巻ノ四 海野六郎
幸村一行は信濃から美濃に入った、その美濃の東に入りだ。
先に進みつつだ、川を前にすると。
海野は幸村にだ、こう願い出た。
「殿、そろそろお昼なので」
「飯をか」
「川魚は如何でしょうか」
「よいな、ではこれからか」
「はい、それがしが獲って来ます」
「ではあれじゃな」
海野の話を聞いて由利が彼に言った。
「釣るのではなく川に入ってか」
「そうじゃ、釣りも得意じゃが」
それ以上にというのだ。
「やはりわしは川に入って獲るのが好きじゃ」
「まさに河童じゃな」
「だからわしは河童じゃ」
自分からだ、海野は笑って由利に答える。
「水の中ではお手のもの、幾らでも深く潜れるし幾らでもいられるぞ」
「息が詰まらぬか」
「人の十倍は潜っていられる」
時間もというのだ。
「平気じゃ、それも」
「つくづく凄い男じゃのう」
「水にかけてはな、ではな」
こうしてだった、海野はその川、結構に広く深さもある川に入りだ、次から次にとだった。
魚を川の中から放り出して来る、どれも大きなものばかりだ。
それを見てだ、穴山も唸った。
「一度も息つぎに出ぬしな」
「それにじゃな」
「うむ、大きな魚ばかりな」
「次から次に出してくるではないか」
由利も唸って言う。
「言う通りな」
「凄いのう」
「まさに河童じゃな」
「水でこれだけ出来る者はおらぬ」
「全くじゃ」
「そうじゃな。れはな」
幸村も海野の魚獲りの様子を見て言う。
「到底出来ぬ」
「並の者には」
「水練の達人にしても」
「これはです」
「相当ですな」
「河童と言うだけはある」
幸村も海野が自ら言った言葉をここで言った。
「魚を獲るのもお手のものか」
「ですな、あっという間にです」
「かなりの魚が出ましたな」
見れば川岸に相当な数の魚が跳ねている、ぴちぴちと音を立てて。そして海野もだった。
川から出て来てだ、幸村に問うた。
「これ位で宜しいでしょうか」
「うむ、むしろ多い位じゃ」
「多い分は干して後で食べましょう」
「いざという時にじゃな」
「それでどうでしょうか」
「そうじゃな、これからどうなるかわからぬ」
道中ではとだ、幸村も海野の言葉に頷く。
「ではな」
「はい、それでは」
「余る分は干してな」
「今食べる分は焼いて」
「そして皆で食しようぞ」
四人でと言うのだった、そしてだった。
一行は幸村が言う通り川岸で魚を細い木に刺したうえで火で炙って食べた、幸村はこの時三人にこう言うのを忘れなかった。
「よく炙るのじゃ」
「魚をですか」
「じっくりと」
「火が通っただけではよくない」
こう言ってだ、幸村は実際にすぐに魚を手に取ろうとはしない。炙られ火が中までじっくりと通るのを見ている。
「じっくりと炙ってから食する」
「虫ですな」
海野が目を光らせて幸村に問うた。
「それに気をつけて」
「魚は美味い、しかしな」
「中には虫がいますな」
「この虫が厄介じゃ」
「腹の中を散々に荒らし回り」
「時には死に至る」
その虫によってというのだ。
「だからじゃ」
「火でよく炙って魚の中の虫を殺し」
「そのうえで食するのじゃ」
「そういうことですな」
「焦って食していいことはない」
幸村はこんなことも言った。
「生の魚や肉は出来るだけ食せぬことじゃ」
「そういえば殿は生ものをあまり口にされますな」
実際にとだ、穴山も言って来た。当然彼も由利もまだ魚に手をつけてはにない。
「これまでも」
「そうした理由でな」
「虫には気をつけられて」
「野菜等もじゃ。果実は違うがな」
「火を通してからですか」
「食する様にしておる」
「それも智恵ですな」
穴山は幸村の智恵をここにも見て唸った。
「いや、武芸や兵法だけでなくですか」
「こうしたことも知らねばな」
「ことは出来ませぬか」
「そう思う」
まさにというのだ。
「身を保つことも覚えておかねば」
「ならない」
「だからこそ今もですか」
「魚に火を通してから食うのですな」
「そういうことじゃ、しかし六郎よ」
幸村はあらためてだ、海野に言った。
「御主、これまでもそうしてか」
「はい、水の中にいるものなら」
「あの様にしてか」
「潜って捕まえています」
そうしているというのだ。
「常に」
「左様か」
「はい、それで水の場所に行けば」
それでというのだ。
「食うものは手に入れてきました」
「左様か、しかし火は通していたか」
幸村はまたこのことを問うた。
「その獲ったものに」
「そうしていました」
「それは何より、ではな」
「はい、火が完全に通ったなら」
