巻ノ百十五 異端の者達
服部は人知れぬ森の中にいた、彼はまずは一人だったが。
まず一人来た、その者は。
「神老ここに」
「お主が最初だ」
「そうですか」
「よく来た」
こうその神老に言うのだった。
「一番乗りのこと認めよう」
「有り難きお言葉、されど」
「他の者達もだな」
「続々とここに来ております」
神老は畏まって服部に述べた。
「ご安心を」
「そうか、ではな」
「これより」
「全ての者が揃ってから話そう」
こう言ってだ、服部は次の者達を待った。すると。
「次はお主か」
「はい」
無明だった、相変わらず表情はない。
「それがしが二番ですか」
「そうなった」
「それは残念なこと」
雷獣がその無明の横に出て来た。
「急いで来たというのに」
「それはわしも同じこと」
軽い感じの雷獣と違い双刀の口調は苦々し気だった。
「一番乗りは神老のご老体か」
「この通り」
神老は笑みを浮かべず双刀に応えた。
「幸いなことに」
「幸いというが相変わらずの速さよのう」
幻翁は霧の様に出て来た。
「わしよりも齢は上というのに」
「流石は伊賀十二神将の前の筆頭かしらね」
音精は妖艶な声で笑みを浮かべつつ姿を現した。
「そして伊賀一族の長老でもあるから」
「ただ長生きしているだけのこと」
神老は幻翁や音精達にも返した。
「何でもない」
「それでその素早さはないでありんすなあ」
音精以上に妖しい色気を醸し出す声だった、その声の主は絡繰であった。
「老いて尚盛んでありんすか」
「何、もうおなごにもおのこにも興味はなくなった」
神老はその妖艶な絡繰にも素っ気ない。白拍子の服を着ているが絡繰の色香はえも言われぬ魔性のものだったがだ。
「とうの昔にな」
「ではあるのは忍の道と強さか」
剛力が来た。
「ご老人の興味は」
「それと酒か」
氷刀の声は不敵に笑っていた。
「残念ながら今はないが」
「まあ酒は何時でも飲める」
音もなく影の様にだ、道化は一同の中に出て来た。
「一仕事終わってからでも遅くはなし」
「そうだな、折角十二神将が集まるんだ」
土蜘蛛の身体は大きい、しかし気配は完全に消していた。
「この仕事、確実に終わるぜ。わし等の勝ちでな」
「自信の程やよし、しかし」
その土蜘蛛の横に来てだ、音精は妖しく笑って言った。
「一人足りないのはわかってるね」
「ああ、わかってるさ」
土蜘蛛はその音精に余裕のある声で返した。
「全く、あの姫さんはな」
「また遊んでいるな」
やれやれといった顔でだ、剛力が述べた。
「何処かで」
「こうした時はいつも最後だな」
こう言ったのは氷刀だった。
「姫様は」
「姫ではに」
氷刀に半蔵が言った。
「決してな」
「そう言われますが」
「あの者も忍だ」
そうだというのだ。
「姫が忍になるか」
「決して」
「そうだな、ならばだ」
忍であり、というのだ。
「妹はな、十二神将筆頭であり伊賀の副棟梁だが」
「しかしですね」
「姫ではなく」
「忍であられますか」
「そうだ、そしてその妖花は何処だ」
その彼女はというのだ。
「またか」
「もうおられるのでは」
神老が言ってきた。
「あの方のことですから」
「既にか」
「はい、実は私よりも先に来られていて」
服部の前にというのだ。
「そしてです」
「この場所の何処かにいるか」
「そうではないかと」
「全く、困った奴だ」
服部は腕を組み苦い顔で言った。
「そうして自分を探すのを見て楽しむつもりか」
「おそらくは」
「ならばすぐにわかる」
服部はすぐに言った。
「あれのいる場所はな」
「では」
「私自身だ」
こう言うと服部は仮面を取った、すると。
そこに妖花がいた、妖花は笑って言った。
「あはは、どうだったかな」
「全く、またですか」
「悪戯でありますか」
「もういいお歳だというのに」
「まだその様なことをされるのですか」
「だって面白いから」
妖花は整った少女の顔で明るく笑って自分の行いに呆れて叱る十二神将達に返した。
「悪戯は」
「妖花様、そう言われますが」
