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巻ノ九十九

                 巻ノ九十九  さらば都

 服部はすぐにだった、駿府の家康のところに参上し彼に後藤のことを話した、そのうえで家康に言うのだった。

「後藤殿を是非です」

「召し抱えよというのじゃな」

「はい、幕府が」

「うむ」

 家康はまずは鷹揚にだ、服部に頷いた。そのうえでこう言ったのだった。

「動くか、しかしな」

「大名家にお仕えすればですか」

「それで諦める」

「そうされますか」

「確かに又兵衛はすぐに去ろう」

 どの大名家に仕えてもというのだ。

「黒田家はかなり怒っておるからな」

「その都度横槍を入れられて」

「そうしてな、しかし他の大名家におるならじゃ」

「そうした方はですな」

「幕府としては召し抱えられぬ」

 こう言うのだった。

「他の家のものを取り上げられるか」

「それは」

「そんなことをすれば幕府の性根が疑われるわ」

「他の家や人の家のものを奪うなぞ」

「それは盗人のすることじゃ」 

 まさにというのだ。

「幕府は武士、盗人ではない」

「だからですな」

「それは出来ぬ、どの家にも仕えていない時にじゃ」

「その時を見計らい」

「誘いをかけようぞ」

「そうされますか」

「うむ」

 こう服部に述べた。

「そうする」

「わかりました、それでは」

「機を逃さずにな、しかしな」

「しかしとは」

「いや、又兵衛は天下の豪傑」

 家康もこう言うのだった、後藤については。

「しかしその芸術が流れ者になるとはな」

「残念なことですな」

「人の世はわからぬものにしてもな」

「あれだけの方がそうなるとは」

「確かに残念じゃ、しかし機を見てな」

「必ずですな」

「あの者は幕府に入れよう」

「その様に」

「あのままにしておくのは実に惜しい」

 こう言うのだった。

「わしもそう思う」

「それでは」

「うむ、わしもあの者を欲しい」

「是非幕臣に」

「万石、大名としてな」

「召し抱えられますか」

「うむ、若し豊臣家に入れば」

 後藤がそうなればともだ、家康は服部に話した。

「やはりな」

「非常にですな」

「厄介なことになる」

「これで勢い付いて」

「さらに言うことを聞かなくなる」

「そうなることは目に見えております」

「まだ大坂の男衆はよい」

 彼等はというのだ。

「だが厄介なのはな」

「おなご衆です」

「皆言うておる」

 崇伝や正純、柳生といった知恵袋達もというのだ。

「茶々殿といい大蔵局殿といいな」

「大坂のおなご集は城の外がわかっておられませぬ」

「全くな」

 まさに何一つというのだ。

「そうした有様であるからな」

「若し後藤殿が大坂に入られれば」

「余計に勢い付いてな」

「おかしなことをされますか」

「そうなるのは目に見えておる」

「だからですな」

「大坂には渡さぬ」

 即ち豊臣家にはというのだ。

「出来るだけそうした者は早めにこちらで何とかすべきか」

「はい、召し抱えまして」

「幕府でな」

「そしてこちらの力にすべきかと」

「だから又兵衛もじゃな」

「そう思いまする」

「では時を見てな」

「是非共です」

「召し抱えようぞ」

 家康は服部に約束して実際に後藤を召し抱える機会を待つことにした、しかし今はその時がなくてだった。

 後藤を召し抱えることは出来なかった、天下でそうした流れになっている間にもだ。

 幸村達は修行を行っていた、筧は果心居士から仙術を教わり続けていた。彼もまた一刻一刻ごとにその術の腕を上げていっていた。

 それでだ、果心居士も彼の術を見て言った。

「このままいけば間もなく」

「それがしの仙術はですか」

「免許皆伝じゃ」

 そうなるというのだ。

「数日中にもな」

「そこまでですか」

「よくなられている」

 その術がというのだ。

「だからな」

「このままですな」

「励まれよ、五行だけでなく八卦も意識出来てきてな」

 それでというのだ。

「実にじゃ」

「よくなっていて」

「数日中にな」

