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第30話:決戦前にメリッサで夫婦の愛を語り合った結果。~前編~

 -軍議が終わった翌日の夕方-


 7万もの魔物がメリッサに押し寄せてくる事を警戒して、街中は静まりかえっていて、メリッサに残って戦おうとしてる市民も含めて、どこか落ち着かない様子だ。


 女や子供、それに老人達は、兵士経験者や魔道士、それに遊撃自警団経験者を除いて、大半がローラン城に避難したが、この地から離れたくないと、一歩も動かない老人もいたが、王宮騎士団や王妃が直接、説得をして、ローラン城に避難させている。


 王妃は、気さくで民に対して面倒見が良かったので、国民から人気の高い王妃のお願いされたら、頑なに避難を拒否していた老人達は、嫌顔でも聞きざるを得なかった。


 ローラン国は古い歴史を持つ国なので、大昔に戦争をしていた名残で、メリッサのように城塞都市化している街が比較的に多い。


 ただ、城壁が建てられてから随分と年月が経っていて古いので、一部は崩れて壊れてしまったために、街の裏口として、人々が自由に出入りをしている場所がいくつもある。


 崩れてしまった城壁の周辺に、家が建てられている場所も多く、そういう場所にある家の住民は、家が魔物に破壊される危険性が高いことから、強制的にローラン城内に避難することに。


 無論、そういう場所は、騎士団や兵士、宮廷魔術師たちを配置して、不測の事態に備えている。


 その城塞の城壁に沿うように新たに堀も作られたので、魔物がメリッサの街に押し寄せたとしても、ある程度は耐えられるだろう。


 俺は、メリッサとローラン城を結ぶ街道にある入口の城壁の見張り台から、草原のほうを見ると、魔族が作ったと思われる瞬間移動用の魔法陣が幾つか見えるのを認めて溜息をつく。


 そして、視線を変えると、2体のドラゴンが、寄り添うようにいるのが遠くからでも見えが、イチャイチャすぎるから女神アフロディーテ様が言うとおり、放っておくことに。


 なにか、他に有効的な作戦がないかを見張りながら考えていると、師匠が城壁にある見張り台に登ってきて、俺に声をかけてくる。


「キョウスケよ、魔族が使う瞬間移動の魔法陣を見て、襲撃してくる魔物の数を予測していたか?。」


「師匠、魔物の数は恐らく、アルラン帝国の街が滅ばされた規模と同程度で様子を見るでしょうから、最初は7000から8000体でしょう。今のところヴァルカン帝国の斥候は、全てドラゴンが殺していますからね。」


 師匠は俺の返事に深くうなずいた。


「シエラ殿やイジス殿の探知魔法が優秀でな。瞬間移動の小さい魔法陣まで把握していて、そこに斥候が移動した途端に、ドラゴンが瞬時に倒すから、ヴァルカンに戻って詳細を報告できる魔族がいないのだろう。」


「師匠、ヴァルカン帝国の皇帝や宰相は、かなりイライラしているでしょうね。ドラゴンがいるのがバレたら、相手は躍起になって、魔法陣と瞬間移動魔法の魔力を倍増させるでしょう。史書を見る限りでは、最大で2万体の魔物が押し寄せてきた文献もあります。その時は覚悟が必要です。」


「恭介よ、それに加えて、邪神龍と神殺しの砲台もあるのだよな…。ヴァルカンはとんでもない国になった。神がお怒りになるのも当然だし、お前に神の力が宿るとは思いも寄らなかったが…。」


「師匠、わたしたち夫婦は女神様から目をかけられているから、その重責は凄まじいものがありますよ。だって、神から常に、わたしたちが見られているのですからね。」


「キョウスケ、ワシはそれを考えていなかった。そういえば、お前たち夫婦は、常にアフロディーテ様に見られているのだったな…」


「だからこそ、キングオークを倒そうとした時に、女神がお怒りになって、陽葵に降臨したのです。その緊張感は、半端ないですよ…。」


「そうか…。それもまた、お前たちは茨の道だよな。それに関しては、主神から見られている勇者のパーティーも一緒だがな…。」


「あの軍議のあと、アフロディーテ様のお力で、勇者が持つ聖剣の神力が倍増し、賢者は私と同じように魔力の器が上がって、聖騎士はアフロディーテ様が、ポセイドン様を降臨しやすいように神気を増強させていましたからね…。」