双刀が咎める顔で謹言する。
「貴女様は十二神将筆頭、しかも伊賀の副棟梁ですぞ」
「しかも服部家の者だっていうんだよね」
「そうです、我等はもう伊賀の雇われ者だったのではないのです」
「幕府お抱えの公儀隠密だね」
「左様」
その通りだというのだ。
「禄も貰い大御所様直参で江戸城の門も預かっています」
「兄様のお名前が付いたね」
「そこまでの身分になったのですから」
「悪戯とかはだね」
「されぬ様」
くれぐれもというのだ。
「ご自重を」
「双刀の言う通りです」
音精も双刀の横に来て妖花に諫言する。
「公儀隠密の一つ服部家の副棟梁なのですから」
「やることやってればいいじゃない」
「そういう訳にはいきませぬ」
「まあ二人共これ位にして」
雷獣は頃合いを見て厳しく言う二人と妖花の間に入った、そうして言うのだった。
「まずは半蔵様は何処に」
「確かに。半蔵様と思っていたら妖花であられた」
剛力は雷獣の言葉に頷きそうして言った。
「では半蔵様は何処に」
「ああ、それね」
妖花は剛力にも笑って返した。
「実は中忍と下忍を数人ずつ連れて少し仕事に行っててね」
「仕事?まさか」
絡繰はそう聞いてその妖艶な眉をぴくりと動かして言った。
「既に大久保家のところに」
「違うよ、何かこの近くに怪しい者達がいたらしくて」
「物見に、ですか」
「行かれてるだけだよ」
「まさか伴天連か」
氷刃はその刀を思わず見た、己の象徴であるその刀を。
「この辺りにも出て来ているか」
「伴天連の妖術は面妖極まりない」
幻翁もその目を剣呑なものにさせていた。
「まだわかっておらぬことばかりだしのう」
「その者達を物見に行かれたのなら」
土蜘蛛も警戒する顔である。
「半蔵様なら大丈夫であろうが」
「我等のうち一人か二人だけでもお供をさせて頂きたかった」
無明は表情のない顔で言った。
「そう思うが仕方のないこと」
「すぐにここに来られる」
道化は笑っていた、何の心配もなく。
「わし等は待っていればいいこと」
「道化の言う通り、ここで待とう」
最後に神老が一同をまとめた。
「半蔵様がここに来られるのをな」
「そうそう、私の予想だと多分その辺りの物乞いか旅の者位だから」
「特に何もなく」
「ここに来られるよ」
妖花も笑って言う。
「安心していればいいよ」
「では」
十二神将達は自分達の筆頭である妖花のその言葉に頷いた、そのうえで彼等の主を待っていたが。
程なくして炎が起こりそこからだった、独特の袖が広く丈の長い忍装束を着た半蔵が来た。そのうえで。
己の前に片膝を着いた十二神将達にこう言った。
「よく集まってくれた」
「はい、それでなのですが」
神老がその半蔵に問うた、皆まだ頭を下げている。
「怪しい者がいたとか」
「何でもなかった、只の山の民だ」
「そうですか」
「そうだ、だから何もしなかった」
彼等を確かめてもというのだ。
「全くな」
「それは何より」
「我等は忍、人を殺めることもある」
「しかし」
「無暗な殺生は断じてならぬ」
毅然としての言葉だった。
「伊賀の掟にあるな」
「はい、確かに」
「だから拙者もだ」
「山の民を放っておいた」
「供をさせていた者達は持ち場に戻らせた」
彼等にも指示を出したというのだ。
「そしてだ」
「半蔵様はですね」
「ここに、ですね」
「来たのだ」
「では」
「顔を上げるのだ」
こう十二神将達に告げた。
「いいな」
「わかりました」
「それでは」
十二神将達も頷い顔を上げた、そしてここでだ。服部は彼等を立たせそのうえであらためて話をした。
「ここに集まってもらったのは他でもない」
「このまま調べていき」
「そしてですな」
「大久保家と伴天連、伊達家のつながりの証拠を手にする」
「それですな」
「うむ、しかしな」
服部はこうも言った。
「どうも伊達家はな」
「既にですか」
「足跡を消している」
「そう思っていい」
彼等の場合はというのだ。
「頭のいい御仁だ、だからな」
「我等が来る前にですか」
