-ここは現代社会。ある金曜日の夜更け。-
俺と陽葵は就寝前にベッドで横になりながら、俺が少し前に必死に書いて完結させた小説のことを話していた。
「ねぇ、あなたの言う通り、あの小説はウケが悪いわよね。」
俺は苦笑いをしながら、内心は半分、諦めたように陽葵の頭を優しくなでている。
「だから言ったでしょ。あんな拙いプロットで、良くありがちな展開を書いたとしても、ウケは良くないし、PVが少なくて☆1を叩き付けられるのがお約束なんだよ…。」
俺が放った自分へのダメ出しに、陽葵が少しだけ頬を膨らませて怒りをぶちまけた。
「もぉ、☆1を叩き付けたのは、だれ?。あれはチョッと怒ったわよ。そんな酷評を叩き付けるなら、なにも押さなきゃ良いのに。完結した作品で☆1は嫌がらせに等しいわ。でも、そういう貴方へのアンチが出てきたってことは、少しだけ名が売れてきた証拠でもあるわよね?」
「そうでもないよ。俺は無名だし、駆け出しのひよっこだよ。あの程度の文章でも、あのサイトの界隈で名が売れた作家なら、読む人も評価のほうも殺到すると思うけど、無名のヤツが粋がるのが嫌で、あえて☆1を叩き付けた奴がいると思う。」
陽葵はさらに頬を膨らませているが、その怒った姿が可愛いすぎるから、そのまま抱きしめたくなってしまっている自分がいるけど、そこはグッと我慢する。
「失礼しちゃうわ!。あなたの文章は、商用化したラノベ作家と比べても、そんなに遜色はないわ。あなたが1人で書いていて、誰も校正する人がいないから、誤字・脱字があるのは仕方ないけど、気付いた時点で改稿して読みやすくなっているし。」
「まぁ、そこだよ。2つの小説サイトに同じ小説をアップして、☆1を同時期に叩き付けたのは、同じ人か、何らかのグルだろうけどね。そこで…だよ。」
俺は陽葵がまだ見たこともない、別の小説投稿サイトをスマホで見せた。
「ここなんだけど、誤字脱字や表現の揺らぎを校正して、少し読める程度に改稿してアップしたら、途端に評価が良くなってね…。」
俺と共有したリンクから、そのサイトを陽葵が見て途端に笑顔を見せる。
「そうよ!!。この小説は読んでいて逃げたいぐらいにラブラブなところが良いのよ!!。この読者さんは分かっているわ。その逃げたいぐらいな熱い愛でバッタバッタと悪い奴らを倒していく正義の物語なのよ!!」
「うーん、過剰評価は止して欲しいし、俺の運が良かっただけだよ。レビューを書いて頂いた作家さんも、百戦錬磨で一部では有名どころの人だから、スコッパーの役割として俺が拾われた印象だね。そういう人から好まれたからこそ、有り難いことに救われたのかな。ただ、評価としては正当だよね。有名どころやプロの作家さんにランクは及ばない。今の実力はこんなモンだよ。」
でも、陽葵は、嬉しそうな表情をしているのが良く分かった。
「あなたは、もともとは理系だから、文系のゼミなんて出たことがないし、研究室ばかりだったから分からないかも知れないけど、この手の厳しい批評って、キッツい教授のゼミにも似ているから、理不尽なダメ出しが半端ないの。だけど、この評価は正当よ。」
「いやね、俺は理系で良かったと思っているよ。あんな理屈じゃないことを、理屈で追い求めるような事案で公開処刑をされたところでさ、集団リンチと同じじゃん。作品には多くの人の好みがあるから、それは仕方ないしね。」
「ふふっ、それに心当たりはあるわ。あなたは、同じような素人作家さんの音声ライブにも参加していたけど、幾つかの作家さんのグループと距離を置いて離れてしまったわよね?」
「うん、最初に入った場所は、仲間の作品を深夜に集団リンチ的に批評して読み合っていたのを聞いていて、その人をイジメ的に馬鹿にするのが明らかに分かったから、ドン引きして去ったんだ。もう一つは、同年代のグループだったけど、女性陣の腐嗜好が偏り過ぎたのと同時に、思想や嗜好が合わなかった…。」