「食おうぞ」
こう話してだ、そしてだった。
一行は魚を楽しんだ、そのうえで岐阜に向かいその根津甚八という者に会いに向かうのだった。しかしその途中に。
ある城下町に来てだ、幸村はしみじみとして言った。
「信濃とは全く違うな」
「はい、これが美濃です」
穴山が幸村に答えた。
「この国も山が多いですが」
「しかしじゃな」
「平野の部分はこうして人が多く賑わっておりまする」
「織田家が治めておったしな」
「織田家の楽市楽座の政により」
「人が集まって賑わってか」
「栄えています」
そうだというのだ。
「この様に」
「そうなのじゃな」
「そして岐阜は」
「これ以上にじゃな」
「賑わっておりまする」
店も多く人が多く行き交う中を見回しつつの言葉だ。
「左様です」
「そうなのじゃな。行くのが楽しみじゃ」
「さて、殿」
由利は町中の立札に気付いた、その札に書かれている文字を見てそのうえで言った。そしtけおう言ったのだった。
「ここでは相撲をしています」
「相撲か」
「はい、何でも優勝すれば褒美が貰えるとか」
「どういった褒美じゃ」
「何でも餅とか」
「餅か、それはよいのう」
餅と聞いてだ、幸村は笑って言った。
「あれは実に美味い。しかもな」
「しかもですか」
「長持ちする、よい食いものじゃ」
「では出て宜しいでしょうか、それがしが」
「いや、わしも出たい」
「わしもじゃ」
穴山と海野も出て来た。
「相撲には自信がある」
「言ったが相撲も強いぞ」
「餅はわしが手に入れる」
「いやいや、わしがじゃ」
「殿、宜しいでしょうか」
三人であらためてだ、幸村に申し出た。
「我等が出て」
「優勝して餅を手に入れて宜しいでしょうか」
「我等が」
「いや、御主達だけではなく」
話を聞いてだ、幸村は三人に言った。
「拙者も出たい」
「殿もですか」
「出られますか」
「相撲の大会に」
「相撲はよい鍛錬になる、それに拙者も好きだ」
だから出るというのだ。
「相撲、そして餅がな」
「そうされますか」
「殿も」
「では四人全員で」
「出ようぞ、そして相撲を楽しみ餅を楽しもうぞ」
こう話してだ、そのうえで。
四人でだ、相撲の大会が行われているというその場に向かった。すると。
多くの大柄な者達がいた、海野はその者達を見て笑って言った。
「おお、これはな」
「どうということはないな」
「大した者はおらんな」
穴山と由利も出て来る者達を見て言う。
「これではな」
「優勝はわしのものじゃ」
「いやいや、わしじゃ」
「わしが優勝じゃ」
二人は早速競り合う、しかし海野が二人に言うのだった。
「案ずるな、優勝はわしじゃ」
「何を言う、わしと言っておろう」
「わしに決まっておる」
「ははは、元気がよい。しかしな」
幸村も幸村で三人に言う。
「拙者もおるからな」
「殿、こうした時はです」
「遠慮は無用です」
「我等も全力でいかせてもらいます」
「当然じゃ、勝負は手を抜いてはならぬ」
幸村は笑顔のまま三人に応えた。
「一切な、だからな」
「それで、ですな」
「全力でぶつかり合って」
「優勝をですな」
「掴むぞ、ではな」
こうしたことを話してだ、そのうえで。
四人は参加を申し出た、その時だった。
勇ましい顔でやけに大きな身体を持つ僧侶が出て来た、その僧侶も参加を申し出たが。
受付の侍はその僧侶を見上げてだ、驚いて言った。
「何と、御主もか」
「出る」
笑ってだ、こう言った僧侶だった。
「そして優勝するぞ」
「そうか、またか」
「そうじゃ、またじゃ」
男は笑ったまま言う。
「そして餅は貰うぞ」
「全く、去年も出たではないか」
「そして今年もじゃ」
「他の者をことごとく投げ飛ばしてか」
「餅は貰うぞ」
「もう一つ貰うものがあるな」
侍は僧侶にむっとして言った。
「そうじゃな」
「ははは、酒じゃな」
「般若湯と呼べ、せめて」
男は僧侶にむっとした顔のまま返した。
「そこでは」
「しかし飲むと酔うではないか」
「仮にも坊主が酒と堂々と言ってよいのか」
「わしは嘘は嫌いじゃ」
僧侶はこのことは胸を張って言い切った。
「だから酒は酒と呼ぶ」
「全く、そしてじゃな」
「今年もわしが勝つぞ」
「やれやれじゃな」
男は僧侶を咎める目で見つつ返した、しかし。
それでも僧侶が大会に出ることは認めた、そのやり取りを見てだ、
海野は首をやや傾げさせてだ、こう言った。
「面白い坊主じゃな」
「うむ、あそこまで堂々と酒を飲みたいという坊主はな」
「流石にそうはおらぬぞ」
穴山と由利も海野に応えた。