 まさにというのだ。

「あの免許皆伝じゃ」

「そうですか」

「そしてな」

「はい、そのうえで」

「さらに腕を磨かれよ」

 免許皆伝となったそれからもというのだ。

「わかっておられると思うが」

「免許皆伝からですな」

「はじまりとなる」

 本格的なそれにというのだ。

「だからな」

「それからもですな」

「鍛錬に励まれてじゃ」

「より強くなる」

「そうなられよ、むしろそれがし以上にな」

 果心居士は筧にこうも言った。

「強くなられよ」

「果心居士殿以上に」

「そうじゃ」

 まさにととだ。筧に強い声で告げた。

「是非な、そしてな」

「では」

「術を使われよ」

 筧にこうも言った。

「ここでな」

「はい、それでは」

 筧は果心居士に応え術を使ってみせた、五遁の術、自身の周りにそれぞれを乱舞させるその術を使ってみせた。

 その術を見てだ、果心居士は言った。

「見事、ではな」

「次はですな」

「同時にじゃ」

 その五遁の術をというのだ。

「使われよ」

「それでは」

 今度はそうしてみせた、三つ同時に相性の悪い術を省きそれを五通り使ってみせた。二つもしてみせた。

 それを見てだ、果心居士はまた言った。

「うむ、よい」

「左様ですか」

「やはり出来ておる」

「八卦もですな」

「見事に頭に入れておられる」

 そうなっているというのだ。

「よい感じじゃ」

「それでは」

「このままいかれよ」

 筧にまた言った。

「さすればな」

「免許皆伝となり」

「さらに強くなられる」

「果心居士殿よりも」

「そして存分に働くことが出来よう」

「さすれば」

「このままな」

 まさにというのだ。

「強くなられよ」

「わかり申した」

 筧は頷いてさらにだった、幸村と共に果心居士から修行を受けていった。そして遂にその術を彼に認められて。

 免許皆伝となった、ここで彼は果心居士にあらためて言われた。

「ではこの都の片隅でな」

「我等のことをですか」

「聞かせてもらう」

 微笑んでの言葉だった。

「是非な」

「そうして頂けますか」

「存分に働かれよ」

「その時が来れば」

「是非な」

「そうさせて頂きます」

 筧は果心居士に畏まって答えた。

「十二分に働き」

「そして死なぬな」

「その時は」

「それがし達必ずや」

 幸村もここで言った、家臣の晴れの場に立会いつつ。

「死ぬ時と場所は同じ」

「さすれば」

「その様に」

「お頼み申す、どうも天下は」

 ここでだ、また言った果心居士だった。

「長い目で見て泰平に向かっていますが」

「それでも」

「はい、途中何かあります」

「その何かの時が」

「まさにかと」

 その時だというのだ。

「そう見ています」

「では」

「その時に働いて下され」

 こう言ってだ、そしてだった。

 幸村と筧は果心居士と別れた、そしてそのうえで九度山に戻ろうとしたがふとだった、ここで一人の身なりは侘しいが見事な趣の男と擦れ違った。

 その男と擦れ違ってだ、幸村は言った。

「長宗我部殿ですな」

「左様」

 盛親は幸村に一言で答えた。

「真田殿ですな」

「はい」 

 幸村も一言で答えた。

「左様です」

「何度かお会いしていますな」

「関ヶ原の前は」

「またお会い出来て何よりです」

「拙者もです」

「してこれからどうされる」

 双方擦れ違ったその瞬間で止まっている、盛親は幸村にそのうえで問うた。

「貴殿等は」

「貴殿と同じかと」

 これが幸村の返事だった。

「それは」

「そうか、では」

「はい、時が来れば」

「その時にまたお会いしようぞ」

「ですな、しかし長宗我部殿は」

「わしは貴殿とそこは同じであってもな」

「それでもですな」

「望みも果さんとしていることも違う」

 そうだというのだ。

「やはりな」

「その様ですな」

「しかしな、それでもな」

「そこは同じですな」

「うむ、ではまたな」

「お会いしましょうぞ」

 こう話してだ、そしてだった。 

 双方まずは別れた、そのうえで幸村は筧と共に九度山に戻った。そこで再び修行の日々に戻ったが彼ははっきりと感じていた。