「調べられるのを察して」
「そして、ですか」
「もう足跡を消している」
「左様ですか」
「天下を狙っておられるが」
今も尚、というのだ。
「しかしな」
「それを表に見せられず」
「誰が見ても野心は明白ですが」
「表では面を被り」
「危うくなると去られる」
「そうされるのですな」
「そうじゃ、だからな」
それ故にというのだ。
「伊達家の証拠は最早あるまい」
「だからですな」
「幕府としては伊達家も何とかしたいですが」
「それは適わぬ」
「残念なことに」
「そうであろう、しかし大久保家と伴天連の者達は違う」
残された彼等はというのだ。
「大久保家はもうご老中がおられぬ」
「はい、当のご本人が」
「もう世を去られています」
「それではですな」
「優れ者であられたあの方がおられないので」
「我等に気付いていることもですか」
「ない、そして気付かれることもな」
これからそうなることもというのだ。
「ないわ、残るは伴天連の者達じゃが」
「あの者達ですな」
道化が応えた。
「この度厄介なのは」
「左様」
その通りだとだ、服部は道化に答えた。
「その通りじゃ」
「やはり」
「うむ、しかしな」
「それでも」
「先程話にも出たがあの者達は妖しい者達」
その伴天連の者達はというのだ。
「だからな」
「我等十二神将でも、でありんすな」
絡繰も今は口元の笑みを消して言ってきた。
「油断せず調べあちらが襲って来れば」
「全力で向かうか逃げよ」
そうせよというのだ。
「よいな」
「そのうえで」
「敵は殺せ」
そうせよというのだ。
「わかったな」
「承知したでありんす」
すぐにだ、絡繰は服部に答えた。
「それではわっちが伴天連の者達と対すれば」
「殺せ。他の者達も同じ」
服部は絡繰以外の十二神将の者達にも話した。
「皆伴天連の者達にはな」
「躊躇することなく」
「殺すのじゃ、拙者もそうする」
服部自身もというのだ。
「この度は拙者自らお主達全員を率いあたっているが」
「それでもですな」
「伊賀いや天下最強の忍であるお主達でもな」
そして史上最強の忍者と言われる服部でもというのだ。
「油断せずにな」
「即座にですな」
「その術で殺す」
「そうせよというのですな」
「その通りじゃ」
まさにというのだ。
「わかったな」
「承知しました」
「そして大久保家と伴天連のつながりの証拠を掴み」
「そして、ですな」
「そのうえで」
「ことを果たす」
「そうしていくのですな」
「うむ」
その通りだというのだ。
「わかったな」
「承知しました」
「ではこれよりですな」
「大久保家の領内に深く入り」
「城内にも忍び込み」
「そしてですな」
「証拠を手に入れ」
そしてだった。
「伴天連の者達が来れば倒し」
「駿府の大御所様の御前にまで戻る」
「そうしますな」
「全員で戻る」
一人も欠けることなくというのだ。
「よいな」
「それでは」
「その様に」
「では」
こうしてだった、服部は十二神将達と共に大久保石見守長安の本領ではなく故郷である甲斐即ち彼の本領に入ったが。
その中でだ、彼等は見たものに驚いていた。
「いや、これは」
「恐ろしい位みらびやかですな」
「天下の総代官と言われていましたが」
「それ以上ですな」
「随分とみらびやかで」
「江戸とは大違いです」
まだ町作りの最中のこの町とはというのだ。
「全く以て」
「しかも何か妙ですな」
「多くの得体の知れぬ者がうろうろしています」
「このことはあると思っていましたが」
「不気味なものです」
「怪しいですな」
「気付いておるな」
その中でもとだ、服部は変装をしたうえで自身の前にいる十二神将達に応えた。皆それぞれ怪しまれぬ恰好をしている。
「その怪しい者達もな」
「そもそも我等でないと怪しいと気付きませぬが」
「しかしですな」
「明らかに本朝の者ではない」
「そうした者が混ざっております」
「それも多く」
「あちらも変装をしておるが」
しかしというのだ。
