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第46話 英雄達の足跡

「進、あそこに記念碑があるから見てみたら?」


星奈さんは山道に張られた柵の間に置かれた石造りの大きな石碑を指さし俺の手を引く


石碑は俺の背よりすこし大きい位で縦二メートル横1.5メートル位のこじんまりした物だった


「富士防衛戦の最前線跡地か・・・」


おれは石碑に刻まれた文章を読んでみた


●富士防衛戦最前線跡地 大室山


富士山の火口より現れた大蛇(おろち)は古い日本の書物に記された、八つの蛇の様な頭を持ちワニの様な胴体と尻尾を持つ竜族である


全長は頭から尻尾までで約200メートル重量は約80トン


その八つの口から放たれるブレスは炎と冷気を纏う、ひと吹きのブレスで前方約100メートルの範囲が焼失もしくは凍結した


その大きな体躯は硬い外皮に覆われ通常の武器では傷もつかない、魔法が通用するが高い耐性を持ちその威力は半減されてしまう


救いはその巨体を運ぶ手段が4本の脚のみであり、他国で目撃されている竜族の様な飛行能力は有して無かった、その巨体故移動速度はかなり遅く出現から2週間の進行でもこの大室山迄しか進めてない


しかしその進路上の町や道路、建造物は悉く破壊され正に荒野となった、そしてその巨体からは通常の濃度を遥かに超える魔素を常に放出しており周辺の魔物の動きも活発化した


多くの犠牲を出しながらこの地を最終防衛ラインとし、全国より精鋭のハンターを集結させこの地に対オロチ作戦を慣行


政府の対魔物特殊工作部隊によりオロチ用の特殊魔具を投入し短期的にオロチを無力することに成功、複数の航空ヘリと大量の大型輸送車用い大蛇を富士の樹海にまで押し戻す事に成功する


この記念碑は対オロチ特殊魔具を打ち込む際に犠牲になった多くの勇士を称え幾星霜語り継ぐ物である




そう締めくくられた石碑の足元にも石板があり、細かい字で故人となった人たちの名前が刻まれていた


「ここに書いてあるのが私の祖父母・・・こっちが星奈の祖父母よ・・」


石碑の前に膝をついてそっと優しくなでる由利さんと少し寂しそうに微笑む星奈さんと示し合わせた様に石碑に手を合わす


【貴様は何者だ・・何故人の姿をしてる・・】


!?またあの時の声が頭に響く・・・顔を上げ辺りを伺うが星奈さんも由利さんも聞こえてないのか目を瞑り石碑に向って手を合わせていた


『お前は誰だ・・・なぜ俺にだけ語りかける!』


おれは頭の中でそう告げたが、返事は帰ってこなかった


「ん?どうしたの?進君?」


俺の様子に気づいた由利さんが手を合わせたまま俺の方を見上げ首をかしげる


「あ、あぁ・・いや何でも無いです・・すこし風がキツくて気になっただけです・・・」


「そうね・・そろそろ次の跡地に向かいましょうか」


そう星奈さんに促され俺たちは車に戻ると 大室山の跡地を後にした





〇韮山(にらやま)反射炉


次に連れてきてもらったのは自然豊かな山々の間に煙突の様な建造物が特徴の韮山反射炉跡地だ


「星奈さんここはあんまり被害の痕が無さそうですね」


「ええ此処は、富士防衛戦で負傷した人たちの救護施設があった場所なの」


韮山反射炉


150年近く前に大砲の鋳造が可能な製鉄炉の建造に着手し溶解炉である韮山反射を完成炉させた。

炉の内部が耐火レンガを積んだアーチ構造になっており、この湾曲によって熱と炎を反射させ鉄を溶解させることから反射炉の名が付いた。江戸湾の品川台場に配備することを目的に多くの西洋式大砲などの鋳造が行われ、現在では、実際に大砲を鋳造した実用炉として唯一現存する貴重なものになっている。


「救護施設ですか?」


「ええ、この地に治癒師の名家 蜂須賀の当代の党首であり歴代最高の賢者と呼ばれた蜂須賀 総司が蜂須賀の私財を投げうって大規模な医療施設を設営したの」


「蜂須賀?それって・・・・」


「ええ、雫さんの御爺さんにあたる方ね、私も治癒師の端くれだから、神医(かむい)と呼ばれた蜂須賀 総司の事は良く勉強したわ」


「そうね・・御大は5日間一睡もせずに運ばれたきた負傷者をひたすら治療したという逸話もあるよね」


「ええ、マジックポイントを回復するアイテムも私財で大量に買い込み自身の身体への影響も顧みずに数多くの人命を救ったと言う事で付いた仇名が神医だと聞いたわ」


「しかし、この防衛戦後に現役を引退して本家に隠棲してると聞いてるわ」


「もしかして、その時の無理が祟ってどこかお体を悪くしたとか?」


俺の質問に由利さんは首を振る


「それは分からないわ・・ただ蜂須賀の御大は黒狼と呼ばれた鳥居 源蔵と並んでこの国の英雄扱いされて今でも多くの人に崇拝されているから、その言動は国の政治、経済にも影響があると言われてるわ」


まさに雲の上の存在だな・・そんな凄い人を祖父に持つ雫が並々ならない能力を持つ事はある意味必然なのかもしれない


「ほら、あそこに記念博物館があるから行ってみよう」


見てみると複数本の煙突のふもとに博物館にしては少し小規模な建物が見える、おれは二人に手を引かれるまま建物に入って行った




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