「近頃な」

「はい、前よりもです」

「見張りが多くなっています」

「紀伊を守る浅野家だけではなくです」

「伊賀者も増えています」

「服部殿ご自身も来ておられますな」

「かなりの気を感じます」

 十勇士達が幸村に口々に述べた。

「そこまで我等を警戒しておるとは」

「幕府はそこまで我等を危険だと思われていますか」

「そうなのでしょうか」

「我等に対して」

「真田は天下を望まぬ」 

 これは決してだとだ、幸村は言い切った。

「あくまで家を残したいだけじゃ」

「既に家は残っています」

「源三郎様が継がれています」

「その点はもう憂いがありませぬ」

「何も」

「そうじゃ」

 その通りというのだ。

「しかしじゃな」

「はい、それでもですな」

「幕府は我等を警戒していますな」

「大殿についても」

「そのうえで我等も」

「力じゃな」

 幸村は何故幕府は自分達を警戒しているのかわかっていた、それがどうしてなのかを。

「我等の」

「我等の力ですか」

「それを恐れてですか」

「常に警戒しておる」

「そうなのですか」

「並の者なら流罪にすればな」

 それでというのだ。

「終わりじゃ、しかし我等の腕を見てじゃ」

「一騎当千の」

「それをですか」

「父上の軍略もな」

 これも含めてというのだ。

「それにどうやら拙者もな」

「それは当然かと」

「殿の軍略もまた天下のものです」

「天下の軍略ですから」

「幕府も警戒します」

「そもそも真田家は警戒されておる」

 幕府、つまり徳川家からというのだ。

「戦で何度も破ってきた」

「それだけにですな」

「我等は常に警戒されている」

「そうなのですな」

「そうじゃ、おそらく我等が天下からいなくなるまで」

 まさにその時までというのだ。

「幕府は警戒し続けるやも知れぬな」

「ですか、天下からいなくなるまでですか」

「我等がですか」

「その時までは」

「特に父上であるが」

 天下の軍略家である昌幸はというのだ。

「しかしな」

「我等も然りですか」

「幕府にとっては警戒すべき相手ですか」

「それも非常にですか」

「手強い相手ですか」

「そうじゃ、そして我等が幕府につくことはないこともじゃ」

 それもというのだ。

「わかっておるからな」

「そうしたことが揃っているが為に」

「我等を警戒し続け」

「服部殿ご自身も来られますか」

「あの方も」

「そうであろう、それでじゃが」

 幸村は十勇士達にさらに話した。

「服部殿は拙者は御主達に比肩する忍じゃ」

「ですな、その下にいる十二神将と共に」

「我等に勝るとも劣らぬ方ですな」

「その忍術は風魔小太郎殿や雑賀孫市殿と同じだけであり」

「殿や我等とも」

「そうした方まで見に来ておられる」

 だからこそというのだ。

「ここはじゃ」

「はい、くれぐれもですな」

「用心し」

「そうしてですな」

「そうじゃ、警戒していこう」

 こう言ってだ、そのうえでだった。

 幸村達は自分達が見張られていることを念頭に置いて動く様になった。それで隠れることをこれまで以上に徹底していったが。

 服部は彼等の動きを見てだ、その十二神将達に言った。

「わかるな」

「はい、常にですか」

「九度山を出て天下を見て回っていますな」

「傍目ではわかりませぬが」

「確かにそうしていますな」

「真田殿は大人しくされているかというとな」

 幸村も彼の下にいる十勇士達もというのだ。

「ないと思うな」

「はい、それはです」

「最初からないと思っていましたが」

「動きを見ますと」

「余計にですな」

「わしとそなた達だからわかること」

 服部は腕を組み確かな顔で九度山を見据えていた、そのうえで一人一人独特の身なりをしている十二神将達に話した。

「真田殿は天下を見て回っておられる」

「そしてですな」

「修行にも出られていますな」

「そして鍛錬から強くもなられている」

「左様ですな」

「どういった修行かまではわからぬが」

 天下のというのだ、服部もそこまではわからない。

「十勇士は次から次にな」

