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第35話:メリッサ大決戦の幕開け。

 俺と陽葵は宿にもどって仮眠をとると、明け方に目が覚めてベッドから起きた。

 そして、いつもより少しだけ重装備にして着替える。


 強い上級種の魔物や、上級魔族などが襲来するので、できる限り備えておきたかったのだ。


 まして、俺や陽葵は回復魔法が使えるようになっているから、自分の傷に回復魔法を使うより、多くの兵士や民衆に使いたいところである。


 準備を整えて宿から出ると、その入口にはアフロディーテ様が、少しだけ暇をもてあますように不満げな表情で、俺たちを待っているのが分かった。


「アフロディーテ様、待たせてしまって、申し訳ないです…。」


 俺が慌てて、女神様に謝るとアフロディーテ様は、静かに首を横に振った。


「いや、待たせてはいないぞ。まだ、魔物の襲来まで、時間があろう。ドラゴンたちと色々と話す事があっての、あのつがいはイチャイチャすぎるから、恥ずかしくて逃げてきただけだ。あいつら、ところ構わずに愛を振りまくから、困ってのぉ…。」


 そのアフロディーテ様がドラゴンたちに向けた愚痴に関しては、俺たち夫婦も黙っているしかないし、人のことなんて言えずに、イチャイチャする事があるので、何も言えなかったのである。


 まして、神を目の前にして、嘘や誤魔化しなんてできない。


 女神様と一緒にメリッサの門まで歩いていると、真っ先に勇者トリスタンのパーティーが駆け寄ってくる。


「おおっ、女神アフロディーテ様!…」


 勇者トリスタン一行は、女神と会話をしなくても、隣を歩いているだけで、相当に緊張をしているようだ。


 すこし、歩いているうちに、イジスさまに俺と陽葵が話しかけられた。


「キョウスケ殿やヒマリ殿は、アフロディーテ様の横に並んで歩いていても、普通にいられるのですか?。ちょっと信じられません、やっぱり、それは、アフロディーテ様にお目にかけられているからでしょうか…」


 そのイジスさまの答えに、女神アフロディーテは微笑みを浮かべながらノーコメントを貫く。


 ここで女神が何か言ってしまうと、恭介や陽葵たちの心にある気持ちを言えずに、神の言葉に単に従うだけになるし、女神が恭介達と隣に並ぶことを許可していると言えば、彼らへの特別扱いが増してしまって、最後には人間同士でイザコザになったりする可能性すらある。


 それについては、陽葵が明快な答えを出した。


「イジスさま。私の体にアフロディーテ様が降臨したときに、私の魂は天界にいたので、その時にアフロディーテ様と天界でズッとお話をしてたから、慣れてしまっていて…。」


 陽葵のその答えを聞いたイジスさまは、少しだけ呆然としている様子だ。


「キョウスケ殿もそうだが、女神様が近くにいるだけで、神々しくて近寄りがたいのに、宿の窓から見えたときに、何やら、先ほどから女神様と親しげに話もされていたから、凄いと感じたわけです。」


「イジスさま、その感覚は大切ですが、今は女神様と一緒に戦いざるを得ない状況なので、魔物と戦っている時に、アフロディーテ様と一緒に並んで戦うことだってあります。私も内心は、女神様が横にいる時点で畏れ多すぎて、震えていますが、今は、それを少しだけ打ち消さないと、女神様と一緒に戦えませんので…。」


 俺の言葉を聞いた女神アフロディーテは、微笑んで勇者パーティーに言葉を返す。


「神の血を引く勇者の仲間どもよ。恭介の言う通りぞ。戦場で戦っている最中に、わらわらに、兵士がひれ伏していたら魔族に殺されてしまう。恭介も、内心は、わらわに畏怖と敬意を抱いているのは分かるぞ。神を蔑ろにして崇めぬ人間は、魔族と同様、躊躇わずに処すかも知れぬ。」


 陽葵はアフロディーテ様の話を聞いて、俺や女神アフロディーテ様へのフォローをすかさす入れた。


「イジスさま。神は人の心を読むことも可能であるけど、人に関しては寛容でありますよ。どういう形であっても、神様を大切に崇敬する心があれば、最初から切り捨てられることはないです。人が神に対して、ひれ伏すのは、崇敬している1つの形ではあるけど、神に対して、どのように態度で示すかは、民族や国によって、習慣や作法が全く違うものですよ…。」