「しかもやけに大きくな」
「力があるな」
「あれで他にも術があるか」
「そうした感じじゃな」
「そうじゃな、あの身のこなし忍のものじゃな」
海野も言う。
「我等と同じじゃ」
「うむ、拙者もそう思う」
幸村も三人に応えて述べた。
「あの僧侶は只の僧侶ではない」
「忍術も備えていますな」
「そして非常に強いですな」
「ただの力持ちではない」
「その様ですな」
「うむ、あの者が出るとなると」
どうかとだ、幸村はまた言った。
「この大会、我等の誰かが優勝することはな」
「いやいや、拙者が勝ちます」
「拙者こそが」
「拙者にお任せ下さい」
三人は幸村の今の言葉にはこぞって意気込んで応えた、そしてだった。
四人も大会に出た、すると。
幸村の名前を聞いてだ、男は唸って言った。
「何と、あの真田家の」
「拙者のことを知っているのか」
「真田といえば有名ではないですか」
これが男の返事だった。
「武田家の下で智勇を共に備えた」
「それでか」
「はい、その真田家の方となると」
「美濃でも知られているのか」
「いや、天下に」
美濃だけでなくというのだ。
「その真田家の方まで参加されるとは」
「わしもじゃ」
「わしも参加するぞ」
「わしもそうするぞ」
穴山達も応えてだ、そしてだった。
四人揃って参加した、そのうえで相撲用の褌に履き替えて控えの場に赴くと。そこにあの僧侶がいた。海野がその僧侶に声をかけた。
「御主、前の大会で優勝したそうじゃな」
「うむ」
そうだとだ、僧侶は満面の笑みで答えた。
「そうじゃ、そして餅も酒も楽しんだ」
「相当飲み食いした様じゃな」
「わしは身体が大きいからのう」
だからだというのだ。
「たらふく飲んで食ったぞ」
「左様か」
「今年もそうする」
「いや、そうはいかぬぞ」
海野は笑って僧侶に返した。
「優勝するのはわしじゃ」
「そう言うのか」
「その通りじゃ、今年優勝するのはわしじゃ」
「ほう、わしに勝つつもりか」
「無論、御主も強い様じゃがわしは相撲では負けたことがない」
自信に満ちた笑みでだ、海野は僧侶にまた言った。
「相手が御主でも勝つぞ」
「そう言うのか、しかしわしも相撲では負け知らず」
「だからか」
「酒と餅はわしのものじゃ」
「待て、優勝ではないのか」
「勝つのもよいが飲み食いの方がいいであろう」
「それが坊主の言うことか」
流石にだ、海野も僧侶のその言葉には呆れた。
「煩悩を抑えようとは思わぬのか」
「破戒僧で寺を追い出されたからのう」
「寺は何処だったのじゃ」
「比叡山じゃ、そこで僧兵をしておったが喧嘩と酒があまりにも過ぎてな」
そのせいで、というのだ。
「遂に追い出されたわ」
「あの寺も前はかなり乱れておったが」
信長が焼き討ちをする前だ、比叡山はとかく乱れ肉食妻帯を行う僧侶までいる始末だった。
「その比叡山をか」
「女色は乱れておらんかったが」
「喧嘩と酒か」
「あと食うことも凄くてな。わしは何でも食うからな」
「その身体を見ればわかるな、しかし比叡山を追い出されてか」
「托鉢なり葬式を行ったりこうして大会で勝って飯を食って生きておる」
僧侶は今の暮らしのことも話した。
「これはこれで結構楽しいぞ」
「托鉢でその大きな身体を養えるのか」
「うむ、釣りに狩りもしてな」
「その身体なら猪でも熊でも倒せそうだな」
「どっちも一捻りじゃ」
実際に簡単に倒せるというのだ。
「わしの力の前にはな」
「そして忍術も使うな」
あえてだ、海野は僧侶にこのことも言ってみせた。
「それも相当じゃな」
「わかるか」
僧侶もだ、海野の今の問いには目の色を変えた。それまで笑っていたそれが鋭くなった。
「そのことが」
「わかるわ、わしも忍じゃからな」
「そうじゃな、御主もな」
「まあ今は相撲じゃからな」
「相撲で勝負をするがな」
「御主、その大柄な身体でもな」
それでもというのだ。
「忍術も極めておるな」
「それなりにな」
「名は何という」
ここでだ、海野は僧侶の名前を問うた。
「一体」
「三好清海入道」
僧侶は海野に笑って答えた。
「それがわしの名じゃ」
「三好清海というか」
「そうじゃ、覚えたか」
「人の名を覚えるのは得意じゃ、ではな」
「酒と餅は貰ったぞ」
「そこでまたそう言うのか」
呆れてだ、こう返した海野だった。
「本当に煩悩が強い奴じゃな」
「否定はせぬ、しかしな」
「女等はか」
「ついでに言うがものを盗んだり腕づくで、はせぬ」
三好清海はこのことは断った。
「何があろうともな」
