉桜が生い茂っており春先には見事な桜の花を咲かせ人々の目を楽しませている事だろう
「ここから境内に上がれるから行きましょう」
前を歩く星奈さんと由利さんは学生に戻った様にはしゃぎながら境内へ続く階段を上り始めた
「なんだかお二人とも浅間大社に来てから、楽しそうですね」
二人は仲良く手を繋ぎながら俺の数段前を警戒に上ってる
「そうねぇここは女性ハンターにとっては聖地とも言える場所なのよ」
「ここが富士防衛線最大の跡地と言われる所以ね・・・あ、この階段を登り切った先に碑文石があるから」
俺達は長い階段を上りきると、左手に見える立派な宮作りの囲いの中央に美しく輝く碑文石が鎮座していた、その下には献花台が設けられており沢山の花が供えられている、実際に今も数名の女性が献花台に花を供えていた
「ここが・・・純潔の鎖、特殊女性部隊サクヤの・・」
「ええ」
対オロチ作戦により無力化したオロチを何とかこの地迄押し込む事に成功はしたが、時間経過により無力化の効果が切れ再び活動を再開したオロチは策に嵌った自身への怒りから暴走気味に暴れ出した
荒れ狂うブレスと突進によりハンター達は成すすべなく、この地を蹂躙されるのを指を咥え見て居るだけだった
そんな中で、古き文献に記載された木花之佐久夜(このはなさくや)の伝承に望みを託しハンターの中から選抜された美しき女性数名は「純潔の鎖」という部隊を結成、しかしその働きから世間には「サクヤ隊」と呼ばれ、富士山の噴火を鎮めたと伝えられる伝統舞踊を昼夜問わず地元の有志から連日叩き込まれ、迫るオロチを目前にこの浅間大社の境内にてその鎮魂の舞を披露したという
その舞を見たオロチは再びその活動を停止し、今度は富士山の火口まで押し込む事に成功する
しかし、連日の猛特訓に加え、対オロチ作戦の最中、実に5日間も休むことも食事をとる事も無くただ繰り返し舞い続けたサクヤ隊の面々は、一人また一人と倒れ絶命して行く、そしてオロチを富士山の火口へと押し込んだと聞いた時、最後の一人が倒れ、それを口火に富士山火口での最終決戦が幕を開ける
最終決戦においては最精鋭の上級タレント数十名が集結しオロチに対し戦いを挑むが、その内半数以上時間稼ぎにより倒されたが詠唱が完了した賢者、呪術師により展開さられた防御結界にてオロチの動きを数秒間止める事に成功
その隙に国宝の宝剣 天叢雲剣の力とその場にて力の限り結界を展開した多くの賢者、呪術師の尊い犠牲によりオロチを富士山の火口の中に沈め封印する事でこの防衛線は人類側の勝利となった、龍壮暦1189年、本格的な冬の到来前に富士防衛線は犠牲になったハンター約600名と、3000名以上の一般人の犠牲を以って終結となった
この話は何度もドラマや映画化されており、中でもサクヤ隊は一番人気だ、亡くなった彼女らの懐には自分達の想い人宛に書かれたそれぞれの恋文がしたためてあり、その内容が相手への深い親愛と一生を添い遂げる事が出来ない事への謝罪が書き綴られてあり人々の涙腺を崩壊させる事になる、それゆえサクヤ隊は女性達の憧れであり純愛の象徴にもなっている
「女性ならやっぱりサクヤ隊の事は特別視しちゃうわよね」
「そうねぇいつ見てもあのシーン泣いちゃうよね」
境内から見える荘厳な富士山を見上げると、その山頂の一部が歪に削り取られた様に欠けている
「ああ、あれも富士防衛線の爪痕だよ」
俺の視線に気づいて星奈さんが同じように富士山の山頂に目を向け説明してくれる・・・前の世界での記憶の富士山には万年雪が山頂付近を彩りまさに霊峰と呼ぶに相応しい風景を見せてくれてるが、この世界の富士山の山頂には天然雪はおろか緑も見当たらず赤茶けた山肌があたかも火傷で爛れた人肌の様に痛々しく見えている
「富士の樹海から先は進入禁止になっていて、一般人は足を踏み入れられないの」
「ただあの山頂には今なお天叢雲剣が刺さっていて、多くの上級ハンターの英霊と共にオロチを封印してるって言われてるわ」
富士山から吹く風をその身に受け、俺が生まれる数年前に実際にあった大規模な人類とオロチの戦闘に参加し犠牲になった多くの人達に敬意を払い思考を巡らせる
〇同時刻、富士山山頂 火口付近
????「これがこの国の国宝の宝剣・・・天叢雲剣・・・既に朽ちかけね・・・」
漆黒のマントを纏う影は火口付近に吹き荒れる風に煽られそのマントの中を露わにする、豊満なバストに引き締まったウエスト、男を惑わす為に存在するかの様な太もも、その上それらは申し訳程範囲を黒い生地のボンテージにて隠されているだけで、殆ど裸体と言っても過言では無い、しかしその地肌は青紫がかっておりおおよそ人のそれとは異なっていた
????「流石に竜族の王の一体を封印してるだけの事は有るわね・・数十名分の上級結界呪文が残ってる上に朽ちてるとは言え宝剣としての理力でそれを増幅してるわけね・・・」
女は妖艶な腰回りから一つの結晶を取り出し自らの手を翳す
????「人狼がもたらした、この人間が作った結界石を反転呪物で反転し一気に解放すると・・・」
翳した手と結晶の間に複雑な魔法陣が形成され怪しく輝くと手にした結晶は音も無く崩れ去った
????「流石に今すぐ何かおきないか・・まぁ良いわこれで今この結界は効力が大幅に落ちてる・・・」
「ヴィーダ・ウル・ダルド(我の命に従い対象を破砕せよ)」
女が呪文を唱え天叢雲剣に手を翳すと、剣は音も無くその場で崩れ去った
????「ふふふふ・・・これで再びこの地に死と恐怖が訪れる・・・いい・いいわぁ・・きゃははははは」
そう笑いながら女は自身の後方に出来た黒い次元の歪の中に消えていった
〇富士山本宮浅間大社
「!?」
俺は急な悪寒に襲われた、境内に入り本殿の前で星奈さんと由利さんから色々と説明を受けてる途中の事だ
「二人とも申し訳ないです・・すこし気分が悪いので何処かで休みたいのですが・・・」
顔面が蒼白で額から嫌な汗を流してる俺を見て只事では無いと感じた二人は直ぐに近くの茶店の人にお願いして奥座敷に横にならしてもらった
「私、係りの人にお願いして近くまで車を回させてもらうね、由利は進の治療をお願い」
「分かった!任せて」
薄れる意識の中で、慌ただしくする二人の姿がボヤけ目の前が真っ暗になる