「顔立ちがそもそも違う」
「はい、背も髪や肌の感じも」
「そして目の色が」
「南蛮の者達です」
「妙に多いです」
「三浦按針殿と似た御仁がな」
イングランドから来たウィリアム=アダムスだ、家康に重宝されてきた者の一人であった。
「多いな」
「変装してそうはわからなくなくしていますが」
「我等にはわかります」
「我等は忍」
「しかも天下の十二心神将です」
「そうじゃ、並の忍ではわからぬが」
例え変装に長けている彼等でもというのだ。
「我等にはわかる、そして何故そこまで神妙に化けて潜んでおる」
「そのことからもわかりますな」
「この地はおかしいです」
「明らかに何かあります」
「大久保殿にとって危ういことが」
「明らかに」
「大久保殿のお屋敷に入る」
服部は強い声で言った。
「最初は八王子のご領地と思ったが」
「どうも何もなく」
「怪しいものはあるにも少なく」
「若しやと思いここまで来ましたが」
「どうやら」
「お屋敷に忍び込むとしよう」
屋敷といっても城と言っていい、そうした堅固な場である。
「これよりな」
「はい、そしてですな」
「お屋敷にあると思われる証拠を掴みましょう」
「あるならばですが」
「徹底的に調べましょう」
「なければよいが」
しかしとだ、服部はこうも言った。
「わかるな」
「はい、何もなければです」
「この様な怪しい場所になってはおりませぬ」
「南蛮の者達が多く潜んでいるなぞ」
「他の国にはありませぬ」
「南蛮人達がおるのはまだいい」
それはというのだ。
「しかしな」
「はい、あまりにも多く」
「しかも化けて潜んでいるなぞ」
「おかしいと思うしかありませぬ」
「何かがあると」
「そうじゃ、間違いなくじゃ」
この地にはというのだ。
「何かあるわ」
「では」
「すぐにですか」
「お屋敷に忍び込みますか」
「これより」
「そうする、しかし」
ここでだ、服部は。
自分達が今いる林の中で自分の後ろの方にだ、右手に出した手裏剣を投げた。その手裏剣は。
後ろに潜んでいた者の額を貫き倒した、一見すると只の猟師だったが。
調べると青い目と赤い縮れた髪に髭の鼻の高い男がいた。十二神将達はその姿を見てすぐに言った。
「盗み聞きしていましたか」
「南蛮の者達ですな」
「明らかに」
「そうですな」
「林の中の気配は他にはないが」
しかしとだ、服部は自身が倒したその者を見つつ言った。
「こうした者達がおる」
「と、なりますと」
「やはり怪しいですな」
「ここには何かがあります」
「大久保殿にとって危うい何かが」
「屋敷に入る」
絶対にとだ、服部は断言した。
「よいな」
「はい、それでは」
「夜になればですか」
「屋敷に入り」
「そうして」
「手に入れるぞ、しかしな」
服部は十二神将達にさらに言った。
「あのお屋敷はな」
「まさに城」
「お屋敷どころではありませぬ」
「ですから」
「油断は出来ませぬな」
「ここにいる者達全てで行く」
その屋敷にというのだ。
「よいな」
「承知しました」
「さすれば」
「例え戦になろうともだ」
それでもというのだ。
「必ず証拠を手に入れてだ」
「そしてですね」
「我等全員が、ですな」
「生きて帰る」
「そうすべきですな」
「死ぬことは許さぬ」
こうまでだ、服部は十二神将達に告げた。
「いつも通りな」
「はい、忍の道は死ぬものではない」
「生きることですな」
「目的を果たせば去る」
「陰として」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「だからじゃ、戦をしても目的を果たせばな」
「生きて戻り」
「そして大御所様にお届けする」
「その証拠を」
「そうするぞ」
こう言ってだ。そしてだった。
服部は夜になるとすぐに大久保家の屋敷に向かった、十二神将達もそれは同じであった。
屋敷の近くの山から屋敷を見てだ、服部はまた言った。
「見れば見る程だな」
「はい、全く以て」
「堅固なものです」
「見張りの兵達も多く」