「そうしたことはせぬか」
「無論じゃ、確かにわしは破戒僧じゃが」
それでもというのだ。
「やってよいことと悪いことはわかっておるつもりじゃ」
「だからか」
「そうじゃ、そうしたことはせぬ」
決して、というのだ。
「あくまで酒と肉食だけじゃ」
「まあそれは感心じゃがな」
「弱きを助け強きをくじくじゃ」
三好清海は両腕を誇らしげに掲げて海野に語った。
「女子供には手を出さぬぞ」
「それは殊勝なことよ。それでじゃが」
「それで?何じゃ?」
「まあよい、相撲の後で聞こう」
海野はここで三好清海に言うことは止めた、そのうえでこう言った。
「では大会はわしが御主を投げてやるわ」
「ははは、それはわしの言葉じゃ」
笑って言い合う二人だった、そして。
大会がはじまるとだ、そこで。
幸村主従はかなりの強さで勝ち進んだ、どの者も相手にはならない。穴山達三人も強いが幸村もであった。
「いや、殿もな」
「お身体は決して大きくないが」
「それでもな」
三人は幸村の相撲を見て言った。
「お強い」
「うむ、相手が向かって来ればかわす」
「そして油断していると見れば攻める」
「相手の隙は見逃さぬ」
「蝶の様に舞いな」
「蜂の様に刺す」
それが幸村の相撲だというのだ。
「速さは風の如く」
「静かさは林の如く」
「攻めは火の如く」
「動かれぬ時は山の如く」
「まさに風林火山」
「武田家の戦じゃな」
かつて真田家が仕えていたこの家の戦の様だというのだ。
「それを相撲でも為されるか」
「無理はされず自然に攻められる」
「素晴らしき戦ぶりじゃな」
こう言って感嘆するのだった、しかし。
穴山達もだった、かなりの強さで。
相手を投げ倒しこかせて進んでいた、だが。
清海の相撲を見てだ、幸村は三人に言った。
「あの入道殿は剛力じゃな」
「はい、それがし先程あの坊主と話をしましたが」
「どうした方じゃ」
「名を三好清海入道といいまして」
そしてというのだ、海野は幸村に話していく。
「何でも比叡山におったとか」
「左様か」
「はい、そこで僧兵をしていたとか」
「ふむ、左様か」
「今は悪さのせいで寺を追い出され托鉢をしておるとか」
「そうした御仁か。見たところ」
幸村も見抜いていた、このところは見事だった。
「あの御仁も忍術をしておられるな」
「やはりおわかりですか」
「それも相当な使い手じゃな」
「はい、ただ力が強いだけではありませぬ」
「そうじゃな。あの御仁も強くしかも」
それにと言う幸村だった。
「心も見事じゃな」
「おわかりですか」
「悪さをして寺を追い出されたとのことじゃが」
それでもというのだ。
「あの御仁も悪い者ではない」
「目を御覧になられていますか」
「目は全てを語る」
その者の心や生き様、そして志をというのだ。
「あの御仁も悪くはない、では」
「あの坊主もですか」
「誘ってみよう」
「そうされますか、実はそれがしも殿にあの者のことをお話しようと思っていましたが」
「では丁渡よいな」
「ですな、さすれば大会の後で」
海野も応える、そしてだった。
幸村主従も試合を勝ち進んでいった、海野はその中でも言うだけの強さを見せてそうしてだった。残り八人までになった。
その八人の中でだ、まずは三好清海が勝ち抜き幸村、穴山、そして由利もだった。最後の海野の相手はというと。
これまた異様に大きな男だった、三好清海と同じだけ大きい。
しかも筋骨隆々としている、その見上げんばかりの男の身体とはいささか不釣り合いの整った細面を見上げてだった。
海野は男にだ、こう問うた。
「御主強いのう」
「わかるか」
「うむ、多くの修羅場も潜り抜けておるな」
「ははは、これでも武芸者じゃからな」
「そうじゃな、力も技も相当じゃな」
「その力で今から御主を倒す」
男は海野に低い声で告げた。
「覚悟はよいな」
「いや、覚悟はせぬ」
海野は土俵の中で向かい合っている男に答えた。
「勝つのはわしじゃからな」
「言うのう」
「してじゃ。御主の名は何という」
「わしの名か。今は牛鬼と名乗っておる」
「牛鬼。また物騒な名前じゃな」
「強いからじゃ、わしが」
それ故にというのだ。
「この名にした」
「妖怪の中でもとびきりにタチが悪いのにか」
「そうじゃ、しかしわしは牛鬼の様に強いが」
しかしというのだ。
「あそこまでしつこくはないぞ」
「牛鬼はしつこいというのう」
「そうではない、ではな」
「うむ、今から御主を投げてやろうぞ」
「それはこちらの台詞じゃ」
こうしたやり取りをしてだ、そうして。
