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第37話:メリッサ大決戦2。~キョウスケの秘術~

 -メリッサに戻って見張り台。前哨戦が終わった夕刻-


 俺と陽葵はアフロディーテ様と一緒に、つがいのドラゴンが明らかにイチャついている姿を遠目に見ながら、魔力を回復するべく、ゆっくりと休みながら、日が落ちるのをボーッと眺めている。


 その近くには、師匠と王や王妃、勇者トリスタンのパーティーもいて、同じようにドラゴンを眺めていたが、誰も死者が出なかったから表情はみな穏やかだ。


 しばらくして、俺の隣にいたアフロディーテ様が、急に険しい顔をして俺に話しかけてきた。


「恭介や陽葵、それに、勇者や王たちもよく聞け。わらわらの遠目の術によって、魔族たちの動きが分かった。明日の明け方になれば、神殺しの砲台や2匹の邪神龍がやってくるだろう。そして、魔物は4万匹を超えるから、恭介や陽葵は、わらわの隣で戦うのだ。」


 俺はそれを聞いて、途端に険しい顔になるのが自分でも分かるぐらい、深刻な状況だと察すると、早速、女神アフロディーテ様に質問をぶつける。


「女神様。邪神龍を倒すために、邪神殺しの殲滅弾を使いざるを得ませんが、神殺しの砲台をどう潰すかが問題です…。」


「恭介よ、主神より邪神殺しの殲滅弾の使用許可は出ておる。邪神龍が2匹だから、ドラゴンどもは、その邪神龍の対処で追われるだろう。そして、わらわが神殺しの砲台に向かえば、人間たちだけで4万匹もの魔族と戦わなければならぬ。本気を出せば、ここの地がなくなるほどの力を出せるが、それは、わらわも主神も好まぬ。」


 俺は過去の文献で、神が介在したときの記述を思い出していたが、地形が変化するほどの戦いは、天地創造の神話や、神々が争った以後は、全く起きていない。


「アフロディーテ様がこの前、お話しされていた通り、神殺しの砲台は完全破壊ですよね?。そうすると、あのコアを覆っているオレイカルコスを破壊するために、大きな魔力と神力が必要ですが…。」


「恭介よ、その通りだ。だからこそ、わらわが全力を出せば、砲台も魔族も一瞬で吹き飛ばすことができるが、この国が不毛の大地になってしまう。それは、基本的にやってはならぬのだ。」


 アフロディーテ様は、神言の魔法陣や術式を幾つか開いて、俺たちの目の前に浮かび上がらせた。


「ヨイショッと…。そこでだ。おぬしは無論、そこにいる恭介の師匠やシエラも知っている通り、これは邪神殺しの殲滅弾の術式だが、アポロンや主神が、人間どもやこの地にできる限り危害が及ばぬように幾つかの改良を加えておる。しかし、わらわは神なので、人間の感覚が分からぬ故に、お前達の知恵を絞って、この地を不毛の大地にしない方法を考えて欲しいのだ。」


 神言に関しては、アフロディーテ様が瞬間移動や治癒魔法などを教えてくれた際に、相当に知識を吸収したお陰で、シエラさまや師匠よりも、早く読むことができるようになっている。


 神殺しの砲台は、魔力が充填されているコアを破壊すれば、自ずと魔力の暴走によって爆発するが、神力が練り込まれた、オレイカルコスの器にコアが入っているから厄介だ。


 オレイカルコスは神の金属と呼ばれていて、熱や衝撃に強いし、耐魔術性もある。

 一般の魔術師が全力で唱えた魔法なんて、弾き返されてしまうぐらい強い。


 だから、勇者の剣や、神々が持つ神器にも使われているのだ。


 そんな金属が、人の手に渡ることは、ほぼないが、古代魔法時代では、希少なオレイカルコスが重用されていたから、このような兵器が産み出されてしまった側面もある。


 俺は、その術式を読み解きながら、とんでもない事に気づいて、迷わずアフロディーテ様に質問をぶつけた。


「アフロディーテさま。私の魔力だけなら、砲台を殲滅させるか邪神龍を2体倒すだけで精一杯ですが、これは…、本当に宜しいのでしょうか?。しかも、砲台の殲滅に関しては私に宿題を残していますよね?。同時に3つの殲滅弾を繰り出すのは、その方法でも、神の領域だから無茶が過ぎませんか?。」


 俺がアフロディーテさまに疑問を呈している時に、ようやく師匠やシエラさまも、術式と魔法陣を読み終えて、あまりのスケールの大きさに天を仰いるのが分かる。


 たぶん、これを唱えるのは俺になることが確実だから、今はできる限り不安を取り除きたい。


「失礼ながら、アフロディーテ様。これは神の英知と同等な術なので、果たして、この馬鹿弟子が、こんな神に匹敵する大魔力を…、いっ、いや、まさか!!、ここにいる全魔術師の魔力を融通しつつ、神気はヒマリが融通して、アフロディーテ様がキョウスケの魔力の器が崩壊するのを同時に防ぐ記述が!!。」


 師匠の慌てっぷりを女神アフロディーテ様がクスッと笑ったのと同時に、シエラさまが、やっとの思いで口を開いて、アフロディーテ様にもう1つの疑問を投げかける。


「アフロディーテ様、神殺しの砲台に向ける邪神殺しの殲滅弾の術式に、少しだけ空欄がありますが、それがキョウスケ殿が言っていた、宿題でしょうか?。」


 アフロディーテ様は、シエラさまの質問に、うなずくと、少しだけ眉を動かした。


「神がこれを使うときは、砲台の魔力充填コアを保護している神気が練り込まれた鉄の器を溶かすために、高圧縮の高熱弾を神気を込めた状態で撃ち込むのだが、このままでは、この地が焼け野原になって地形も変わってしまう。そこで、恭介や皆の知恵を借りたいのだ。」


