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第6話 ヒロインの手作りクッキー

「あ……お、お気遣いありがとうございます」


エディットは僕からサッと視線をそらすように頭を下げてきた。


「そんな、お礼なんか言わなくていいよ。むしろお礼を言うのは僕の方だから。わざわざお見舞いに来てくれて今日は本当にありがとう」


「い、いえ……そのようなことは……あ! そ、そうだったわっ!」


エディットは持っていたカバンから紙袋を取り出すとテーブルの上に置いた。


「これは……?」


「は、はい……私の手作りの……お、お菓子です。咄嗟に今日アドルフ様の元に行こと決めた時、何かお見舞いの品を考えたのですが、どのような物にすればよいか思いつかなくて……昨日作ったクッキーなのですが‥…」


エディットはビクビクしながら僕に説明した。


「あ……」


そうだった。


前世を思い出す前の僕は、ひねくれ者で誰かから何かプレゼントをもらっても、余程自分の気に入った品物で無い限り、いちゃもんばかりつけていた。


現にエディットから誕生プレゼントには万年筆、クリスマスプレゼントには本を貰った事があるけれども、僕はそれに対してお礼どころか文句を言ったのだ。


趣味の悪い万年筆だとか、こんな本誰が読むかと言ってその場でゴミ箱に捨ててしまったのだ。


あの時、エディットは目に涙を浮かべながらも泣くのを必死に堪えていた。


思い出すだけで良心が痛んでくる。


「あ、あの……お気に召さなければ捨てて頂いてか、構いませんので……」


小刻みに震えながらも必死になって僕にお見舞いの品を渡そうとする。

なんて彼女は健気な少女なのだろう。


「中……見てもいいかな?」


なるべく優しい声でエディットに尋ねる。


「え? ええ、勿論ですっ!」


僕の声のトーンに驚いたのか、エディットが顔を上げる。


「それじゃ遠慮なく……」


紙袋を開けると中から出てきたのはクッキーだった。バニラエッセンスの甘い香りが辺りに漂う。


クッキーか……。

甘いものは苦手なんだけどな…。


ここで以前のアドルフだったら、切れて床の上にクッキーをぶちまけているかもしれない。


けれど、前世の記憶のほうが上回っている今の僕はそんな態度は取らない。


「あ、あの……ひょっとしてお気に召しませんでしたか……?」


泣きそうになりながらエディットが尋ねてくる。


「ううん、そんなことないよ。これ今、食べてみてもいいかな?」


やはり貰ったクッキーはその場で食べてお礼を言わないとね。


「え? あ、は、はいっ! 勿論ですっ!」


エディットの許可を貰ったので、早速僕はクッキーを口に入れた。


サクサクとした歯ごたえと甘い味が口の中に広がる。

このクッキーは甘みが押さえられていて、甘みが苦手な僕でも十分食べることが出来た。


「うん……すごく美味しい! 甘みも少ないし。こんなにクッキーを美味しいと感じたのは生まれてはじめてだよ」


僕は大げさではなく、本心から感想を述べた。


「え……? ほ、本当ですか?」


エディットが目を見開いて僕を見る。


「うん、本当に美味しいよ。……ありがとう、エディット」


僕は笑いかけた。


「あ、ありがとうございます……」


僕の気のせいだろうか?


エディットの顔が赤くなっているように見えたのは――

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