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実は既に何度もしてました

「お前! またやりやがったな?!」


 思いっきりぶん殴られたせいで、仰向けで倒されることになっていた対戦相手たる金髪オールバックの少年メゴボル。


 慌てて体を起こしつつ、その憤りをルーザーにぶつけようと、その姿を金ぴか鎧のものからここの制服らしきルーザーと比べるとだいぶ派手めへと変化させつつ、つかつかと歩み寄る。


 一方、そんな2人の脇に立ち、模擬戦の勝敗を定めていた審判と思しき男性はといえば、呆れた様子で四方を取り囲んでいた半透明の何かをホロホロと崩れさせていくと、『後はお好きに』と言わんばかりにその場を後に。


 どうやら2人の諍いを止める気は無いようだ。


「悪かったって。今度こそ、うまく行くと思ったんだけどな~?」


 メゴボルに詰め寄られたルーザーは、歪な形に整えられたやや色の抜けた黒髪を掻きながら、自分の拳をマジマジと見やっているが、どうやら本気でイケると思っていたようだ……あえなく失敗した訳だが。


対魔結界鎧マナリアル・アーマメントはマナが通っていない攻撃は防げないって、何遍なんべん言われれば理解するんだよ?!」


 対魔結界鎧マナリアル・アーマメント

 それはメゴボルの言うように、マナが通った攻撃を防いでくれる代物。


 より詳細に言えば、マナによって生み出された技や武器での攻撃を一定量肩代わりして防いでくれる魔術で、痛みや傷が体に残らず実戦さながらの訓練ができると、魔術の研鑽に重きを置いた魔術学校や魔術を含めて戦うことに重きを置いた騎士学校今ではその区別はほぼ無いに等しいが詳細はまたいずれでは頻繁に利用されていたりするものだったりする。


 ただ、肩代わりしてくれる分を超える衝撃はそのままなので、肩代わりというよりかは威力の減衰といった方がより正確かも知れないが。


 そんなマナによって生み出された魔術を防ぐという特性上、マナに依らない攻撃には無力ということで、ルーザーのグーパンの前にメゴボルは思いっきりぶっ飛ばされてしまっていた訳だ。


「理解はしてるっての。ただ、実践できなかっただけでな」


 胸を張りつつ語るルーザーに、「なんでちょっと偉そうなんだよ?!」と再び怒りを露にするメゴボル。……まぁ気持ちはわかるが。


「お前のせいでボクの体に痣ができたらどうす……痛たたた……」


 おかげであまりにも怒りすぎたせいか、それとも体を大袈裟に動かしたせいか、はたまた制服を纏っていながらも決して隠すことのできないルーザーのその鍛え上げられた肉体による一撃が重すぎたせいかは知らないが、ルーザーに殴られた顔の痛みをようやく思い出したとでもいうように、患部を手で押さえつつ膝をつくメゴボル。


「だ、大丈夫ですか!? メゴボル様!」

「い、今、治癒の魔術を!」


 すると、そんな彼を気遣うように4人の男子たちがそばに駆け寄ると、それぞれ慌てたようにメゴボルが痛ませているところに何かの魔術を施したり、マッサージや飲み物の差し入れなど、それはそれはご丁寧なまでに彼の活躍と疲労を労い始めており、それを見る限りでは、メゴボルはよほど彼らに慕われている……と言いたいところだが、実情は違う。


 実際には所謂"貴族と平民"という格差によって強制させられていることであり、男子たちはやりたいからやっているのではなく、やらないとならないからやっているに過ぎなかったのである。


 この辺りの詳細についても、またいずれ。


「悪かったって。……ほら、1発好きなとこ殴っていいから。それでチャラでいいだろ?」


 そうして、自身の特権によって至れり尽くせり状態のメゴボルに向かって、少し屈んで殴りやすくしたルーザー。


 ちなみに身長目安は以下。


 ルーザー178㎝前後。

 メゴボル165㎝(自称)――バレバレのシークレットブーツ着用時。


 確かに殴ってしまった相手への謝罪には、殴らせてやるのが筋というものではあろう。


 ……しかし。


「嫌だよ! お前殴るとの、知ってんだかんな!!」


 本気で嫌がっているといった風のメゴボルは、ルーザーのそんな親切心を拒絶する……が、それもそのはず。


 実はルーザーの言う『今度こそ』という言葉通り、マナを介さない攻撃を行っての反則負けは、何もこれが初めてという訳ではなく、この模擬戦じゅぎょうが始まって以来、実に数十回以上同じことを繰り返していたのだ。……と言うより、やらなかったことが一度もない。


 そして、その記念すべき最初の敗北時。


 同様の理由で怒っている相手に同じように殴らせようとしたルーザーの言葉通りに、対戦相手が彼の顔を殴ると……



 折れてしまったのである。

 ……殴った方の手と手首の骨が。



 このことはちょっとした話題になり、魔術学校の生徒特にルーザーと同じ新入生の間では知らない者はいないと、メゴボルはこの反応という訳だ。


「いや、あれはあいつの腕がやわなだけで……」


 そう語るルーザーではあるが、確かにその対戦相手もまた貴族であり、自らの体を鍛えあげるということは基本しない種族なので、体がやわなのは違いない。


「普通、顔面殴った方が痛がるとかねぇんだわ!! ましてや骨が折れるなんてことあり得ねぇんだわ!!」


 しかし、メゴボルの言うように常識的に考えても、顔を殴った側が被害を被るなどは想定外なことだろう。……だからこそ、当事者も骨が折れている訳だし。


「でも、実際あったろ?」

「だから皆、驚いてんのっ!! そして、ボクはお前を殴りたくないのっ!!」


 地団太を踏みながら、『何でわからないんだこいつは?!』と言った表情で憤るメゴボルには、普段は怨望隠伏えんぼういんぷくであろう従者かれらもまた、「それは確かに」と言わんばかりに頷いている。


 勿論、当の本人たるルーザーは、意味が理解できないと首を傾げている……が、解っていたらきっとこんなことは言わないので、当然と言えば当然か。


「ったく……お前という奴は……ぜぇ……ぜぇ……」

「……急にどうした?」

「どう見てもお前が原因っ!! ……って、もういい!」


 そうして、まさかこんなことに自分の体力を費やしてしまうと思わなかったとメゴボルは、ペース配分を間違えたとばかりに肩で息をし始めると、これ以上ルーザーの相手をしていても仕方ないとばかりに、フラフラしながらグラウンドの外壁にある出口へと歩きだす。


「あ! お待ちください、メゴボル様!!」

「メゴボル様!!」


 勿論、従者たる平民の彼らはそんな彼を1人で行かせる訳にはいかないと、慌てて後を追って行くのであった。


「行っちまいやがった……せわしねぇ奴らだな」

「……今のこの状況でそんな感想を持てるのは、きっと世界広しといえどもあなただけでしょうね」


 すると、そんな彼に対し可憐な声の何者かが声をかけてくる。


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