俺と陽葵は、女神アフロディーテ様の前にひざまずこうとしたが、女神様から呼び止められて横に並ぶことになったが、その姿に気圧されて横に並ぶことすら危うい。
女神様のご命令なので仕方なかったが、隣に立つのを遠慮したいぐらいの畏怖を俺はグッとこらえていた。
陽葵は、アフロディーテ様の隣にいるのを喜んでいるようにも思えるのは、天界で女神様と一緒にいたから、慣れてしまったのだろうか…。
そうしているうちに、騒動を聞きつけた、王と王妃が慌てた様子で息を切らしながら来たが、王や王妃も、女神の圧倒的な威圧感で、ひざまずくのが精一杯の様子だ。
そして、女神アフロディーテ様は、それを見て微笑みを浮かべると、言葉を発する。
「さて。わらわが降臨したのは言うまでもなく、魔族どもの襲撃と暴走を止めるのが主な理由だ。そして、お前達には、いささか深刻な話をしなければいけない。」
王が少し震えたような声で女神に問う。
「めっ、女神様が、お姿をお見せになった事態ですから、ヴァルカン帝国の魔族どもに、よろしくない動きがあったのでしょうか?」
「この地の民を導きし王よ、その通りだ。邪神の血を引いた上級魔族が、あの国中の上級魔族5万を集めて、邪神龍も呼び、神殺しの砲台を持ち込もうとしている。そこで、直接降臨をして、ここの民を救えと、主神から命じられたのだ。」
それを聞いた皆は、驚きを隠せないでいるが、王が再び、女神に問いかける。
「女神アフロディーテ様がお姿をお見せになって、お力を頂けるのは有り難きことです。わたしくどもも、女神様と共に邪神の血を引いた魔族どもと戦って、魔族どもを討ち滅ぼしたく…。」
「うむ、この問題は、人間の関与も大切だから、おぬしは兵を率いて、魔族どもの襲来に備えよ。そして、邪神龍や神殺しの砲台に関しては、神の子の血を引く勇者どもや、恭介、陽葵以外は触れるな。あれは、並大抵の人間では及ばぬ。それに、主神から無駄にお前達を死なせるなと命じられている。」
女神がそう告げると、皆は頭を下げて何も言えなくなったが、俺は隣にいる女神様に少しだけ疑問があって問いかけてみた。
「アフロディーテ様。さきほど、あの草原にある、魔族どもが作った瞬間移動の術式が、奇妙なものに変わったのは、女神様が直接降臨したのと関連があるのでしょうか?。」
女神アフロディーテは、恭介の鋭い質問に、心当たりがありすぎてギクッとしたが、即座にそれを隠すように、場を取りつくろう。
「うっ…、うむ。上級魔族どもが、この地に偵察をしに瞬間移動してきてな。それを、ドラゴンが見つけて、即座に倒すたびに、わらわに報告をしてきているだ。そうしたら、しびれを切らした魔族どもが、国中の上級魔族5万を集めおって…。それを天上界から主神と見ていたので、主神がわらわの直接降臨を決断したのだ。」
その言葉に俺を含めた周りが頭を抱えていたが、俺は女神様に、率直な質問を続ける。
「そうすると、ヴァルカン帝国にいる、全ての上級魔族がメリッサに押し寄せてくるのですか?。」
「恭介よ、その通りだ。それに、邪神龍と神殺しの砲台が一緒にくるぞ!。」
俺は女神様のいる前で、草原にある魔方陣に向かって少しだけ探知魔法を使った。
「女神様…。そうしたら、魔族の谷にいる7万と、上級魔族の5万で12万ですか…。女神様がおられますが、私たちにとって、その数は相当に過酷な戦いになります。瞬間移動の魔方陣が、相当に強化されているから、今夜の夜中から、2万体の魔物が押し寄せてくる可能性があるのでしょうか?。」
その俺の質問に関して、女神様が少しだけ安堵の表情を浮かべていたのが分かったが、女神のミスを隠せた安堵によるものだったなんて、俺を含めて皆がそれを知る由もない。
「わらわは、それを懸念して、魔族どもが住まう山に向けて、天界で強い力を使った。その山にいた魔物を5万は倒しておるが、上級種や上級魔族が少し生き残っておる…。問題は、主神とは違い、わらわは下界だと、その半分以下の力しか使えぬ。そこが問題だ…。」
神と言えども、天界とは違うから、下界で思うように力が出せないのは、この世界の理だった。
この世に生きる生物の中で、神が最強であるのは当然だが、もしも天界にいる時のように、フルパワーで神力を使えば、この世界ごと吹き飛んでしまう可能性があるから、力を抑えなければいけない。
天界にいて、手が滑って5万の魔物を瞬時に倒せるのだから、それは凄いのだが…。
それを聞いて、俺達はホッとできないことを悟っていた。
単純に魔物が襲来する数として、当初の7万は変わらないが、魔物の強さが異様に増していることになるからだ。
女神様とそんな会話をしていたら、1匹のドラゴンが目にも留まらぬ早さで、こちらに向かって飛んでくる。
そして、メリッサの門前の街道に止まると、女神アフロディーテ様に声をかけた。
「めっ、女神様が、直接お見えになるなんて、私の母が女神様に命じられて大暴れした時以来です。それほどまで事態は、深刻なのでしょうか?。」
俺たちは、目まぐるしく変化する状況に、思考回路が追いつかなくなってきた…。