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第21話 この世界の龍道 進

街への帰還の途上で俺の胸元で布にくるまれ赤子の様な姿勢の翼さんが目を醒ます


「え?えっ・・・え?」


自分が丸まってる様な姿勢であり俺が歩く度に揺れている状況が理解出来ず俺の方を見上げる


「あ、あああアンタだれっ!!私をどうするの!」


状況が呑み込めず布の中で暴れ出す翼さん


「あ、あのっ・・危ないんで落ち着いてくだっ【ドガッ!】・・・」


俺は翼さんの左ストレートをモロに鼻にもらった(痛くは無いが・・助けた女の子に殴られたという事がショックだ・・)


「俺達は、あなたを救出するクエストを受けて今貴方を連れて戻ってる所です・・驚かせてしまったのなら申し訳御座いません」


【パシッ】俺の胸元で暴れてる翼さんの頭を軽く叩いたのは五月だ


「ちょっと翼、落ち着きなさい・・・全く・・心配かけて・・アンタは・・」


「!?さ、五月先輩!・・・せ、せん・・ぱ・・い・・・うっ・・うっ・・・うわぁぁぁん」


俺の胸元で泣き出した翼さんを降ろすと少し休憩を取る事にした(耳元で大声で泣かれては、うるさくて困るという理由なのはここでは、伏せておこう・・)


雫と由利さんは中級の魔除けの呪文を唱える


「「我求めるは聖なる棺、神聖なる領域にて安寧を約束する、グレートウォール」」


正面に手をかざした雫の呪文で周囲に円を描くようにうっすらと輝く壁が形成され、上空に手をかざした由利さんによって天井部に傘の様な円錐上の輝く屋根が形成される


「これで10分は魔物の侵入を防げるわ、でもあくまで初級の魔物だけだし警戒は緩めずお願いね」


そう俺に告げると、呪文でMP消費し過ぎたのか少し顔色が悪くなって俺に倒れかかる雫・・・俺は慌てて両手で支えると


「ふふ・・今がセクハラチャンスだね♡・・・なぁ――んてね♪・・・・」そう言うと静かに目を閉じ寝てしまった


「ふふ、高校生とは思えないポテンシャルね、私も結構自信あったけどこの子のMP量は尋常じゃないわね・・・進さん・・私もMPが尽きた様だし・・暫く休憩するね・・・」


そう言うと由利さんも俺の胸にもたれ掛かる様に倒れ込んで来た・・・(童貞のオッサンにはこの上ない状況だけどここで変な気を起こす訳には・・)


俺は二人を自分の胸元で支えながら、ゆっくりとその場に腰を降ろす・・・真理恵さんはメンバーの荷物を星奈さんと一緒に使える物が無いかと漁ってる


奥では五月が翼さんに抱き着かれ百合漫画状態で地面でくんずほぐれつしてる(あ、五月と目が合って睨まれた・・)あ、あまりジロジロ見ないでおこう・・・


肩に手を置き二人が倒れない様に支える、安心して寝てる二人の寝顔を見ると欲望に勝てそうも無いので、寝顔を見ない様に星空を見上げる・・・・


(奴は、急な頭痛で倒れた隙に俺を殺して、この人達を襲う事も出来たはずなのに・・何故急に引き上げた?)


(頭痛が起きたあの時急に頭の中にこの世界の龍道 進の記憶が流れ込んで来て・・・今なら公園で五月と雫を助けた状況が鮮明に判る・・)





俺は急に頭に流れ込んだ、この世界の龍道 進について知り得た情報を整理した


この世界の龍道 進の性格は俺と良く似ている、幼少の頃から人と接するのが苦手で、友達も出来ず何時も一人だった・・・ただ俺とは違い物心付く頃には既に両親は他界しており祖父母により引き取られ育てられた様だ


祖父母は孫の進むを大事にしてくれて不自由無く育ててくれた、進もそんな祖父母が大好きで何時か二人に楽な生活を送って貰う事が目標だった


祖父はすでに引退していたが、現役の時はAランクのファイターで地方では、すこし名の知れたハンターだった、今は小さな道場を営み少ない門下生を指導する毎日を送っていた


進は小学生の時のタレント検査にて【ファイター】の適正を与えられ周囲には黙っていたが内心では祖父と同じタレントを貰えとても喜んでいた


それからは、祖父の元で一生懸命体を鍛え一人の時でも時間が有れば修練をする日々だった・・・そんなある日、地方の協会支部に頼まれてヒーラーだった祖母と共に引率の為、臨時で現役に復帰して討伐クエストに出かけた


