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第47話 韮山反射炉 救護施設跡博物館

〇韮山反射炉 救護施設跡博物館


洋風な作りの建物は受付等は無く入場は無料の様だ、入り口にはこの救護施設の歴史が綴られていた


内容は先ほど由利さんと星奈さんから聞いた通りで、創設者 蜂須賀 総司についての紹介が書かれていた


写真は当時のだろうか、治癒職にしてはガッシリした出で立ちでその鋭い眼光は見るものを委縮させる


寡黙な性格の様で妻は早くに亡くし一人娘が居るという、蜂須賀家は古くから治療師を輩出してきた名家で、その先祖には偉人も多いと言う


富士防衛戦において、総司令 沖田 貢治(つぐはる)陸軍元帥の元、総参謀兼後方支援の司令官として着任した様だ、前線の司令官であった犬飼 源蔵と共にこの戦いの要として奮迅の活躍を見せる、しかし政府も前線が膠着する中で後方支援に資金も人員も割けず常に犬飼と蜂須賀は対立していたという、政府があてにならないと知った総司は蜂須賀家の保有する私財を投じこの施設の建設と大量の薬、魔法薬を仕入れ多くの人命を救った


「これね・・・前にも話したけど蜂須賀の御大はこの大戦終結後に政府からの勲章授与も要人の椅子も断り田舎に隠棲したっていう話・・実はこの事で当時の沖田総司令含め政府のやり方に嫌気が差したからって噂になったのよね」


俺は由利さんの話を聞きながらも蜂須賀 総司の写真に目を向ける


「きっと、実直で曲がった事が許せないけど、人命の尊さを一番に考えられる優しい方だったんでしょうね・・・機会があれば一度お会いした物です・・」


その後博物館の中を見て回った、当時の医療設備のレプリカや蜂須賀 総司が患者を治療する様の写真が展示してあった


「これは?・・・」


俺はひと際頑丈に覆われたショーケースに目を向ける


《オロチの牙》


そう書かれたプレートに目を向けた瞬間


【お前は我が眷属か?その身に流れる血は人のそれと異なるな・・】


『!?またお前か・・お前は何だ!?何故俺に語り掛ける・・目的は何だ?』


【わが身を解き放て・・眷属であれば我の恨みを・・・】


『恨み?どういう事だ?・・・おい!!』


途中から急に声が聞こえなくなった・・・


「進君?どうかした?」


「はっ!・・・いや・・何でもないですよ・・少し疲れたのかもしれませんね・・・」


「ふふ、それじゃ次の跡地に着くまでに何か食べましょうか、丁度お昼になりそうだし」


そう告げると由利さんは奥で展示物に見入ってる星奈さんの元に向かい昼食の段取りを相談していた


(この地に来てからさっきの声が強くなった・・それに初めて俺の問いに答えた・・・一応警戒しておくか・・星奈さんと由利さんだけでも守らないと・・)


由利さんの運転する車で進むこと1時間、熱海とはまた違う街並みが見えてきた


「進、富士宮名物を食べよう!!」


そういうと少し小ぶりの店の前に車を停車させる


「へぇぇ富士宮焼きそばですか・・・初めて食べます」


店に入ると、香ばしいソースの香りが鼻を誘惑する、店には常連なのか数名が店主と思われる人と楽しそうに談笑していた


「いらっしゃい、空いてるテーブルに座ってくれるか」


店長は愛想のいい笑顔でカウンターから声を掛ける


「店長、富士宮焼きそば3人前ね大盛で」「あいよ!!」


注文をつげると店主は馴れた手つきでキャベツや野菜を鉄板で炒めだした、待つこと15分・・・


「お待たせ!富士宮焼きそば大盛3人前ね」


大きめの皿にこれでもかと盛られた焼きそばは湯気を上げ上に掛かってる削り節が踊ってる


「「「いただきます!!」」」


麺をすくい一口ほおばる


「!?なんだこれ!!もちもちしてる、旨い!!」


「ふふそうでしょ富士宮焼きそばは蒸し麺なの、それに肉カスが入っているのも特徴ね、あとこのイワシの削り節も富士宮焼きそばならではね」


星奈さんは美味しそうに焼きそばを頬張りながら俺に説明してくれた、たしかに少し辛めのソースが病みつきになり後引く美味しさだ


俺たちは大盛の焼きそばをあっという間に完食した


「おお、兄ちゃんは見た感じ地元の人じゃなさそうだけど観光か何かか?」


常連と思われる客の一人が俺に話かけて来た


「ええ、俺は東京から昨日ここに来まして今彼女らに観光地を案内してもらってるんです」


「いいじゃねぇかこんな美人2人と一緒に観光なんて、兄ちゃん羨ましいこった、だったら浅間大社にはもう行ったか?」


美人と言われ少しご満悦の星奈は笑顔だ


「いいえ、これから行ってみようと思ってるの」


「そうか、あそこは富士防衛戦の跡地で一番の観光名所だからな、今じゃ観光客もだいぶ減っていて寂しい限りだが兄ちゃんみたいに他府県から来た人に興味持ってもらえて地元民としちゃありがたい事だ」


「はい、勉強になる事ばかりで楽しく観光巡りさせていただいてます」


「はははは、よし!気に入った、大将この3人に富士宮焼きそばお持ち帰り持たせてやってくれ!俺のおごりだ」


「えええ、そんな悪いですよ見ず知らずの我々に」


「いいって事よ、是非浅間大社を見た後、白糸の滝でも行って自然の中で焼きそばを堪能してくれ、がははは」


3人で顔を見合わせ苦笑してから気さくなオジサンにお礼を言ってお持ち帰りの焼きそばの入った袋を手に店を後にした


「親切な人でしたね」


「本当に気さくな人たちで良かったわね、落ち着いたらまた来ましょう」


おれは膝の上に置いた焼きそばの入った袋を見ながら、人の心の暖かさに触れ胸が少し熱くなってしまった






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