「そうよね、ドンパチが起こる前にソッと身を引けば、ネットでのトラブルは最小限度で済むものね…。」
「困った事に一部の人は、俺が去ったことに不快感を覚えている感じで、そこに理由を求めようとしているけど、基本的な部分は、合わない人と無理に付き合っていても疲れるだけだから、大きなトラブルが起きる前に去ろう…は、俺の大原則なんだよ。」
「ねぇ、どうするの?。あなたは無断転用系のAI学習のイラストに懐疑的な意見を持っているから、去ったのは、そのせいかと思っている人もいるけど、そうではないのよね?。挿絵を出している作家には、あなたのコトを誤解して、この絵は私が描きましたなんて、SNSの宣伝で言っている人もいたけど。」
「まぁ、放っておくしかないよ。理由を説明したところで、寄ってたかって人を馬鹿にするような人とは、自分と性格が合わないから徐々に距離を置いたなんて、面と向かって言えることもでないし。」
「そうよね、そこで争いになって、そのグループ内でゴタゴタが始まったら、気分が悪いもの。」
「そういうことだよ。ウチは挿絵なんて絵も描けないし頼むツテもないから、このまま絵も無しにして突っ切っているけどね…。」
「それよりも、あなた大丈夫?。この小説界隈って、嫌がらせやヒガミや嫉妬も多いと聞くわ。某掲示版系でボロクソに書かれている作家さんもいるし、無名の作家さんが賞を受賞したら、特定の人から嫌がらせを受けた例もあったみたいよ。この世界のイメージって、闇は深いし、とても陰気だわ。」
「それは俺も懸念している。このサイトなら、イザとなれば編集者さんとも相談できる窓口があるみたいだから、嫌がらせについては逃れられそう。もしも、俺のプロットがあって、この作品の続編を書きたくなったら、このサイト限定かなぁ…、なんて思っているし。」
「ホントに心配だわ。某掲示版の一部の作家さんなんて、見ていられないほどに突かれるもの。それでもファンがいて商用化されているってことは、それだけその作品を魅力として感じている人がいるのよ。それでね、わたしも、近頃の若い子は読解力が落ちていると思っているから、あなたの魔が差して長編小説を突然に書いたなんて、周りから奇特に思われているのは分かるわ。」
「それは、お偉いさんや学校の先生の偉い人も含めて悪いんだよ。だって俺の先輩に教育学部の教授様がいるけど、子供が長編小説を読むような読解力が劣っていることを突っ込むと、ゼミみたいに理屈や前提から入るから、とにかく感覚が可笑しいんだよ。こんなの理屈じゃなくて、ネット小説でもラノベでも、エッチな小説でも構わないから、とにかく子供たちに文章に触れてもらって、その世界に入るぐらいドップリと浸かる子が増えないと無理なんだ。」
「そのための教材や読みたいという魅力的な作品に欠けてしまっているのが、いまの現状よね…。それに、あなたは、あの夢の話を完結させたわけだから、一つも作品を完結させずに偉そうなことを言うな、なんて言いがかりは通用しないものね?。」
「陽葵、その通りだよ。完結のことは隅に追いやっても構わないけど、今は本を売るために、編集のほうで変に読者層を意識しすぎたマーケティングをかけてしまうし、今の若い子の読者傾向を気にしすぎて、擬音や、やたらに状況説明が多いような内容で、短い文章の中で、挿絵をこれは漫画かと思うぐらい多くしているから、モノを書いている意味がないんだよ。たまに、プロットを読まされているのか…、なんて、眉をひそめてしまうこともあるし…。」
「あなたは、そこに反発しているのよね。だからこそ、やたらに敵が多そうだから、心配になっているのよ。」
「大丈夫だよ。俺は有名じゃないし、趣味の世界の範囲内で自己欺瞞で勝手に書ける立場にあるから、救われているのさ。」
そんな真面目なことを陽葵と、抱き合いながら話しをていたが、やがて睡魔がきて、身体を寄せ合って眠りについた。
そして…。
お互いが眠っている間に、また、2人はこの前と同じような不思議な夢を同時に見たのだった。