「強くなられていますな」

「非常にですな」

「強くなられている」

「そうなのですな」

「そうじゃ」

 まさにというのだ。

「何の為に強くなられているか」

「そのことも気になりますな」

「まさか幕府と戦う」

「そうしたことも考えておられますか」

「そこまで」

「そうやも知れぬ、しかし九度山から出入りされていることはわかっても」

 それでもだった、服部そして彼のすぐ下で伊賀者達を束ねる十二神将達もそこまではわかるがというのだ。

「だがな」

「誰が何時何処に行っているか」

「どの道を使っているか」

「それまではですな」

「わかりませぬな」

「うむ」

 そうだというのだ。

「そこまではな」

「残念ですが」

「そこまでは、です」

「我等もわかりませぬ」

「どういった動きをしているのか」

「そこまでは」

「そうじゃ、真田の者達はそこまでは掴まさせぬ」

 服部は十二神将達に苦い顔で話した。

「それはな」

「厄介なことに」

「そこまでは、ですな」

「見られませぬな」

「我等ですら」

「そうじゃ、まことにじゃ」

 実に、というのだ。

「そこは見事じゃ」

「左様ですな」

「流石は真田殿と言うべきか」

「何時何処をどう行き来しているかまでは見せぬ」

「出入りだけはわかっても」

「それでもですな」

「わからぬ、しかし何か考えておられるには確か」

 出入りがあることからというのだ。

「やはりこのままじゃ」

「何かあればですな」

「それが見られれば」

「大御所様にお伝えする」

 家康、彼にというのだ。

「わかったな」

「はい、そうしましょう」

「是非共」

「必ず尻尾を掴みましょうぞ」

「真田殿のそれを」

「後藤殿も真田殿も豊臣家についてもらいたくない」

 服部は本音も述べた。

「この方々はな」

「ですな、どちらの方も」

「お強いですから」

「片や天下の豪傑片や天下の智将です」

「見事な方々ですから」

「余計にじゃ」

 服部は十二神将達にさらに言った。

「豊臣家に入るとな」

「それだけで、ですな」

「茶々様が勘違いされますな」

「力を得たと」

「天下人に相応しいと」

「うむ、そうじゃ」 

 だからだというのだ。

「余計にじゃ」

「豊臣家には行って欲しくない」

「左様ですな」

「それはですな」

「どうしても」

「うむ、後藤殿も真田殿もな」

 二人共というのだ。

「豊臣家には行って欲しくない、むしろな」

「幕府にですな」

「入ってもらいたいですな」

「後藤殿も真田殿も」

「左様ですな」

「そうじゃ」

 その通りだとだ、服部の返事は変わらなかった。

「わしは大御所様に既に後藤殿のことはお話している」

「左様でしたな」

「後藤殿が浪人になればですな」

「またそうなれば」

「その時は」

「幕府としても召し抱えるべきだとな」

 是非にというのだ。

「申し上げた、そして次はじゃ」

「真田殿ですか」

「あの方もですな」

「幕府としてですな」

「召し抱えるべきとですか」

「大御所様に申し出ますか」

「そうする、しかしな」

 ここでだ、服部は難しい顔になり言った。

「大御所様は真田殿だけはじゃ」

「どうしてもですな」

「召抱えられぬ」

「真田家の方ですから」

「徳川家は真田家に何度もしてやられてきた」

 服部はその徳川家に仕えている、それ故の言葉だった。

「三方ヶ原でも上田城でもな」

「常にですな」

「やられてきました」

「いくらで攻めても」

「そうでしたな」

「そうであった、だからな」

 それ故にというのだ。

「大御所様もじゃ」

「真田殿はですか」

「召し抱えられぬ」

「そうだというのですな」

「どうしても無理じゃ」

 家康の心境的にというのだ。

「そして真田殿もな、後藤殿はともかくな」

「幕府にはですか」

「つきませぬか」

「そうした方ですか」

「星の巡りじゃ」 

 ここで服部は空を見た、夜空に赤い星があった。それは十の星達を周りに置き天に大きく輝いていた。そして。

 もう一報に黄色くその赤い星よりも遥かに強く大きく輝く黄色い星があった、その星は様々な色の大小の星達が輝いていた。

