「あっという間に終わったな。てっきり乱闘騒ぎにでもなると思ったが」
突然背後からブラッドリーが話しかけてきた。
「ブラッドリー……どうせついてきたなら、何で今頃現れるんだよ」
全く、ちゃっかりしている。
「いやぁ? ここはヒーローらしくお前ひとりに任せておいた方がいいんじゃないかなと思っただけさ。でも本当に乱闘騒ぎになりそうになったら加勢しようと思っていたんだぜ?」
何処まで本心で話しているのか。ブラッドリーはニヤニヤと腕組みしている。
「あの……ひょっとしてアドルフ様はブラッドリー様とご一緒だったのですか?」
エディットが僕たちの顔を交互に見ながら尋ねてきた。
「う、うん……まぁね……」
曖昧に返事をするものの、内心焦っていた。
しまった。
昨日エディットには今日は試験勉強をすると話していたのに、ブラッドリーと一緒に町に来ていたと思われてしまう。
「ああ、以前から約束していたからな。今日は2人で記念式典に参加する為のスーツ選びに行こうって」
ブラッドリーが余計なことを言う……というか、妙にニヤニヤしながら説明するところを見ると、明らかに嫌がらせの為に言ってるとしか思えない。
これではまたエディットの中で僕の評価が下がってしまう。
また一歩、追放への道がちかづいてしまうじゃないか
「……」
僕は恐る恐るエディットの様子をうかがった。
「そうだったのですね。お2人は本当に仲が宜しいのですね」
しかしエディットは僕の見る限り、左程気にした様子は無かった。
よし、それなら……。
「う、うん。そうなんだ。以前からブラッドリーと約束していたらしいんだけど、ほら。馬に蹴られたショックで色々記憶が混濁しているものだから約束のこと忘れていたんだよ」
弁明するも、これでは何だか言い訳しているみたいだ。
すると何を考えているのかブラッドリーがとんでもないことをエディットに尋ねて来た。
「まぁ、そんなことはどうでもいいさ。それより、エディット。どうだった?ピンチの時に駆けつけたアドルフ。何だかヒーローみたいに見えなかったか?」
「ええ、そうですね。ブラッドリー様の仰る通り、ヒーローみたいでした」
素直に返事をするエディットは流石はヒロインだ。
けれども僕はヒーローなどでは無い。
「それは違うよ。僕はヒーローなんかじゃないよ。本当のヒーローは……」
そこではたと気付い、僕は口を閉じた。
まずい、あやうく余計なことを口走りそうになってしまった。
今から真の相手をネタ晴らししてしまえば、いざ出会った時にエディットが意識して自然に振舞えないかもしれないじゃないか。
そうなると物語の展開が変わってしまうかもしれない。
「うん? アドルフ。今何か言いかけなかったか?」
「いや、何でも無いよ」
頼むからこれ以上突っ込まないでくれ。
「でも今本当のヒーローはって……」
「それよりもさっ! エディット」
僕はブラッドリーを無視すると、エディットに向き直った。
「は、はい」
「1人で買い物に来ていたんだろう? 買い物は終わったのかい?」
「はい、買い物なら終わりました」
「なら一緒に帰ろう? 屋敷まで送るよ。また変なのに声をかけられたりしたら危ないからね」
「え……でもそれではブラッドリー様に悪いのではありませんか?」
エディットはブラッドリーを見た。
「あ~。俺のことは気にしなくていいから。それじゃ、アドルフ。ちゃんと婚約者殿を送り届けてやれよ?」
ブラッドリーは笑顔で答えると、「それじゃあな」と言って立ち去って行った。
「それじゃ僕たちも行こうか? エディットは何でここまで来たんだい?」
「実は辻馬車に乗って町まで来たのです」
「辻馬車か……僕も実はブラッドリーに乗せて貰ってここまで来たんだよね。それじゃ一緒に辻馬車に乗って帰ろうか?」
「はい、よろしくお願いします」
エディットは僕に笑顔を見せた。
その時になって、僕は気づいた。
今のエディットは僕を怖がらないで会話をしているということに――