「特に」
見れば南蛮の者達も多かった、変装はしているが彼等の目から見れば変装をしているのは明らかだった。
「南蛮の者達が」
「妖気さえ感じます」
「あれを見ますと」
「どうにも」
「楽に勝てる相手ではない」
こうも言うのだった。
「我等の任を果たすことはな」
「左様ですな」
「どうにもです」
「あの者達は強いですな」
「気もまた」
「しかしじゃ」
それでもとだ、服部はここでまた言った。
「それで諦める訳にはいかぬ」
「はい、あの城に入り込み」
「そして手掛かりを手に入れましょう」
「あの屋敷の何処かにあるそれを」
「我等の手で」
「お主達を分ける」
服部は城に入るそのやり方も述べた。
「北からは神老、無明、道化だ」
「はい」
「わかりました」
「それなら」
「そしてだ」
三人の言葉を聞きつつだ、服部はさらに告げた。
「双刀、音精、雷獣は東だ」
「承知しました」
「では」
「我々はそこから」
「西はだ」
服部はさらに言った。
「絡繰、剛力、氷刀だ」
「わかったでありんす」
「見事果たして見せます」
「お任せを」
「南にも向ける」
その南はというと。
「土蜘蛛、幻翁、そして妖花が行け」
「よし、それでは」
「そちらはお任せを」
「私達が行くわ」
最後の三人も応えた、そしてだった。
服部は自分自身がどうするか、それも言った。
「私はそなた達が戦い敵を引き寄せている間にだ」
「単身乗り込まれ」
「そして、ですね」
「手掛かりを得る」
「そうお考えですね」
「そうだ」
その通りだというのだ。
「だからだ、いいな」
「はい、わかりました」
「それならです」
「今から入り込みましょう」
「全員で」
「それではな」
こう言ってだ、そのうえでだった。
全員でだ、屋敷を囲みそうしてだった。入り込もうとするが。
早速だった、屋敷の外に来た時点でだ。敵は言葉もなく攻めてきた。
鉄砲が放たれた、十二神将達はその鉄砲をかわしつつ言った。
「いきなりか」
「問答無用で撃って来るとは」
「我等も気配を消していなかったとはいえ」
「いきなりとはな」
「随分手荒な者達だ」
「全く以てな」
「さて、鉄砲だけではないでありんすよ」
絡繰は楽し気に笑って言った。
「これは」
「確かな」
絡繰りの隣にいる氷刃も言った。
「いきなりとはな」
「しかもだ」
剛力もいう。
「それだけではない」
「出て来たでありんすよ」
絡繰の言葉と共にだった。
異形の者達が出て来た、その彼等は。
妖しい感じでだ、絡繰はこうも言った。
「この連中でありんすな」
「伴天連だな」
氷刃も言う。
「間違いなく」
「そうでありんすな」
「妖術を使うか」
「さて、その妖術はどうしたものか」
剛力は彼等を見据えていた。
「見せてもらうか」
「そうするとしよう、そして」
「今からだ」
「楽しむでありんすよ」
こう言ってだ、三人はそれぞれだった。
その伴天連の者達に向かった、異形の南蛮人達は炎や氷を出し体術も使ってそのうえでだった。
彼等に襲い掛かるがだ。
絡繰その両手から無数の糸を出した、その糸がだ。
南蛮人達に絡みつき縛り上げる、首を絞めて次々と屠り。
その死ぬ様を見てだ、こう言うのだった。
「守りは弱いでありんすな」
「術が強くともか」
「そうでありんすよ」
その拳とそこから繰り出す気で敵を次々に吹き飛ばす剛力に言う。
「この連中は」
「妖しげな術でもか」
「当たれば痛いでありましょうが」
しかしというのだ。
「当たらなければどうということはなく」
「守りはか」
「この通りでありんすよ」
簡単に絡め取り縛り殺せるというのだ。
「簡単にでありんす」
「それはいいことだな」
「それは剛力もでありんすな」
「確かにな。この者達の術は奇抜だが」
拳一撃で吹き飛ばし壁にめり込ませて絶命させている。
「当たらぬしだ」
「動きもでありんすな」
「鈍い」
「わっち等から見れば」
「どういうことはない」
その程度だというのだ。
「十二神将から見ればな」