 その星達を見てだ、服部は言った。

「真田源次郎殿は幕府に入らぬ」

「別ですか」

「幕府とは別にある」

「そうした方ですか」

「その様じゃ」

 こう言うのだった、十二神将達に。

「あの御仁はな」

「ですか、では」

「真田殿だけはですか」

「幕府にはつかぬ」

「そうなのですか」

「ならば出来る限りな」

 服部は願う様に言った。

「もう天下は乱れて欲しくない」

「若し乱れれば」

「その時はですな」

「真田殿は幕府の敵となる」

「だからですな」

「そうじゃ」

 その通りだというのだ。

「だからこそじゃ」

「では、ですな」

「豊臣家には自重してもらいますか」

「それが第一ですな」

「そうじゃ、しかし茶々様はまことに意固地な方じゃ」

 服部から見てもだ。

「だからな」

「それが、ですな」

「中々難しい」

「左様ですな」

「そうじゃ、あの方はどうにもならぬやもな」

「どうにかしたくても」

「それでもですな」

「そうじゃ」 

 実際にというのだ。

「だからな」

「ここは、ですか」

「我等がですか」

「一働きですか」

「いや」

 服部は彼等を止めた。

「それは止めよ」

「その時ではない」

「だからですか」

「城に入ろうと思えばな」

 大坂城にというのだ。

「御主達ならばな」

「はい、すぐです」

「すぐに入られます」

「それも容易に」

「しかしじゃ」

 それでもとだ、服部は十二神将達に言った。

「それはさせぬ」

「決してですな」

「そうじゃ」

 その通りだというのだ。

「大御所様が言われぬ」

「それはですな」

「大御所様もわしもあの城のことはよく知っておる」

 大坂城、天下の名城とされているこの城のことをというのだ。

「隅から隅まで、抜け道の一本一本までな」

「長い間あの城にいましたし」

「だからですな」

「殿も忍び込めて」

「我等に命じられることも出来ますな」

「茶々様の居場所もわかる」

 肝心の彼女のそれもというのだ。

「そして茶なりあの方がよく吸われる煙草の煙管の吸い口なりにじゃ」

「毒を入れるか塗っておけば」

「それで、ですな」

「それで終わる」

 まさにそれだけでというのだ。

「しかも無事に帰られる」

「そこまでおわかりですか」

「あの城のことを」

「そうじゃ、茶々様はおろかお拾殿もじゃ」

 名目上の主である秀頼もというのだ。

「実に楽にことを為せる、若しお拾様がおられなくなれば」

「豊臣家は終わりですな」

「もう豊臣家はお拾様お一人だけ」

「そうした状況ですので」

「それこそですな」

「それだけで終わる」

 茶々か秀頼を暗殺すればというのだ。

「何も苦労もなしに済む」

「如何に堅城といえども」

「あの大坂城でもですな」

「半蔵様や我等なら楽に忍び込めて」

「そして、ですな」

「ことは終わる、しかしわしは大御所様の命で動くしじゃ」

 それにというのだ。

「大御所様はお命じになられぬ」

「だからですな」

「我等も動いてはならぬ」

「そうなのですな」

「御主達ならわかる筈じゃ」

 伊賀者達を己の下で束ねる十二人の上忍にして股肱の者達である彼等というのだ。

「わしの考えがな」

「はい、実に」

「よくわかりました」

「それではです」

「我等は決して」

「そうしてもらう、軽挙はならぬ」

 例え何があろうとも、という言葉だった。

「天下は戦にならずにな」

「穏やかに戦の世が終わる」

「このままですな」

「だからこそ軽挙を慎み」

「見張るだけですか」

「真田殿も然りじゃ、願わくばこのままでいってもらいたい」 

 平穏なままでというのだ。

 こう話してだ、服部は今はその場を後にした。そのうえで十二神将達に見張りを任せて今は彼が家康に伝えられた任に赴いた。彼が果たすべき次の任に。



巻ノ九十九   完



                       2017・3・15



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