 それを聞いてイジスさまがハッと気づかされたように目を開いて、少しだけアフロディーテ様を見ると、陽葵のほうを見てうなずいている。


「ヒマリ殿、なるほど…。それは盲点でした。私がいた国の聖騎士や司教どもは、形ばかりにこだわり続けて、神を崇める心を失っているようにも思えます。こうやって女神様が降臨なさったのも、ヒマリ殿やキョウスケ殿がいたからこそ。神を崇める純粋な気持ちを忘れてはいけませんね。」


「フフッ、2人とも、その答えは合っているぞ。形ばかりに囚われて、それをめぐって人間同士で醜い争いなどしてはならぬ。大切なのは神を想う気持ちである。」


 アフロディーテ様がイジスさまにそう言うと、彼は、アフロディーテ様を見て、深くうなずいて目を閉じる。


 そして、彼は様々なことを考えているようだ。


 そんなことを話しているうちに、メリッサの街の入口までくると、すでにローラン王や王宮騎士団、兵士や志願兵、宮廷魔術師や遊撃自警団も勢揃いしていた。


 すると、少し宙に浮かんで移動している女神アフロディーテは、ローラン王の隣にスッと移動して、集まっている皆に強く呼びかける。


「人間どもよ、悪しき魔族を倒すために、よくぞ集まってくれた。草原にはドラゴンがおるし、女神アフロディーテもここにいる。人間どもは、ドラゴンや、わらわが倒しきれなかった魔族どもを討って欲しい。そして、絶対に無理はするな。そして、何人たりとも、魔族に討たれて天に召される事のなきように。もしも怪我をしたら、恭介や陽葵を頼れ。いいな、死ぬでないぞ。」


 その女神の強い言葉に、女神アフロディーテの慈愛に満ち溢れていたから、みんなは女神の言葉を食い入るようにジッと聞いていのがわかる。


「じきに、草原にある魔法陣から魔族が大量に押し寄せて来るだろう。最初は容易いと思うが、徐々に数も力も増してくる。絶対に油断してはならぬ。いいか、神の血を引きし勇者たちや、民に選ばれし王の指令を聞いて、しっかりと魔族を倒せ。わらわは、この道の先に立って魔族を一掃しよう。それでも漏れるヤツを叩きのめすのだ。」


 女神の言葉が終わると、兵士や宮廷魔術師などを含めて地鳴りがするほど、大きな声があがった。


「恭介と陽葵は前線では戦わずに、怪我をした兵士がくれば治癒魔法を使って欲しい。そして、怪我で運ばれてくる人が増えれば、恭介と陽葵は、わらわらの所へ来い。よいな。」


 女神アフロディーテは俺達に向かって俺達に指示を送ると、街道の先へと高速で宙を移動するように飛びさっていく。


 勇者トリスタンの一行やローラン王は、それに続いて、大量の魔族に備えるべく、兵を固めている。


 俺と陽葵は街の城壁の外側で待機をして、後方支援や治癒に回ることになる。

 これで、城壁の内側で待機すると、戦況が見えないし、見張り台に上がっていては怪我人を治癒できない。


 見張り台や城壁の上には、魔道士や弓を構えた兵士達が待機して、上から後方支援的に魔族を狙ったり、危なくなった兵士や騎士を助ける役割を担う。


 俺と陽葵は女神の命令もあって、回復役を担うことから、後方部隊を全部、任されることになった。

 少し木を張って辺りをうかがっていると、見張り台にいた宮廷魔術師の1人から、俺と陽葵に声をかけられる。


「キョウスケ殿、ヒマリ殿!!。草原にある魔法陣から魔力反応を検知しました。いま、2匹のドラゴンが動き始めました!!」


「よし!。皆は周りを良く見て、魔物や魔族が来たら、戦いで苦労している兵士や騎士を援護するように魔法や弓を打ってくれ。個人で多くの魔物を倒そうとせずに、皆で協力しよう。このさい、兵士も騎士も、魔法使いも民間人も関係ない。今は女神様のもとで、メリッサを守り通そう!」


 俺が声を張り上げて、後方部隊の兵士に呼びかけると、遠くまで聞こえるぐらいの声を挙げる。


『いよいよか…』


 俺は剣を抜いて、怪我人が運ばれてくるまでの間、魔族の襲来に備えるべく気を張っていた。

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