「その通りでありんすな」
「しかし数はそれなりにいる」
氷刃は己の刀を抜いていた、刀身から水が滴り落ちそれが瞬時に氷となって地面に落ちて割れている。
「用心が必要だ」
「だから氷刃もでありんすな」
「そうだ、斬る」
こう言ってすっと前に出てだ、その動きを止めることなく。
前から来ていた伴天連の者達を次々に斬って捨てた、斬られた者は全身が瞬時に凍り砕け散る。
そのうえで刀を一閃させると氷の刃が放たれその刃を受けた者も凍り砕け散る、絡繰はその氷刃の術を見て言った。
「相変わらず見事でありんすな」
「そう言うか」
「恐るべき氷使いでありんすよ」
こう言うのだった。
「天下一の」
「だといいがな」
「そこでそうだと言わないでありんすか」
「まだ剣技が未熟だ」
その刃を手にしての言葉だ。
「だからだ」
「そうだと言わないでありんすか」
「左様、それはお主もであろう」
「決して油断するな」
今度は両手から炎を放ってだ、絡繰は敵を焼き殺しつつ応えた。
「半蔵様のお言葉でありんす」
「ならば余計にだ」
「慢心なぞせずに」
『戦うまでだ」
「そういうことでありんすな」
「ここは我等が攻める」
この場にいる三人でというのだ。
「ではいいな」
「わかったでありんすよ」
絡繰も頷いてそしてだった。三にはその場で戦い敵を引き付けていた。そしてこの場だけではなく。
雷獣、音精、双刀もだった。彼等の術で戦っていた。
音精が横笛を吹くとだった。
鎌ィ足が生じ前から来た敵達を切り裂く、そうして言った。
「ここは私に任せてくれるわね」
「うむ」
双刀は右の刀を放ち左の刀で近くの敵を両断しつつ応えた。
「その場はな」
「そしてそちらはだね」
「わしが受け持つ」
右の刀が回転しつつ戻りその飛ぶ先にいる敵を両断していく、双刀は右手でその柄を何なく受け取って言った。
「この通りな」
「いつも思うけれどよく受けられるね」
「投げた刃をか」
「戻る様に投げられてね」
「これがわしの術だからな」
「出来るっていうんだね」
「そうだ」
見ての通りにというのだ。
「わしならばな」
「簡単に言ってくれるね」
「全くです、私なぞは」
電光石火の動きで駆け回りつつだ、雷獣はその手から凄まじい稲妻を放って敵を倒していく。その動きに追いつける伴天連の者達はいない。
「雷を使えるだけで」
「それが凄いのよ」
音精はこう返した、横笛を吹いて今度はそこから出す音で敵を倒しつつ。
「私は音とか風を使うだけだよ」
「複雑な動きで」
「あんた達程じゃないさ」
その攻撃はというのだ。
「とてもね」
「私はそうは思いませんが」
「わしもだ」
「私から見ればそうなのよ」
二人の方がというのだ。
「かなりね」
「だといいですが」
「そうだな」
「まだまだ半蔵様には及びません」
「あの方にはな」
「あの方はね」
音精も言う。
「流石にね」
「別格」
「そう言うのだな」
「そうだよ」
実際にというのだ。
「天才と言うべきよ」
「そうだな、確かに」
「あの方は」
双刀と雷獣も頷いて答えた。
「本朝はじまって以来の忍」
「あの方ならばな」
「お一人でも果たされる、我等がここで伴天連の者達を抑えればな」
それでとだ、音精は言いつつ横笛を吹いて鎌ィ足や見えない音の一撃で敵を屠り他の二人も戦うのだった。
神老は何もしない、だが。
彼に向かって言った伴天連の者が刀を奪われその刀で胸を貫かれ息絶える、火球を放った者は。
その火球が神老の手で弾き返され放った伴天連が自分の火球を浴びて倒れる、無明はその横で短い槍で敵を薙ぎ倒し。
左手の短筒も放ちつつ神老に言った。
「いつも通りの鏡の術」
「わしは動かぬ」
実際に動かずだ、神老は無明に応えた。
「刀も使わず術もな」
「使わずに」
「相手の術を返す」
「名付けて鏡の術」
「鏡として敵の術を返し倒す」
「それご老の術」
「伊賀の術でも屈指の術をそこまで使うとは」
道化はその手に持っている奇妙な杖を動かした、すると。
