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第34話 運命の2人?

—―カランカラン


ドアベルを鳴らしながら扉を開けると、店内はランタンを買いに来たお客で賑わっていた。


「すごく混雑しているね。見ただけで30人近くはお客がいそうだよ。この店はひょっとして人気の店なのかい?」


エディットに顔を寄せ、耳打ちするように尋ねた


「そ、そ、そうですね。に、人気はあると思いますよ? 老舗のお店ですから」


エディットは耳まで真っ赤にさせながら教えてくれた。

しまった、少し距離が近すぎたかもしれない。今は婚約者同士だけど、いずれは解消するのだから節度ある距離を保たないと。


「そ、それではまず最初にアドルフ様のランタンを選びませんか?」


未だに顔を赤く染めているエディットが提案してきた。


「うん、そうだね。それがいいかもしれない」


「それでは選びましょう」


そして僕とエディットは混雑している店内を縫うように、陳列棚に飾ってあるランタンを見て回った。



**


「ねぇ、エディット。このランタンは中のロウソクに火を灯すと帆船の絵がくっきり現れるって説明が書いてあるんだ。どうかな?」


僕が選んだのは四角い形のランタンで素材は紙で出来ている。このランタンは帆船の切り絵になっている。

手にとってエディットに見せてみた。


「はい、とても素敵だと思います。帆船の絵が浮き出るなんてロマンチックですね。ではそれにしましょうか?」


「うん、そうするよ。それじゃ一緒に会計に行こうか?」


「はい」



そして僕達は会計を済ませると店を出た――



**


「そのランタンがエディットが選んだランタンなんだね?」


エディットは自分の受け取っとランタンを見つめながら頷く。


「はい、そうです」


エディットが選んだランタンは六角柱の形で、きれいな花模様が描かれている。


「この花模様が気に入ったので買ったのですけど……でも私もアドルフ様のように切り絵風のランタンにすればよかったです。考えてみればランタンを流すのは夜なので、花模様は見えませんよね」


「エディット……」


少し残念そうなエディットを元気づけてあげよう。


「そんなことはないさ。運河には沢山のランタンを流すわけだろう? 周りのランタンに照らされて、きっとエディットのランタンに描かれた模様も見えるはずだよ。よし、それじゃ早速流しに行こう?」


またはぐれないようにエディットに手を差し伸べると、今度の彼女はためらわずに僕の手にそっと触れてきた。


「よし、行こうか?」


「はい」


エディットの小さな手を握りしめると、僕達はランタンを流すスタート地点である船着き場へと向かった。


外はすっかり夜になり、美しい星が夜空に輝いている。街の至る頃には街路樹に渡されたロープに灯りのついたランタンが吊り下げられて、とても良い雰囲気だった。


それに周りをよく見ると、歩いている人々の殆どがカップルで皆仲良さそうに手を繋いだり、腕を組んで寄り添うように歩いている。


もしかして……これはそういうお祭りだったのだろうか……?

エディットは『ランタンフェスティバル』に詳しそうだから、尋ねてみようかな?


「ねぇエディット」

「はい。アドルフ様」


「何だか周りを見て気づいたんだけどカップルだらけだね?」


「あ……は、はい。そうなんです。なので友達も……恋人が出来たので、その方と一緒に『ランタンフェスティバル』に行くことになったのです。このお祭り……ある意味、『恋人同士のフェスティバル』とも呼ばれているんです」


エディットが少しだけ頬を赤らめながら説明してくれた。


「え? そうだったのかい?」


知らなかった! 知っていれば……遠慮していたのに。


何しろ僕の記憶にはあまり残ってはいないけれども、今までエディットに散々酷いことをしてきたのは事実なのだから。


そんな男と一緒に来たって面白くはないんじゃないだろうか?

ひょっとすると、エディットは内心嫌々僕に付き合っているのかもしれない。


エディットに申し訳ないことをしてしまった……。


そんなことを考えていると、エディットに声をかけられた。


「アドルフ様、着きましたよ」


「え?」


気づけば僕達は運河の船着き場にやってきていた。そこでは係の人達にロウソクに火を灯されて、運河にランタンを流す人達で溢れていた。


「エディット、僕達もつけてもらおう?」


「はい」



そして僕とエディットは手にしていたランタンに係員から火を灯されて、早速運河に流すことにした。




2人で運河の前にしゃがむと、そっと火の着いたランタンを川に浮かべた。

すると、ゆっくりと僕達のランタンは川の流れにそって進み始める。


「エディット、橋の上からランタンが流れる様子を見たいって言ってたよね?」


「はい、そうです」


「よし、それじゃ橋に行こう?」


「はい、行きましょう」


僕とエディットは自然に手をつなぐと、2人で橋に向かった。



****


「うわ〜本当に綺麗だね」


「はい。まるで夢の世界みたいに綺麗です」


橋の上からこちらに向かって流れてくるオレンジ色の光を灯したランタンはその水面にも姿を写し、水の光に反射してキラキラと輝いていた。


「……」


僕は隣でこちらに向かって流れてくるランタンを見つめているエディットをそっと横目で見た。

笑みを浮かべて見つめているその姿は……とても綺麗だった。


今夜は一緒に来て良かったな……。


そんなことを考えていた時。



「すみません」


不意に声をかけられて僕とエディットは振り向いた。

すると僕達と同年代と見られるブロンドの髪の驚くほど顔の整った青年が立っていた。


「このハンカチ、今落としましたよ」


彼はバラ模様の刺繍が入ったハンカチを手にしていた。


「まぁ、確かに私のハンカチです。どうもありがとうございます」


丁寧に頭を下げるエディット。


「いや、別に大したことじゃないから。それじゃ失礼します」


そして青年は去っていった。


「良かった……。このハンカチ、大切なハンカチなんです」


エディットがハンカチを握りしめて、青年が去って行く後ろ姿を見た時……。


僕は思い出した。


そうだ、あの青年が……この世界の真のヒーローだと言うことに。

そして今のシーンを、かつて僕は漫画で読んでいたということを。


やっぱり、エディットと王子の物語は……原作通りに進んでいたのだ――

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