僕とブラッドリーはこの町でも有名な貴族御用達のメンズスーツ専門店に着ていた。
「どうだアドルフ。このスーツ、似合ってるか?」
僕の前にはまるで結婚式にでも参加するかのような姿のブラッドリーが立っていた。
白いシャツに白い燕尾服。中に合わせたベストも白で、当然スラックスも白だ。
「うん……とても眩しいよ」
全身白で固められると目に染みて眩しく感じる。
「本当に眩しく感じるか? いや〜照れるなぁ……」
ブラッドリーは何を勘違いしているのか、自分の髪の毛と同じくらい、顔を赤く染めている。
そして、そんな僕達を遠巻きに見ている女性店員さん達。
「見た……? あのお客様達」
「ええ。珍しいわよね」
「普通は女性に見立てて貰うのに」
「待って、偏見の目で見ては駄目よ」
「人それぞれ好みはあるもの……」
「怪しい関係かもしれないわ」
店員さん達の会話の内容から……僕達は何やら非常に勘違いされているのかもしれない。
「よし、お前が眩しいって言ってくれたこのスーツにするか!」
又しても周囲から勘違いされそうな発言をするブラッドリー。
しかし、ここは友人として一つアドバイスさせてもらおう。
「ブラッドリー。ちょっといいかな?」
「何だ?」
「そのスーツ、試着する分にはいいかもしれないけれど……実際に着ていくのはやめたほうがいいと思うよ?」
「どうしてだよ」
「考えてもみなよ。白はこの世で一番汚れが目立つ色だと思わないかい? パーティーでは食事も提供されるんだろう?」
「ああ、立食パーティーで一流シェフを呼ぶと言ってたぞ?」
「そんな白いスーツを着て食べ物で汚れたらどうするんだい? 汚れは目立つし、シミにもなる」
「う……た、確かにお前の言う通りだな……。よし、だったら別のスーツを選ぼう」
ええっ!? まだ選ぶ気なのか!?
既に時刻は12時になろうとしている。僕はまだ全ての教科書を読み終えていない。暗記だってまだ十分とは言えないし……一刻も早く帰りたいのに!
よし、こうなったら……。
「ブラッドリー、提案があるんだけどいいかい?」
スーツを選びに行こうとしたブラッドリーを引き止めた。
「うん?」
「記念式典パーティーは来月の半ばだろう? スーツを選ぶのは月末にした方がいいと思うよ」
「何でだよ?」
「ほら、パーティが近づけばもっとスーツの種類が増えるかもしれないじゃないか?」
「う〜ん確かに言われてみればそうかもしれないな……」
「絶対そうだって。だから今日はもうスーツ選びはやめて、また来週にでも見にいけいいじゃないか」
だから早く帰らせてくれよ。
「そうだな。それじゃ来週にするか。またその時は付き合ってくれよ?」
「え? ああ、いいよ」
「よし、なら着替えてくる!」
「うん、行ってらっしゃい」
試着室へ戻るブラッドリーの後ろ姿を見つめながら思った。
女の子と行けばいいのに……と。
けれど、彼女がいればそもそもブラッドリーはナンパなんかしないだろうし、休みの日に男友達を誘って出かけることもないだろう。
きっと次の記念式典パーティーではブラッドリーは気合を入れて参加するのだろうな……。
などと考えつつ、何気なく窓の外を眺め……驚きで目を見開いてしまった。
何と、窓の外からエディットの姿が見えたからだ。
「え? エディット?」
思わず窓に駆け寄り、もう一度良く観察してみた。
「うん……間違いない。エディットだ。誰かと買い物にでも来てるのかな?」
でも、連れの姿も見えないな……。
その時――
「お待たせ」
突然背後からポンと肩を叩かれた。
「うわああああっ!」
「うわあっ!」
驚いて振り向くと、胸を押さえて身をかがめているブラッドリーの姿があった。
「何なんだよ、お前はっ! 突然大声出すなよ! し、心臓が止まるかと思っただろ!?」
「あ……ご、ごめん。いきなり肩を叩かれて驚いたものだから……」
「ああそうかい。ところで何を真剣に窓の外を眺めていたんだよ?」
ブラッドリーが窓の外を眺めながら尋ねてきた。
「うん、実は……」
「あ! 分かった! エディットがいたからか……うん? 何だか様子がおかしいな……?」
ブラッドリーが眉をしかめた。
「え? 何が? ああっ!!」
僕も再び窓の外を眺め、大きな声を出してしまった。
何とエディットが見知らぬ2人の男性と話をしていたからだ。
「ブラッドリー。あの2人を知ってる?」
記憶があやふやな僕には彼等がエディットの知り合いかどうかが分からなかった。
「いや、俺も知らないな」
首を振るブラッドリーに何か嫌な予感がする。
「ちょっと店の外に出て様子を見てくるよ」
「俺も行こう」
そこで僕とブラッドリーは連れ立って足早に店を出た――