日が昇った頃にオーフェンの街を出発した俺たちは、昼前にメリッサの街に着く。
そして、門前には勇者トリスタンさまのパーティーが魔物の襲撃に備えて、メリッサの門前で見張っている。
俺や陽葵、そして、騎士団長のネッキーさんと一緒にメリッサの門に入ると、トリスタンさまが俺たちに声をかけてきた。
「お~、キョウスケ殿、ヒマリ殿。首を長くして待っていたぞ。昼食を食べたら、すぐに軍議があるから、2人も参加してくれ。それと、今日の昼食は、私たちと一緒にどうか?」
トリスタンさまの誘いを断る理由もないので、俺と陽葵は、すぐにOKをした。
「トリスタンさま、少しの間、留守にしていて申し訳ないです。王をオーフェンまで、迎えさせてしまった挙げ句、私の魔力不足で1泊する事態になって恐縮しています。昼食の件は大丈夫ですよ。中央広場の宿の隣にある食堂にしましょう。」
トリスタンさまは、うなずいて俺に返す。
「キョウスケ殿、それは仕方ない。相当に魔力を消耗していて倒れたと聞いているから、無理は禁物だ。宿に入って早々に荷物を置いてくれ。この前と同じ部屋を宿の主人が押さえているから、すぐに通されるはずだ。」
過剰に俺と陽葵にべったりとつきたがっている王を見て、勇者トリスタンが俺たちに気を遣った部分があるのが、すぐに分かったので、俺や陽葵も二つ返事だったのだ。
陽葵は、トリスタンさまの誘いの意図を察して、すぐにお礼を言う。
「これだけの兵士や宮廷魔術師がメリッサにいるから、遊撃自警団ギルドか、ギルドの仲間の家に泊めてもらうことまで考えていましたよ。トリスタン様、助かりました。」
その陽葵の言葉にシエラさまがすぐに返した。
「気にしないで。宿の主人は、救国の英雄夫婦に野宿をさせるわけにはいかないなんて言っていたのよ。あの部屋だけは、指1本たりとも触れさせなかったらしいわ。」
俺は勇者パーティーに一礼して、中央広場にある宿屋に向かって急いだ。
街に入ると、街中は鎧を着た兵士や、一般人で溢れかえっているが、老人や女性、子供は川を下ってローラン城に避難しているから圧倒的に少ない。
そうしているうちに、俺と陽葵が広場まで歩いて行くと、兵士や鎧を着た男どもから、歓声とともに一斉に拍手を送られた。
「うゎぁぁ~~~!!。キョウスケとヒマリだぁ~~。」
そんな声を聞いて、俺と陽葵はすこしだけ恥ずかしくなって、急いで宿に入ると、宿に入った瞬間に、主人に声をかけられてしまう。
「ようやく我が国の秘密兵器夫婦がお出ましだ。お前たちも随分と出世したね。王様のお出迎えに、オーフェンで、あの食堂の親父に、たらふく料理を振る舞われるとはねぇ…。」
「旦那さぁ、冗談は休み休み言ってくれよ。たしかにアフロディーテさまの力は借りたが、7万の魔物を、簡単に蹴散らすなんて無理だよ。せめて、この町に魔物が侵入しない程度に、他国の援軍を待つまで一週間ぐらい籠城するのが、精一杯のような気しかしないよ。」
俺の悲観的な言葉を聞いた宿屋の主人は、少しだけ溜息をつく。
「そうだよな。それでも7万の魔物から街を守れるだけの戦力を確保できたのだから、お前は凄いよ。」
「こんなところで、色々と話していたら時間が足りないから、あとで勇者様と一緒に、そこのテーブルでゆっくりと話すよ。部屋を確保してもらってホントに助かったよ。」
宿屋の主人は、俺の言葉に凄く喜びを露わにすると、こんどは真剣な目差しで俺を見ている。
「キョウスケさんやヒマリさんは、夫婦だから1部屋だけで良いから楽だよ。問題は勇者様たちだよ。やっぱり、それぞれの部屋は分けないといけないから、部屋の確保が大変でね…。この情勢だから、ローラン城の兵士や騎士団は、街の隅にテントを張って野宿だからさ…。」
俺は、宿の主人に再び礼を言うと、すぐに部屋に行って、荷物を置いたが、鎧や剣は外さなかった。
魔物の襲来がいつあるのか、分からないし、予測不可能な事態に備えなければいけない。
俺と陽葵が部屋に荷物を置いて、すぐに宿の外に出ると、トリスタンさまや、イジスさま、シエラさまが宿の外で待っていた。
「キョウスケ殿、ヒマリ殿、そこの食堂の店主に声をかけられてね。2人には、オーフェンの店主のお礼がしたいから、すぐに呼んできてくれと…。」
「トリスタンさま、申し訳ないです。オーフェンの食堂の店主と、あそこの店主は親類でしてね。オーフェンの店主が、王や兵士たちに食事を振る舞ったので、親類としては誇りに思ったのでしょう。」
トリスタンさまは、俺の言葉に激しくうなずいた。
「王様御用達ともなれば、その店は安泰だからな。その親類であっても鼻が高くなってしまうだろう。あの店の味は私も気に入っている。ここの土地の食材をふんだんに使っているし、魚も肉も臭みが無くて、味付けも美味だ。」
そんな話をしながら、俺達は食堂に入ると、店主が俺と陽葵を真っ先に席に案内した。
「キョウスケさん、ヒマリちゃん!。まったくお前達は、もの凄い出世しやがって。昔から、国が絡んで下手したら国が傾くような事件を、シレッと解決してきたけど、今回は極めつけだぞ!。それに、オーフェンの親類の件は、お前たちがいなかったら、店の安泰すらなかったぞ!。」
俺はそれを聞いて、色々と面倒くさいことが積み重なっていることを察して溜息をつく。
「店主、大げさすぎるよ。話は後でゆっくりとするとして、食事をしながら、勇者様と情報交換もあるから、今は時間がいくらあっても足りないよ。オーフェンの店主のように沢山の料理は要らないから、勇者さま達が、せっかくローランに来ているから、ここでしか楽しめないような料理を出してくれ。俺たちは、普段通りの料理で構わないから。」
それを聞いた、トリスタンさま達はニコッと笑って、シエラさまが俺達に率直な意見を口にする。
「ははっ!。キョウスケ殿や、ヒマリ殿は、こんな立場であっても欲がないから、誰からも好かれるのだわ。だからこそ、この町の人々から遊撃自警団ギルド隊員として、信頼されているのよ。」
トリスタンさまは、俺と陽葵を見ると、目を閉じてうなずいていた。