-俺たちが4日間の休養を終えてしばらく経った後-
俺と陽葵は4日間の休養が終わった後、まずは国王に呼ばれて、王命として正式に勇者パーティーの遊撃部隊としての加入と、遊撃自警団ギルドのSランクの昇格を命じられた。
そして、同時に、俺はケビン導師長付きの宮廷魔術師に任命され、陽葵は王妃付の聖女として任命される。
それぞれ、導師長付きと王妃付きとしたのは、仮の宮廷魔術師と仮の王宮付の聖女という立場なので、正式なものではない。
立場は中途半端なのだが、ローラン城に顔パスで入ることもできるし、無論、王や王妃にも気軽に会えるという、ある意味で、とんでもないポジションであることに、俺は完全に嫌気をさしていた。
しかも、王命なので、俺たちは完全に逆らえない。
さらには、自警団ギルドからセシルさんとサラさんの強い意向により、俺たちはメリッサの門付近にあった空き家をギルドからの報酬という形で貰って、強制的に住むことになった。
そして、勇者パーティーは、ローラン軍を含めた魔王討伐隊として、先に隣国のアルラン帝国へと行ってしまう。
そんなドタバタや、細かい戦後の処理などが一通り済んだ後…。
俺と陽葵は、ようやく雑務から解放されて、メリッサの広場にあるベンチで、陽葵が焼いたパンを食べながら、アフロディーテ様と話しをしていた。
もう、メリッサの人々はアフロディーテ様の姿に慣れはじめているし、たまに住民達が見かけると両手を組んで祈り始めるから、この国は、太古の昔からアフロディーテ様のご加護で守られているのがよく分かる。
「恭介と陽葵よ。お前たちが、宿屋で休んでいる間に、各国の王との折衝は終わっている。一部の国は魔族の国を追い込むために、決戦の準備を始めているからな。」
「アフロディーテ様、そうすると、私たちは次にアルラン帝国に蔓延る上級魔族との戦いですか?。後から私たちは勇者パーティーと一緒に行動するのでしょうか?」
「そこなのだが、お前たちは、わらわの切り札となれ。いざとなったら、わらわのテレポテーションで国々に飛んで、遊撃的な役割を果たすのが一番だと判断した。わらわやお前たちが、過度に出しゃばると、その土地の守護神どもが五月蝿くての。」
「うーん、アルランなら、ポセイドン様がいますしね…。」
「恭介よ、そういうことだ。その地のことは、その地を見ている神々に委ねないと、わらわが、また主神に怒られてしまう。それに、お前たちが他の国で大暴れすれば、ポセイドンあたりは、天上界にいるわらわの所に怒鳴り込みに来くるのが確実だろうから、嫌な予感しかせぬ。」
『神々同士の関係性もあるしなぁ。俺たちやアフロディーテ様が出しゃばると、他の神々は面白くないか。』
そう思いながら、俺はアフロディーテ様に少し話題を切り替えた。
「神々のことなど、私たち人間では、詳しいことなど分かりませんので、これ以上は何も申し上げられません。しかし、アフロディーテ様。お暇なら、何時でも瞬間的に天上界に帰れるのに、なぜ…、私たちの家に居続けるのです?」
俺はこのさい、女神に対して本音を吐くことにする。
「お前たちは、わらわにとって、貴重な栄養源なのだ。お前らの愛は次元を超越しているから、まんべんなく吸収しなければいけない。今は地上に降りているから余計なのだ。」
アフロディーテ様の半ば強引な理由付けに、俺は溜息をつくばかりだ。
しばらくの間は、大好きな陽葵と一緒に、自分の家でゆっくりと過ごしながら、厄介ごとがあれば、アフロディーテ様と一緒に各国で大暴れをすることになだろう。
そんな俺の心配をよそに、陽葵はアフロディーテ様に大直球を投げつけるような言葉を放った。
「…アフロディーテ様…」
陽葵は顔を真っ赤にして、何かを訴えようとしているが、恥ずかしさのあまりに、なかなか口に出せないのが分かる。
「陽葵よ、どうした?。なかなか言い出せぬのか?、それすらも、わらわの栄養源だぞ?」
もう、アフロディーテ様はニヤニヤしながら陽葵の言葉を待っているが、俺は嫌な予感しかしないので、その場から逃げたかった。
「あっ、あ、あのぉ…。アフロディーテ様…。夜伽の時だけは、せめて抜けて頂けると…。あまりにも恥ずかしすぎてダメです。」
俺は恥ずかしさのあまりに下を向むく。
「おぬしらは、魔力や神力が回復してから、毎日のように激しいではないか。それは自然の摂理が故に仕方がないことよ。しかし、過干渉すぎたの。夜は緊急時じゃない限り、少し天上界に帰っていよう。」
『はぁ…女神がついている弱点ってコレだよな。そうか、近頃、陽葵が積極的じゃないのはコレだったか。』
「アフロディーテ様、夫は微力な神気などは感じないので、なすがままですが、私はとても恥ずかしかったですよ。」
陽葵はアフロディーテ様に、少しだけむくれている。
こんなことを堂々と神様に言えて、むくれるコトができるのは陽葵ぐらいだろう。
「わっ、わかった。陽葵よ、謝る。これからは、そうならないように、するから怒るな。」
とりあえず、そんな会話をしながら、俺と陽葵は広場のベンチから立ち上がって、自分の家に戻ろうとすると、当然の如く、アフロディーテ様もついてくる。
「アフロディーテ様、しばらくしたら、勇者パーティーのもとで少しだけ冒険をさせて下さい。このままでは、体が鈍って剣も魔法もダメになります。」
俺の本音は違うところにあった。
常に神に見られているのは極度の緊張を強いられるので、それなら、トリスタンさまと一緒に冒険をしたほうが、よっぽどマシであると思ったのだ。
「ふふっ、そうよの。お前が望まなくても、もうじき、それがやってくるぞ。今はゆっくりと家で休むが良い。今以上に手強い魔族が出てくるかも知れぬ。」
俺は少し残念そうにすると、陽葵が俺の右腕を抱きしめて耳元でささやいた。
「あなた♡。今夜はもっと激しく抱いて♡」
… … … …。
もう、今の状況は無茶苦茶であるが、この後の冒険については、ゆるりと話すことにしよう…。
END