目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第39話:メリッサ大決戦3。~決死の攻防-後編-~

  しばらくすると、魔物が転送される魔法陣から、ひときわ不気味な光が放たれて、多くの上位種の魔物や上級魔族が俺たちに向かって押し寄せてくる。


 その数…、4万匹。


 アフロディーテ様が強い神気で、一気に魔物を殲滅させているが、強い上位魔族は生き残って、前線にいる騎士や俺たちに突進してきた。


 それを勇者トリスタンパーティーや師匠、それにローラン王までが剣を手にして倒していくことが何度も繰り返されている。


 ローラン国王は、王子の時に王宮騎士団にいたから剣の腕がたつが、こんなところで王に死なれては、国が混乱に陥るから、内心は冷や汗をかいていた。


 無論、前線にいる俺たちは、とても目立つ存在なので、多くの魔物がここに向かって押し寄せることになっているから、これは諸刃の剣だということは明白だ。


 王は剣をとって前線で魔物と戦っているから、それを見た王宮騎士団や兵士が王を守ろうとして無茶をするので、騎士や兵士を中心に犠牲者が次々と出ていた。



 それを、俺や陽葵は横目で見て、内心は嘆きたかったが、目の前の敵を討つので精一杯で、それに構っている余裕がない。


 その時だった…。


 神殺しの砲台が、俺たちのほうに向けられて、魔力を装填しているような揺らぎを感じた。

 女神アフロディーテ様が、かなり強い神気を帯びた巨大な玉を作りながら、俺に向かって大きく叫ぶ。


「恭介よ!!、このタイミングで術式を発動させるのだ!!」


「御意!。みんな、術式を発動させるから準備をしてくれ!!」


 俺は一気に自分の魔力を術式の中に汲み入れて、難解な神言や古代魔法時代の呪文を口にした。

 それと同時に師匠や、宮廷魔術師、それにシエラさままでもが、俺に魔力を融通をする。


 邪神殺しの殲滅弾の自動追尾の術式を構築するときに、アフロディーテ様が術式に位置情報を加えて、邪神龍が飛んでいる位置まで術式に組み込んでくれたから、術式を構築して神言や呪文を唱えることだけに集中できた。


 陽葵は、俺の横でアフロディーテ様を経由して、俺が立っていられないぐらいの強い神気を注いで、邪神殺し殲滅弾の神気の部分を構築しているから、これは俺たち夫婦による共同作業だ。


 俺は陽葵からその神気を受け取って、そこに魔力を込めて混ぜるような作業を、術式を展開しながら同時に行っている。


 その動きを察したヴァルカン帝国の宰相は、神殺しの砲台に本格的に大量の魔力を注ぎ込んで、俺たちにめがけて撃ち放つ準備を始めているのが魔力の揺らぎで分かった。


 あれは幾人もの魔術師が、砲台の制御を担当するので、いきなりの発動には限界がある。


 その一方で、俺も強大でかつ、長い術式を構築しているので、この邪神殺しの殲滅弾が発動するまで10~15分程度の時間が必要だ。


『たぶん、俺が発動するほうが早い。でも、下手をすれば、神殺しの砲台の魔力充填が整っていない状態で、威力が弱いまま撃ってくる可能性がある。そうなった場合は、アフロディーテ様の瞬間移動のタイミングにかかっている。』


 俺は予定通りに、邪神殺しの殲滅弾の術式を構築させていくことに専念した。


『あと5分…』


 俺達を守る為に、勇者トリスタンさまやイジスさまが奮闘しているし、王宮騎士団やローラン王、それに遊撃自警団の腕の立つ者たちも奮戦しているが、相次いで騎士や兵士、それに自警団の仲間達が上級魔族によって討たれていくのが目に留まる。


 今は魔術師たちが、魔力融通に回っているから、前線へ魔法のサポートができない状態だから、余計に犠牲者が増えていくのが明らかに分かった。


 女神アフロディーテ様も、目前の魔物を殲滅させるのが精一杯だし、横にいる陽葵は、そのアフロディーテ様の神気を使って、邪神殺しの殲滅弾に使う神気を俺に送り続けているから、なにもできない。