二人ははっけよいからだ、ぶつかり合った。そのまま。
四つに組み合った、体格は海野の方が遥かに劣るが。
それでも彼は牛鬼のその大柄な身体からの押しに向かい合った、それを見てだった。
勝負を見ている由利は唸ってだ、こう言った。
「六郎め、言うだけはあるわ」
「強いな」
穴山も応える。
「相撲が」
「殿もお強いが」
「あの坊主もな」
三好清海もというのだ。
「強いな」
「そうじゃな、しかしな」
「六郎と今闘っておるあの男もな」
「あの男、尋常ではないぞ」
その強さはというのだ。
「六郎とがっぷり四つに向かい合っておるわ」
「いや、むしろな」
「六郎の方がか」
「そうじゃ、あれだけの男と渡り合っておる」
「そうも言えるか」
「そう思うがな、この勝負わからぬ」
どちらが上か、そのことがというのだ。
「勝つのは六郎か、それとも」
「あの牛鬼とかいう者かじゃな」
二人でこうしたことを話していた、その二人の目の前でだ。
海野は牛鬼と力比べをし合っていた、まさにお互い一歩も引かない。その中で牛鬼は海野の褌を掴んだ状況のまま彼に問うた。海野も彼の褌を掴んでいる。
「御主、これからどうする」
「どうするかとは愚問じゃな」
「真田幸村殿に仕えられてか」
「殿と苦楽を共にするつもりじゃ」
「一生や」
「そうじゃ、お会いして間もないが」
だがそれでもというのだ。
「わしは殿に惹かれるものがある」
「そうか、しかしな」
「しかし?」
「幸村殿は見たところ」
自分の見立てをだ、牛鬼は海野に話した。
「天下人にはなれぬぞ」
「そう言うか」
「そうじゃ、確かに智勇兼備でお心も正しい方じゃ」
牛鬼も幸村のことは見抜いていた、彼はそうした者だとだ。
「天下無双の方になられる、しかしな」
「それでもか」
「そうじゃ、天下人になられる方ではない」
「そうじゃな」
「わかっておるのか」
「わかるわ、わしとて馬鹿ではない」
海野も牛鬼に返す。
「そうしたことはわかる」
「幸村殿は天下人にはなれぬ」
「そもそも殿には天下取りの野心もない」
「全くな」
「殿はそうしたことを望まれてはおらぬ」
「真田家の安泰、それに天下泰平とじゃ」
それにだった。
「ご自身を高められることと何よりも義を重んじられておる」
「まさにそうした方じゃな」
「そのことは我等もわかっておるわ」
海野だけでなく穴山、由利もというのだ。
「そうしたことは」
「しかしそれでもか」
「そうじゃ、わし等は殿にお仕えする」
「他のどなたにも仕える気はないか。例えばな」
牛鬼は全身から汗をかきつつ海野と力比べをしている、お互いに半歩も引かないその中で全身の力を踏ん張り合っている。その中でのやり取りだ。
「羽柴秀吉殿、それに徳川家康殿にな」
「お二人のうちどちらにか」
「そうじゃ、お仕えする気はないか。お二人のうちどちらかがな」
「天下人になられるか」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「生き残りな」
「他にも優れた大身の方がおられるが」
「天下人となられるとなるとな」
それこそというのだ。
「お二人のうちどちらかじゃ。それにどちらかというと」
「秀吉殿か家康殿か」
「まず家康公じゃな」
笑っての言葉だった、力比べの中で。
「そうなるな」
「あの御仁も確かに凄いが石高は秀吉殿には遠く及ばぬぞ」
「今はな。しかしやがてはな」
「秀吉殿を凌ぐか」
「羽柴家を凌がれる」
「そうなるか」
「徳川家に仕えぬのか、御主達は」
牛鬼はその問いをいよいよだった、核心に入れた。
「そのつもりはないか、御主達の力なら徳川家に重く用いられるぞ」
「だからか」
「徳川家はどうじゃ、家康殿ご自身も文武に秀で徳も備えられた立派な方じゃぞ」
「それで家康殿にか」
「どうじゃ、それは」
「折角の申し出だが遠慮致す」
これが海野の返事だった。
「わし等はもう決めておるのじゃ」
「幸村殿が主か」
「そうじゃ、我等はあくまで幸村様にお仕えする」
「あの御仁の家臣か」
「生まれは違えど死ぬ時は同じじゃ」
こうまで言うのだった。
「そこまでのものを感じておる」
「そうか、わかった」
牛鬼はここまで聞いてだった、納得した顔になった。
そしてだ、海野にこう返した。
「聞きたいことは全て聞いた、ではな」
「では、とは」
「これで帰るわ」
そうすると言うのだった。
「ここでの仕事は終わっておって余興で入っておったしな」
「ですか」
「そうじゃ、それではな」