「進、じいちゃん行ってくるからな・・いい子でまってるんじゃよ」


「進、夕飯までには戻ってくるからね」


そう祖父母二人が優しく微笑み俺の頭を撫でてくれて俺は「じいちゃ―――ん!ばあちゃ―――ん!頑張ってきてぇ!」初めて人前で大声で叫んだ・・これが最初で最後になるとは思ってもみなかった・・


「本当に・・・申し訳御座いません・・・」


協会の職員から渡されたのは2つの白い紙にそれぞれ包まれた数本の白髪だった・・・


「・・・・・・・・・・・・」涙も出ない・・・声も出ない・・・俺は白い紙を両手で受け取ったまま硬直して動けなかった


協会の職員の人が何か言っていたが俺の耳には届かない・・・ただ身体の奥から震えが止まらなかった・・・


祖母たちの遺髪を前に部屋で項垂れ泣き続けるが、【グゥゥ~】無常にも、子供のお腹は空くものだ


そして皮肉にも空腹時の食欲だけが祖父母を亡くした苦しみを紛らわせてくれた・・・


おれはカビが生え固くなったパンに噛り付き鼻水と涙でしょっぱくなったままお腹を満たすのだった


それから俺は祖父母の残した財産と協会から支給される見舞金で食うには困らない生活をおくり、学校から帰ると一心不乱に道場で体を鍛える日々、それは祖父母が存命していた時より激しさを増していた


「進君・・師匠達もお亡くなりになり・・君の鬼気迫る修練には正直付き合ってられないから・・今日で道場を去る事にするね・・悪く思わないで・・・」


こうして中学に上がる頃、最後の一人となった門下生が祖父の道場を去っていった、それでも俺は一人で体を鍛え少しでも尊敬する祖父に近づこうと努力した


しかし、高校に上がる前のランク判定で俺の受けた判定は【Dランク】俺の横では自己研鑽も積んでない同じファイターの同級生がCランク判定だと騒いでいた


俺は悔しかった!あれだけ努力していたのに、こんなのじゃ爺ちゃん達に顔見せ出来ない・・・


それからは、努力と経験でタレントのランクは上がります、という先生の言葉を信じて今までよりさらに過酷な修練を行い俺の体はいつの間にか硬い筋肉で覆われていった


生活面では少しでも学費を押える為、授業料の安い大学を選び卒業して、なんとか就職したが勤めた企業は修練の時間が取れない為時期を見て退職し、コンビニバイトをメインに生活を始める、生意気な後輩や嫌味な店長に馬鹿にされるがコンビニは時間の拘束が決まっていて修練に時間は割きやすいから、俺には合ってるぽい


しかし・・・十数年修練を継続して簡単なクエストもこなしてるが一向にランクは上がらない・・そんな俺をしり目に同級生だった奴らはBランクに上がってる連中も増えてきたと仲間内で盛り上がって話していたのを、頭数合わせで呼ばれ参加した同窓会で耳した


俺は肩を落とし帰宅する為にトボトボと公園を歩く・・努力は報われない15年間休まず何時間も費やし修練を続けて来た事が全て無駄に終わった気がして絶望してると、公園に突如現れた人狼の魔物で周囲は騒ぎになっていた、遠目に魔物を見たが明らかにヤバそうだ・・


「に、逃げなきゃ・・・」他の逃げ惑う群衆の波の奥で、少女を庇うお年寄りの姿が目に映る、そして傷ついたお年寄りを助ける為に駆け寄るバイト仲間の雫と、それを庇う様に人狼に立ちはだかる五月


「・・・爺ちゃん・・祖母ちゃん・・・」その二人の姿に引率した学生を助ける為、自分を犠牲にした祖母と祖父の姿が重なる・・・・俺は無意識に駆けだした


「ここは任せて逃げろ!!」そう言うと人狼の腹目掛けて体当たりをする


【ガァァァァ】不意を突かれ後ろに後退する人狼は俺の方を見ると大きく裂けた口元から涎を垂らしニヤリと笑う


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」おれは再び人狼にとびかかると人狼も鋭い爪で応戦してくる、くらえば致命傷は間違いない、しかし奴の攻撃は単調だ右のフリ下ろし、右の横殴り、右の裏拳と同時に左のフリ下ろし・・・


攻撃力が凄くても動きが予見出来れば避けるのは難しくない、俺は攻撃を避けつつ正拳突きで人狼の急所と思える箇所に打撃を与える


しかし、有効なダメージは与えられてない・・・そんな時、急に人狼の雰囲気が一変する様な感触があった


「へぇ~オッサンwこっちでも俺の邪魔してるとかぁwウケるんですけどぉ~w」


【ドスッッ】「ガハッッッ」人狼の顔が俺の吐いた血で染まる・・・俺の腹部には人狼の腕が埋まっていた・・・視界が暗転する・・・これが死・・・爺ちゃん祖母ちゃん・・おれ今そっちに行くよ・・





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