周りにいる伴天連の者達が倒れ動けなくなりそのまま地面に上から押し潰される、そうして敵を倒しつつ言うのだった。
「相変わらず見事」
「何、ものぐさ故に」
「その術を見に着けたっていうんですな」
「そうじゃ」
こう道化に答えた。
「わしはそれだけ」
「しかし見事や」
「まことに」
道化だけでなく無明も言う、無明は淡々と近くに来た敵は槍で刺し払い遠間の敵は短筒で倒していっている。
「我等十二神将の長老だけはある」
「ただ歳を重ねているだけ、では」
「ここは」
「この場にいる敵を倒していこう」
伴天連の者達は本朝にはない小刀を投げてきたりもする、だが神老はその小刀、ダガーも弾き返してだった。
敵達の喉を貫く、この場も三人で圧倒的多数を寄せ付けていなかった。
幻翁は一旦十人に増えた、そうして。
その十人が全員手裏剣を放ち伴天連達を薙ぎ倒す、そうして一人に戻ってからこんなことを言った。
「本来のわしには当たらんかったのう」
「当たる筈もない」
土蜘蛛は巨大な鉄球が付いた鎖を振り回す、その鉄球で敵を次から次に叩き潰してその鎖の柄の先の外に半月状になっている鎌でだ。
近くの敵を切り裂く、巨体からは思いも寄らぬ素早い動きでそうして敵を倒していっている。
「爺様の術は完璧だからな」
「幻術はか」
「そうだよ、凄過ぎてな」
それでというのだ。
「誰も見破れないさ、それにな」
「見破ってもじゃな」
「爺様に攻撃を当てるなんてな」
それこそというのだ。
「そうそういるか」
「ほっほっほ、お主達なら出来るやもな」
「その時はどっちも死ぬだろ」
十二神将同士が戦えばというのだ。
「それこそな」
「そうであったな」
「伊賀者は私闘は禁じているからな」
それは絶対のこととしてだ、服部が定めているのだ。
「しないさ」
「掟は掟じゃ」
「そういうことだ、さてここも随分変な奴等がいるが」
「何てことないよ」
妖花は笑ってだった、そのうえで。
その手に一輪の白い花を出した、その花を空に投げると花びら達が散り増えていき花吹雪となり。
その花が全て燃える炎の花びらとなりだった、周りにいる伴天連の者達を焼き尽くす、土蜘蛛は妖花のその術を見てこんなことを言った。
「姫さんの術は何時見ても奇麗でおっかねえな」
「姫じゃないよ」
妖花は自身の術で焼かれる伴天連の者達を見つつ微笑んで言った。
「私はね」
「じゃあ何だよ」
「何かな」
言ってもわかっていないという返事だった。
「実際のところ」
「おいおい、自分でわかってなくて言うのかよ」
「何かね」
「全く、何でそう抜けてるんだよ」
土蜘蛛は妖花に呆れて返した。
「普段は」
「だって私忍術は興味があるけれど」
それでもというのだ。
「他のことはね」
「興味ないっていうんだな」
「だからね」
笑って言うのだった。
「今だって」
「わかってなくてかよ」
「言ったんだ」
「やれやれだな、とにかくな」
「うん、ここはね」
「この伴天連の連中倒すか」
倒されても倒されても出て来る彼等をというのだ、屋敷から土蜘蛛の言う通り次々に出て来ている。
「そしてな」
「この連中の目を引き留めてね」
「半蔵様にお任せしようぞ」
幻翁も言ってきた。
「屋敷の中はね」
「そうだね、兄上ならね」
服部、彼ならとだ。妖花も言う。
「絶対に大丈夫だよ」
「うむ、あの方ならな」
「必ず証拠を掴んで」
そしてというのだ。
「帰られて来るよ」
「我等はそれまでここで戦う」
「そうしていこうね」
「ほっほっほ、では半蔵様をお待ちするまで」
幻翁はまた出て来た敵達を見つつ笑って述べた。
「存分に死合うか」
「ああ、楽しんでな」
土蜘蛛もその幻翁に応える。
「お待ちしような」
「さて、じゃあまたやるよ」
妖花はまた構えた、だが構えは先程とは違い。
両肩から炎の翼を出しその翼を羽ばたかせ無数の炎の羽根を矢の様に放ってそれで敵を焼く、そうして戦ってだった。
服部を待つのだった、彼等の棟梁は既に屋敷に入っていた。
巻ノ百十五 完
2017・7・16