「はい、それでは」
こうしたことを話してだ、牛鬼は。
海野の褌から両手を離してだ、行司に言ったのだった。
「それがし急に腰が痛くなったので」
「降りられるというのか」
「はい」
そうだと答えたのだった。
「そうさせて頂きます」
「無理はせぬと」
「腰が痛うなっては後で相撲が出来ませぬので」
それ故にというのだ。
「これで」
「左様か、あいわかった」
行司はそれならと頷いてだった、そうして。
牛鬼の負けを認めた、そして海野の方に軍配を上げたのだった。
この勝負が終わったのと見てだ、由利は穴山に言った。
「あの者、降りたな」
「勝負自体をな」
「別に六郎を倒したかったのではないのか」
「違う様じゃな」
そうではなく、というのだ。
「どうやら」
「腰を痛めたと言っておるが」
「違うな」
このことも言うのだった。
「あれは」
「うむ、あえて下がったな」
「どういうつもりじゃ」
「さてな、しかしあの者身体が大きいだけではない」
「意外と頭も回るな」
「そうじゃな」
このことも気付いた彼等だった。
「大男総身というのは嘘じゃしな」
「そこは人によるぞ」
「小男の総身に知恵も知れたものともいう」
「そうじゃな」
こうしたことを話してだった、二人はそのうえでそれぞれの試合に向かうのだった。穴山の相手は幸村だったが。
幸村は笑ってだ、穴山に言った。
「小助、思う存分やろうぞ」
「はい、こうしたことは気兼ねをしたら」
「何にもならぬ」
幸村は楽しげに笑って穴山に応えた。
「だからな」
「お互いに何の気兼ねもなく」
「全力でぶつかり楽しもうぞ」
「相撲を」
こう話してだった、そのうえで。
幸村と穴山はぶつかった、お互いに力ではなく技を使った勝負であり掴み合うものではなかった。だが穴山が前に出てだった。
幸村の褌を掴もうとしたところでだ、幸村はというと。
その前からの動きを右にかわしてからだ、返す刀の要領で。
穴山の左肩、そして腰にだった。張り手を両手で繰り出して。
それで穴山のバランスを崩してさらに足元を払って。これでだった。
穴山をこかせた、それで勝負ありだった。
勝負の後でだ、穴山は幸村に言った。
「いや、かわされるとは」
「思わなかったか」
「はい、まさかと思いましたが」
穴山は幸村の褌を掴み投げるつもりだったのだ、しかしそれが。
「かわされましたか」
「かなりの速さじゃったがな」
「それでもですか」
「うむ、御主の目を見るとな」
「目で拙者の攻めを見抜かれましたか」
「そうじゃ、御主が前に出て来るとわかった」
まさにそのことがというのだ。
「だからじゃ」
「右にかわされてですか」
「そのうえでな」
「張り手でそれがしの体勢を崩し」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「足払いを仕掛けたのじゃ」
「ううむ、目を見られるとは」
「目を見なかったら動きを見抜けなかった」
穴山のそれをというのだ。
「拙者もな」
「しかし目を見られて負けた」
このことをだ、穴山は言うのだった。
「そのことは拙者の失態であります」
「目じゃな」
「はい、戦の時も気をつけまする」
「その様にな」
このことも話すのだった、そしてだった。
由利と海野、それに三好清海も勝ち進んだ。そこで。
幸村は今度は由利とぶつかった、由利の動きもまた素早くまさに風使いの名に相応しいものであった。しかし。
幸村は由利の動き先、そこに先回りしてだった。
背中を取り後ろから背を押して前のめりに倒した、そうして由利にも勝って試合の後で彼とも親しく話をした。
「鎌之助、御主は目で語ってはいなかったが」
「それでもですか」
「動く直前に癖がある」
「癖、でありますか」
「御主は右に動く時は右手首を動かしてじゃ」
そしてというのだ。
「左の時はな」
「左手首を」
「それが勝負の時にわかった」
まさにその時にというのだ。
「だからじゃ」
「拙者の癖から」
「動きがわかった、そしてじゃ」
「その動きを先読みされて」
「先回りしたのじゃ」
そうして背中に回ったというのだ。
「そうしたのじゃ」
「そうでしたか、いや癖があるとは」
「癖は己では気付かぬ」
「そういうことですな」
「しかしそれが相手に見抜かれるとじゃ」
「危ういですな」
「相撲ならよいが」
しかしというのだ。
「戦の場ではこうはいかぬぞ」
「はい、命を落とさぬ為にも」
「癖はなくしていこうぞ」
「そうします」
由利は幸村に神妙な顔で応えた、そしてだった。
