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第34話:女神様の内緒話。~後編~

 ドラゴンは見張り台の上にいるアフロディーテ様を見つけると、街の入口にある広い草原の降り立って、見張り台を覗くようにして遠慮しがちにアフロディーテ様を見ているからクスッと笑ってしまった。


『やっぱり雌のドラゴンだから、ちょっとだけ愛嬌みたいなのがあるよな…』


 そんなドラゴンの様子を見ていると、アフロディーテさまは、少しだけ眉をひそめながら、神気を強めて、ほのかな光を発する。


 どうやら、アフロディーテ様は念を使ってドラゴンに話しかけているようで、それが終わると、ドラゴンは言葉を発した。


「なっ、なるほど…。それなら、私たちドラゴンは、女神や主神の命じられるままに、上級魔族や邪神龍を相手に奮闘するしかありません。人間どもよ。厄介な相手が、我の攻撃を逃れて、街を襲おうとするが、女神様と奮闘してくれ。1人でも多くの人間が生き残る事を願っておる。」


 ドラゴンはそう言うと、すぐさま飛び去って、草原に引き返していった…。


 女神アフロディーテはドラゴンが魔法陣に向けて飛び去るのを見守ると、俺たちに声をかけた。


「ものども、明日は明け方から魔物が襲来する。今夜はそれに備えて、もう休め。そして、恭介と陽葵は、ここに残れ。少しだけ話がある…。」


 皆が、女神の言われるままに、階段で下に降りて各々の持ち場へ去っていったが、周りは、俺と女神の話を盗み聞きするような事はしない。


 実際に神を目の当たりにした人達は、女神に気圧されて、逆らうなんてことはできなかった。


 盗み聞きなんて、もってのほかだと思っていたし、そんな事をしたら、すぐに女神に分かってしまうと思ったのだろう。


 皆の気配がなくなると、女神は眉をひそめて、申し訳なさそうな声で俺たちに話しかけてくる。

「恭介、それに陽葵よ。わらわは、皆に申し訳ない事をして、主神に叱られてしまったのだよ…。」


 俺と陽葵は、女神の言葉にポカンと口を開けて、陽葵がすかさずツッコミを入れた。

「めっ、女神様。それは…どうしてですか??」


「お主たちのイチャラブを見ていたら、悶えてしまっての…。それが、わらわらの神力に直接、繋がるから、悶えた弾みで、天界から魔物がいる谷に向かって、知らぬうちに思いっきり強大な神力を使ってしまったのだ。早い話が手が滑ったのだ。」


 俺はそれを聞いて、目をパチクリさせながら、その言葉を頭の中で反芻して、再び状況を整理するように問いかける。


「そっ、そうすると、アフロディーテ様は、私が陽葵を死なせたくないとか、陽葵ちゃんが大好きなどのセリフも、全てお聞きになっていた…と?。そして、それに悶えた挙げ句、手が滑って、魔物の谷にいる5万の魔物を一気に殲滅させたのですか?。」


 女神は俺の問いに、静かにうなずいた。


「恭介と陽葵よ。ほんとうにすまぬ。本来なら、あの魔族がいる国に、わらわが少しずつ干渉をしながら、徐々に人間どもが魔族の国に攻め入って、できるかぎり人間たちの手で、魔族どもを片付ける手筈を主神と共に準備をしていたのだ…。それを、わらわの失敗で、計画を大きく狂わせてしまったのだ。」


 その女神の表情は、神にはあるまじき、困惑した表情だったから、俺と陽葵は、その女神の表情を生涯、忘れることはなかった。


 その女神の表情をみた陽葵は、かなり心配そうな顔をして女神を見ながら、確認をする。


「女神様。このお話は、みんなには内緒ですよね?。でも、女神様が、そんなに大きな失敗するなんて、私たち人間は想像ができません。でも、失敗が壮絶すぎて、何が起こったのか想像もできませんけど…。」


「陽葵、神も時には失敗する。その失敗は、主神と一緒にカバーするから心配をするな。」


 陽葵にそう言った女神は、本当のことを俺たちに話したお陰でホッとした表情をしていたが、女神は長い溜息をつくと言葉を続けた。


「恭介と陽葵よ。あの魔族たちの国が滅ぶまで、このことは話すな。そして、わらわが天上界に戻って、何年か経った後に、この国の史書に、このことを伝えて書き記せ。それが主神から命じられた、わらわの罰になる…。」


 プライドの高い神にとって、人間達に恥をさらすような事を書き残せば、未来永劫の恥となるだろう。

 主神の命とあれば、俺達は、何も反論せずに、それに従いざるを得ない。


 俺は奇妙なプレッシャーを感じながら、女神様の言葉に答えた。


「女神様、分かりました。その通りにしましょう。そうすると、私たち夫婦は、このまま王のそばに、いることが確定なのでしょうね…。そして、その史書を残すのには、この国に留まらなければいけません。」


「恭介、陽葵にはすまない事をした。わらわの力は、この世界にとって強大すぎる。それに、おぬしら夫婦が他の国に住み着けば、そこの民が崇めている、ポセイドンやアレス達とも上手くやれるだろうが、神々の力が、微妙に干渉する場合もある。どのみち住み着くなら、この国が一番であろう…。」


 この時点で、恭介と陽葵の王宮入りが神によって決まったのと同じだった。

 神の使命とあらば、俺や陽葵も断る事ができない…。


「女神様のお言葉とあらば、それに従いざるを得ません。この国に住みながら、なにか問題があれば、その問題が起きた国に出向くような形になるでしょう。この国の王や、自警団も、私たちを生涯にわたって頼ってくるでしょうから…」


「うむ、そうなる。深刻な問題が起きたときは、わらわや主神が力を貸そう。」


 その後、俺と陽葵は、アフロディーテ様と主神の普段の生活とか、女神様が、他の神と普段、どんな会話をしているのかなど、他愛もない話をしたあとに、アフロディーテ様はドラゴンたちに用事があると言い残して、瞬間移動をしてしまった。


 神の力は偉大である…。


 見張りを街の外で見張っていた騎士団長のネッキーさんと代わって、俺達は宿の隣の食堂で、トリスタンさまと達と一緒に、明日の戦いの段取りを打ち合わせながら夕飯を共にすると、宿に戻って、夜明け前まで仮眠をすることにした。


 こうして、俺たち夫婦にとって、精神的にとても疲れた1日が終わったのである。

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