 シエラさまの魔力回復力は、俺を上回るだろうから、アフロディーテ様は泉の水を彼女に飲ませることはなかった。


 それに、魔力回復のために、秘蔵の魔力回復のポーションを持ち合わせていたが、どうやら、勇者様との冒険の最中に、古代魔法時代の遺跡で魔力回復の強力なポーションを発見したと言っていたが、たぶんそれは、女神の涙じゃないかと思われる。


 彼女が女神様から力を授かったときに、シエラさまが俺にだけ、内緒話でその話を打ち明けられたのだが、それを飲む時は、少しずつ飲まないと、魔力の器が崩壊すると言っていたから、間違いないだろう。


 そんな、彼女とのやり取りを思い出していると、師匠から心配そうに見つめられている。

「アルラン帝国の件を考えると、明日の明け方に襲撃があるだろう。お前も早く寝て備えろ…。」


 師匠が俺に急かすように言ったが、隣に陽葵がいないことを見て、なにか思い返したように目を見開いて、俺を見た。


「ああ、そうか。お前の妻は、王妃と一緒にいるから待っているのか。」


 王妃は魔物達と戦おうとしてる兵士や一般市民の士気を上げようと声をかけているのだが、陽葵は王妃に呼ばれて、メリッサの街中を案内するのと護衛を兼ねた役目を買って出ていた。


 王妃も王も、メリッサが壊滅状態になるまで、動かない覚悟だし、王子や王女をローラン城に残して、メリッサの街が滅びれば、運命を共にするぐらいの覚悟で、この戦いに挑もうとしている。


「そんなところですよ。私は、見張りながら妻を待っているところです。いちおう、魔物の襲撃がないか監視するのも仕事ですからね…。」


 俺が師匠に少し寂しそうな目を向けて返事をすると、師匠は俺にうなずいた後に、階段を降りて街の中心にあるギルドへと向かってしまった。


 見張り台から草原を見ていると、日が暮れようとしていて、つがいのドラゴンが、相も変わらず寄り添うように体を寄せ合っているのが目立つ。


『あいつら、仲が良いなぁ。まぁ、俺と陽葵も仲が良いけどさ…。』


 そんなドラゴンたちの姿を遠くから眺めていたら、陽葵が階段を昇って、俺がいる見張り台にあがってきた。


 当然、ここに俺がいるから、他の兵士や騎士などは、他の見張り台で見張りをしている状況だから、俺と陽葵以外に、この見張り台には誰もいない。


「王妃の案内と警護が終わって、あなたを探そうとしたらケビン導師から、ここで、見張っていると聞いて来たの。王妃は、兵士や魔物を倒そうとした市民に向かって、ひたすら激励をしていたわ。やっぱり、王妃は国民からの信頼が厚いわよね。」


 俺は陽葵の頭を、自然となでながら、その話を聞いていた。


「陽葵、お疲れさま。陽葵が王妃からも信頼されている事が分かるよ。将来、強制的に俺たちが王宮に入ったときに、必ず優位に働くかな…」


 それを聞いて、陽葵が少しだけ悪戯ぽく笑った。


「あなた、王妃はそれを計算して、わたしを重用してる節があるわよ。やっぱり王妃よね。あなたが王宮を嫌がっている懸念を察して、わたしを利用して上手く回避させようと必死なのが見えているのよ。」


「王宮入りは王命だと考えているよ。逃げようとしても、師匠が追いかけてくるだろうし、逆らいようがない。だとしたら、陽葵と王妃が繋がっておくことは悪くないからさ…。」


 俺が溜息をつくと、陽葵が俺の右腕を抱き寄せて、俺の体にもたれかかってくる。


「あなたは、遊撃自警団で、気兼ねなく仕事ができるほうが良いのは分かるわ。わたしも、そっちのほうが気が楽だけど、そろそろ定住して家を持って子供も欲しいわ♡。」


 そんな陽葵の本音に少しだけ吃驚して、彼女の顔を見ると、ほんのりと顔が赤くなっていて、その姿がとても可愛かったので、今にでも抱きしめてしまいそうだった。

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