幸村は決勝に進むことになった、だが。
ここでだ、目の前でもう一つの準決勝を行っている海野がだ。
三好清海に投げ飛ばされた、海野は受身を取り無事だったが勝負の後で主のところに戻って苦い顔で言った。
「いや、力比べを挑めば」
「負けたな」
「はい、やはり力では」
「あの入道殿には負けるな」
「勝てませぬ」
とてもというのだ。
「あえて力で挑みましたが」
「それでもやり方の一つじゃが」
「勝負においては」
「こうした時はな、しかし戦の場でより力が強いとわかっている者に力で挑むとじゃ」
「敗れそして」
「首を取られる」
幸村はそうなることをだ、海野に話した。
「そのことはわかっておいてもらいたい」
「畏まりました」
「しかし。これでじゃな」
「はい、決勝は殿とですな」
「あの入道殿じゃな」
三好清海だというのだ。
「御主が力負けするのじゃ」
「恐ろしいまでの強さです」
「力で勝てる者はおらんな」
「間違いなく」
負けただけにだ、海野もこう言えた。
「天下無双の剛の者です」
「そうじゃな、しかしな」
「勝たれますな」
「うむ」
確かな声でだ、幸村は海野に答えた。
「そうしてくる」
「ご武運を」
「では殿」
「殿が勝たれましたら」
穴山と由利も言って来た。
「餅と酒ですな」
「そうしたもので祝いましょう」
「実は拙者は酒ならな」
飲むのなら、というのだ。
「焼酎が好きなのじゃ」
「普通の酒よりもですな」
「そちらですな」
「そうじゃ、焼酎だと尚よいのう。しかしな」
ここでこうも言った幸村だった。
「あればそれで満足じゃ」
「酒があれば」
「それで、ですか」
「酒があり何故不足を言うか、いや不足を言うとな」
それ自体がというのだ。
「きりがない、不足は言うものではない」
「今ある状況で満足するかやっていく」
「それがよいのですな」
「贅沢も不平も言わぬ」
「そうあるべきだと」
「拙者はそう考える、贅沢はな」
幸村は己の考えを話していく、贅沢というものについて好きになれぬという考えをその顔にそのまま出しつつ。
「よくはない」
「あくまで質素に」
「そうして過ごされるべきですな」
「己が贅沢をするよりも書や刀、馬を買うべきじゃ」
こうしたものに使うことはよいというのだ。
「あるまで銭があるだけじゃがな」
「学び戦に使うもの」
「そうしたものに金を使い」
「食や酒にはですか」
「使うべきではありませぬか」
「最低限でよい、ましてや酒池肉林なぞはもっての他じゃ」
これこそが幸村が最も忌むものだった。
「そんなことをして何になる」
「美食美酒に美女を集め」
「遊興に耽ることはですか」
「殿は最もですか」
「忌み嫌われていますか」
「それは武士、民を預かり護る者のすることではない」
決して、というのだ。
「拙者はそう考える」
「ですな、武士は質素であるべし」
「贅沢をしてはならぬ」
穴山と由利も言うのだった。
「己の鍛錬に励むべし」
「戦と政に備え」
「その通りじゃ、ではな」
「はい、決勝ですな」
「三好清海入道との」
「あの者確かに強い」
三好清海、即ち清海についてだ。幸村は率直に述べた。
「それも相当にな」
「その清海にどう勝つのか」
「そのことですが」
「殿、勝たれて下さい」
「我等は殿こそがと思っています」
「無論拙者としても負けるつもりもない、いや」
幸村は確かな声で二人に答えた。
「策がある、案ずるな」
「では」
「殿の戦、見せてもらいます」
「その様に」
海野も含めて三人で言う、そのうえで幸村を見送った。土俵に向かう彼を。
牛鬼は既に相撲の場を後にして服を着ていた、その彼のところに男が三人程来てそのうえで声をかけてきた。
「土蜘蛛殿、勝負を降りられましたが」
「どうかされましたか」
「何処か悪くなられましたか」
「いや、何ともない。ただあの海野という者と話してわかったのじゃ」
そうだったとだ、牛鬼は自分よりも遥かに小さい男達に話した。
「あの者の主である真田幸村殿はまさに天下の傑物じゃ」
「確か真田家の次男殿ですな」
「まだ元服して間もないですが智勇兼備、文武両道の方ですな」
「相当な方と聞いていますが」
「あれだけの者が惚れて従っておる」
海野の器も見抜いての言葉だ。
「そこまでの方ならじゃ」
「相当な方である」
「そのことがわかったからですか」
「勝負を降りられたのですか」
「幸村殿と勝負するのも面白いと思ったが」
しかしというのだ。
「離れて観たいとも思ってな」
「だからですか」
「土俵から降りられ」