 俺は、とんでもない魔力と神力を使って、どうやったら皆を巻き込まないように、神殺しの砲台や邪神龍が倒せるのかを考えた…。


 そして、しばらくした後に、空欄になっていた術式に奇妙な魔法を入れると、アフロディーテ様はそれをみて、すぐに俺の意図を理解してニヤリと笑って、最後に神言を2つ追加した。


 慌てたのは、俺が空欄に埋めた術式を見て、理解が追いつかない師匠やシエラさまだ。


「キョウスケよ、なぜ、こんな奇妙な術式を入れて、アフロディーテ様が最後に2つの神言を入れたのかを、じっくりと説明してほしい。お前が構築した術式は、古代魔術の一種なのは分かっているが、凝った改良をしているから、何をやっているのか、すぐには分からぬ。」


 師匠から解説を求められたので、皆にも分かりやすく説明しようと、思考をめぐらせた。


「師匠やシエラさま、それにローラン王や王妃、それに、皆さんにも聞いて頂きたいのですが、できる限りこの国を守りたいから、このような奇妙な術式になりました。」


 ローラン王が真っ先に俺に問う。

「キョウスケよ、なぜ、ケビン導師長やシエラ殿がポカンと口を開けたままなのか、詳しい説明を頼む…。」


「王よ。この規模の魔術や神気を使えば、このメリッサは、爆発時の衝撃波で町が全滅するか、火の海になると思います。いや、もっと大きいですね。ローラン城まで衝撃波がきて、この国全体が大惨事になります。」


 それを聞いて、アフロディーテ様や、師匠、シエラさま、陽葵を除いた人たちが大慌てをしているのが明らかに分かる。


 陽葵はそんな姿の俺に惚れてしまっているから、目をハートマークにしながら、俺に対する愛のパワーを全開にして、次の言葉を求めるように質問をうながす。


「あなた♡、そうしたら、この魔術を使う意味がないわ。神と同等な術を使えば、神話に出てくるような天地創造級の大魔術になってしまうのよね?。」


「陽葵、その通りだよ。だから、ヴァルカン帝国は、邪神龍と神殺しの砲台を、このメリッサに持ち込んで、自分たちが不利になっても俺たちの自滅を狙っている。それは、狡猾な皇帝や宰相の仕業だろう。」


 皆はそれを聞いて、怯えたようにうなずいたが、トリスタンさまが俺に問いただす。

「キョウスケ殿、そうすると、この地を殲滅させないように上手く制御したのが、この術式ですか?」


「トリスタンさま、その通りです。そして、この仕組みを詳しく説明すると…」


 俺はアフロディーテ様が浮き上がらせた魔法陣や術式を指さしながら説明を始めようとすると、陽葵が目をハートマークにして俺を見ているが、今はそれに構っている余裕がない。


「まずは、邪神殺しの殲滅弾を、短い槍のような形に圧縮して、細くさせます。次に、マグマよりも熱い高温の魔法弾を作って、そこに神気を帯びさせて、圧縮させた殲滅弾の周りに包みこみます。」


 それを聞いて、ここにいる女神以外は、何をやっているのか分からず、首をかしげていたが、俺はそのまま説明を続けることにする。


「最後に、3つ同時に、神殺しの砲台や邪神龍に向かって、弓矢のように打ち込みます。それぞれが内部に突き刺さって奥深くに到達したところで、殲滅弾を展開させて内部で爆発する仕組みです。ちなみに、ドラゴンへの誤射を防止するために、自動追尾の術式も付加されています。」


 それを聞いて、師匠がようやく俺の作戦を理解したようだ。


「まさか、キョウスケ…。お前は、この殲滅弾を高温の炎と神気で包んだ上で、弓矢のように小さくして、それを目にもまらぬ速さで、神殺しの砲台や邪神龍に向けて打ち込んで刺した挙げ句、中から爆散させようとしているのか!」


「師匠、その通りです。それで、殲滅弾を繰り出した後、それが、それぞれの内部で爆発する前に、アフロディーテ様が全員をメリッサの門の内側まで瞬間移動させた上で、神術の絶対障壁で、ローラン城を含めた街周辺を覆うことが最後の神言に書かれています。」


 シエラさまが、術式を見ながら俺の説明を聞いて、しきりにうなずいていた。


「高温に熱せられた神気魔法弾を弓矢のようにして刺すことで、神気が練り込まれたオレイカルコスや邪神龍の鱗を溶かして、内部まで到達させて術式を展開させるのね。それと、アフロディーテ様の最後の2つは、神のなせる技で、人間は到底…及ばない…。」


 俺はシエラさまが理解したことに少しニヤリと笑いつつも深くうなずく。


「内部で爆発することによって、外から強大な魔法攻撃をするより被害が少なくなりますが、草原は、爆発によって形が変わるでしょう。それに、アフロディーテ様が障壁を張っても、相当な爆風と衝撃波がくるはずです。これは、人間が使うべきものではありません。」


 師匠が最後にボソッと率直な感想を漏らす。


「やはり人は神には及ばぬ。アフロディーテ様が全員を瞬間移動させ、ローラン城を含めた周辺を障壁で覆うなど、神の力そのものだ…。なんと、ありがたきことか…。」

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