 しかも、陽葵は、一種のトランス状態になっているから、目の前で起こっている光景も目に留まっていないだろう。


 目の前で次々と、討たれていく兵士や騎士を見て、とても悲しい気持ちになるのをこらえながら、早急に発動させることに集中した。


 ◇


 -それは、騎士団長のネッキーさんが、俺に向かって突進してきた上級魔族のスケルトンを、気力だけで倒した時だった。


 俺は邪神殺しの殲滅弾の術式と魔法陣を全て完成させて、最後に発動の言葉を放つ。


「我が命を捧げ、大いなる主神に是非を問う!!。邪神殺しの殲滅弾よ、目前の邪神を討ち滅ぼせ!!」


 炎のように真っ赤な槍になった殲滅弾が、上空に3つ浮き上がって、1つは神殺しの砲台へ、もう2つは邪神龍に向かって、目にも留まらぬ速さで飛び去った。


 それと同時に、神殺しの砲台に、大きな魔力の揺らぎが生じたのを感じたので、俺が危機感を覚えた瞬間だった…。


 一瞬、目の前が真っ暗になったと思ったら、俺や陽葵、それに前線で戦っていた兵士や騎士たちが、メリッサの城壁の上にいるではないか。


 無論、アフロディーテ様も俺や陽葵の目の前に立っていて、すぐさま俺たちに諭すように呼びかける。


「恭介よ、それに皆の者も、この光景をよく目にしておけ。神の術を無闇に人間が使っていけないことがよく分かるぞよ。恭介ができる限り爆散を抑えたとは言え、人間にとって威力は絶大だろう。」


 まず、皆は空を見上げると、邪神龍に槍状の殲滅弾が突き刺さったのが見えた。戦っていたドラゴンたちは、女神様との打ち合わせ通り、爆風から逃れるために全力で空高く逃げる姿が目に留まる。


 邪神龍2体は、自分たちに突き刺さった邪神殺しの殲滅弾をふり返って見たと思ったら、苦しい表情を浮かべて地上に向かって堕ちると、多くの魔物の前で大爆発をした。


 もの凄い地響きと共に、このメリッサ周辺が爆発によって激しく揺れて、数多の石や邪神龍の肉片が飛んできたが、アフロディーテ様が作った絶対障壁によって、全てがはじき返される。


 その激しい爆発によって、多くの魔物が爆発に巻き込まれたが、それが、あまりにも酷い光景だったので、陽葵がそれを正視できずに、俺に抱きついていた。


 それは勇者トリスタンさまの横にいた賢者シエラさまも同じだ。


 一方で、少し遠くに見える神殺しの砲台を見ると、俺が放った邪神殺しの殲滅弾を撃ち落とすべく、まだ、魔力の充填が半分も済んでいない状態で、邪神気を帯びた太い木の幹ほどある魔道砲が放たれたが、魔力は想定の半分以下だろう。


 一方で神殺しの砲台に向けて放った邪神殺しの殲滅弾は、ヴァルカン帝国の宰相の思惑と違って、砲台から放たれた魔道砲の真ん中を突き抜けて砲台の真上に突き刺さる。


 神殺しの砲台はメリッサの城門に向けて魔道砲が放たれたが、女神アフロディーテ様の力によって、その軌道を曲げられて、虚しく上空に消えていった。


 そして、邪神殺しの魔道弾が突き刺さった神殺しの砲台は、全体が真っ赤になっている。


 ヴァルカン帝国の宰相は、それを見て慌てて逃げだしたが、自分が従えていたネクロマンサーを足止めの術で動けないようにして、爆発をしたときに自分を守るための楯にしている様子が見えた。


 城壁から、この様子を見ていた俺たちは、あまりの非情に、はらわたが煮えったが、それを城壁の上から冷静に見ているしかない。


 しばらく後に、真っ赤になった神殺しの砲台から、パキンと金属が割れたような大きな音が聞こえたから、コアを保護しているオレイカルコスが破壊されたのであろう。


 次の瞬間、先ほどより大きな爆発が起こって、立っていられないほどに激しい揺れがあった。


 その爆発により、大きな岩や無数の金属の破片、それに魔物の肉片などが、俺たちに向かって次々と飛んできたが、それも女神アフロディーテ様の絶対障壁によって防がれているから、俺たちがぶつかることはない。


 その、あまりにも酷い惨状に、陽葵は俺に抱きついたまま離れないし、シエラさまも勇者トリスタンさまに抱きついたまま離れない。


 もう、この爆発によって4万匹もの魔物は、ほぼ全滅の状態であった…。


 皆は、しばらく、その場に呆然と立ち尽くしていたが、俺は、少しだけ目を閉じると、アフロディーテ様に、この術を使った重みと、今の感情をぶつけるように静かに声をかける。


「アフロディーテさま。神の怒りは恐ろしいものです。この神術において、自らの命と引き換えに主神に是非を問う理由がよく分かりました。この術は人が使ってはいけません。それに、今は、この魔術を使った罪悪感と同時に、仲間たちの死も含めて、何とも言えぬ感情があります。」


「恭介よ、それで良いのだ。その気持ちで良いのだ…」


 女神アフロディーテは俺に深くうなずいて、静かに目を閉じたのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?