「観られることを選ばれましたか」
「そうじゃ、まあ餅と酒は残念じゃったがな」
牛鬼はこの二つのことには少し苦笑いで応えた。
「しかしそれは何時でも手に入る」
「ですな、欲を張らずとも」
「手に入る時は手に入ります」
「そうしたものですから」
「だからよい」
優勝の商品はというのだ。
「別にな」
「ではこれより真田殿の勝負を観ますか」
「そうされますか」
「そのつもりじゃ、相撲は多くのことを観せてくれる」
牛鬼はこんなことも言った。
「ただの勝負ではない」
「その者の強さ、そして器もですな」
「見せるものですな」
「姑息な相撲をする者は姑息でじゃ」
そしてというのだ。
「相撲で相手をいたぶる者はならず者じゃ」
「いますな、小さな力を全てと思う輩が」
「この天下には」
「匹夫の勇の者が」
「その様な者の相撲は小さいし下らぬ」
まさにだ、語るまでもないものだというのだ。
「しかし器の大きな者の相撲は違う」
「大きくそして絵になる」
「そうしたものですな」
「そうじゃ、真田殿の相撲は見たところかなり大きいが」
そして見事だというのだ。
「決勝でさらに見極めたい」
「何処までのものか」
「それをですな」
「これより」
「そうしたい、ではな」
これからというのだ。
「あの御仁の器も観ようぞ」
「では我等も」
「土蜘蛛殿と共に観させて頂きます」
「そのうえで駿府に戻ります」
「わしは一旦大和まで行く」
牛鬼は他の者達に告げた。
「そしてあの国を調べて来る」
「筒井家の動きをですか」
「見られますか」
「そうしてくる」
こう言うのだった。
「これからな」
「では我等はです」
「これで暫しのお別れですな」
「お働きを期待しております」
「その様にな、しかし幸村殿については」
真田幸村、彼についてはというのだ。
「徳川家の味方であればよいが」
「敵であるなら」
「厄介な敵になりますか」
「天下と取られる方ではないが」
しかしというのだ。
「味方ならこれ以上は頼もしく敵ならば恐ろしい」
「そうした方ですか」
「あの方は」
「うむ、敵ならば恐ろしい相手となろう」
まさにだ、これ以上はないまでにというのだ。
「そのこと、半蔵様にも申し上げておこう」
「その半蔵様は今は摂津でしたな」
男の一人が牛鬼に問うた、ここで。
「左様でしたな」
「そうじゃ、丁渡羽柴家が本拠にしようとしておるが」
「あの地に自ら乗り込まれましたか」
「半蔵様な見事な方じゃ、まさに天下一の忍じゃ」
「西の伊賀、東の風魔といいますが」
「風魔小太郎殿は知らぬ、しかしな」
それでもというのだ。
「半蔵様は忍としてもお人としてもな」
「非常に立派な方ですな」
「我等十二神将も御主達もじゃな」
「はい、半蔵様ならばと思い」
「お仕えしております」
「半蔵様程の方はおられませぬ」
「まさに天下一の忍です」
男達もこう言う。
「あの方ならばと思うからこそ」
「伊賀にいることを幸せにすら思います」
「わしもじゃ。百地様もおられたが」
しかしというのだ。
「半蔵様にお誘いを受けたのは天の配剤じゃ」
「その百地殿の行方はわかりませぬが」
「織田様の伊賀攻めの後は」
「ご無事でしょうか」
「あの方はそう簡単に死ぬ方ではない、しかし元々家をまとめられる気のある方ではない」
それが百地というのだ。
「仙人の様な方で弟子もあまり取られぬしな」
「ですな、孤高で」
「お一人だけ先を行かれる様な」
「そうした方ですな」
「そうした方じゃ、悪い方では決してないが」
しかしというのだ。
「半蔵様とはまた違う」
「はい、人を惹きつけるものはおありでも」
「半蔵様とはまた違うものですな」
「そこがです」
「どうも違いますな」
「そうじゃ、それでまた幸村殿のことを言うが」
ここで前置きをしてだ、牛鬼は周りの者達にあらためて幸村のことを話した。
「あの御仁、只の武士ではない。忍の術も心得ておる」
「それは双刀殿や雷獣殿も仰っていました」
「幻翁殿も」
「そうであろう、若しや徳川家にとって厄介な敵になるだけでなく」
「徳川に仕える我等にとっても」
「厄介な敵になりますか」
「忍としてもな」
そうなるのではというのだ。
「そんな気もする、敵にならぬことを祈る」
「徳川に引き込めればいいですが」
「そのことも考えねばなりませぬか」
男達も言うのだった、そしてだった。
牛鬼は男達と別れそのうえで西に向かった、相撲の場では幸村は清海と土俵の上で向かい合っていた。それが決勝だった。
巻ノ四 完
2015・5・1