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第26話:いざ、メリッサの街へ。~後編~

 俺たちが門前まで来たのをドラゴンが確認して俺たちに声をかけてくる。


「恭介と陽葵よ。女神様から、ある物を預かってきた。我の後ろに回り込んで、それを授けよう。そして、我の影に隠れて、すぐに使ってくれ。女神もアポロン様に頼んで作らせたと聞く…。王や民衆よ、これは女神様のご神託だから、詳しい話はできぬ。」


 俺と陽葵は素早くドラゴンの後ろに行くと、ドラゴンは収納魔法で魔法で2つの水袋を取りだして、俺と陽葵の目の前にポンと浮かび上がらせた。


 どうやら、俺の水袋は青、そして陽葵の水袋はピンクで間違いないように判別されている。

 ドラゴンは防音魔法を使った上で、念のために念を使って俺と陽葵の精神に呼びかけた。


『アフロディーテ様が、お前らに魔力回復と、更なる増強を兼ねた、女神の泉とブレンドした特殊なポーションを作ってくれたのだ。無論、アフロディーテ様の力だけではなく、アポロン様も積極的に協力してくれたらしい。』


 俺と陽葵はそれを聞いて吃驚したが、周りに聞こえると厄介になるのが分かったので、俺は小声でドラゴンに話しかけることに。


「それはすごい…。たぶん魔力切れを起こしている俺を、アフロディーテ様が見ていてアポロン様に頼んだのが分かる。陽葵のポーションは魔力と神気の受け皿を増強させるのか。」


 ドラゴンは俺が小声でボソッと放った言葉に反応して念を送ってくる。


『恭介よ、そんなところだ。神々から、そんな事をしてもらえるのは、死者の魂を天上界に帰さなかった、魔族への怒りが強い証拠だぞ。あの魔族たちは、神々によって滅ぼされる勢いだ。』


 俺と陽葵はドラゴンの念を聞きながら水袋を手に取ると、ドラゴンが再び念を送ってくる。


『くれぐれも少しずつ飲め。急激に飲むと、体がびっくりしてしまうから、気をつけるのだ。』


 俺と陽葵はドラゴンの忠告通りに、水袋に入っているポーションを少しずつ飲む。


 そんな事をボソッと言うと、陽葵が俺の左腕を少しだけ抱きしめた。

「力が強すぎて、少しだけ頭がクラクラするわ。自分の中の魔力と神気が、急激に組み変わった感じがして、違和感がありすぎるわ。」


 陽葵が違和感を訴えたことに、ドラゴンは、皆に聞こえるように大きな声で、こんどは話しかけてくる。


「二人とも大丈夫か?。今夜は少しゆっくりと休んだほうがよいと、アポロン様から伝言があった。今日は沢山の料理が出ると王から聞いたから、それを食べたら宿でゆっくりするがよい。明日の出立は夜が明けて日が少し昇ってからでもよかろう。」


 そして俺も、周りに聞こえるように、大きな声を出してドラゴンに呼びかけて感謝の意を口にした。


「ドラゴンよ感謝をする。それと、彼氏ができて俺たちも嬉しいけど、戦いに引きずり込んでしまって申し訳ない。どうやら彼氏さんも戦ってくれるみたいで、本当に助かる。」


 俺の感謝の意に、ドラゴンは明らかに嬉しそうな弾んだ声で俺の問いに答える。


「彼氏もアフロディーテ様のご命令だから、絶対に逆らえないのだ。草原でワープしてきた魔物の群れを、我らは一網打尽にする覚悟だから、あの街に襲撃してくる魔物の数は、相当に激減するはずだぞ。」


「ドラゴンさん達も気をつけて。もしも情勢が悪ければ、街の門前で俺たちと一緒に戦おう。数が半端ないし、上級魔族が出てきたら、ドラゴンといえども大変な事になるから…。」


「それはアフロディーテ様からも言われているぞ。その時はお前達の知恵も借りながら戦っていこう…」


 ドラゴンが飛び去ろうとしたとき、陽葵は少しだけ雌のドラゴンに単純な質問をぶつけているが、これが、戦略的にはとても重要な問いだったから、陽葵は油断ができない。


「ドラゴンさん、あの谷からここまで飛ぶと、どれぐらいで、ここに来られるの?。」


「我らは速く飛べるから、2時間もかからないで、ここまで来られるぞ。ただ、人間や他の生き物を乗せると、振り落とされるばかりか、身体にも害があるらしいから。我に乗るのは古今東西、チョイと無理だ。」


 無論、その声は王にも丸聞こえであったから、誰もがドラゴンの背中に乗ろうなんて気が起きなくなっている。


 そして、ドラゴンと陽葵の何気ない会話が終わると、空高く雲がある所まで飛んだかと思うと、ものすごい轟音とともに、筋状の雲を残して飛び去っていった…。


 ◇


 -その夜-


 俺と陽葵は、王の晩餐に呼ばれていた。


 当初は疲れていると断ったのだが、主役がいないことには始まらないと、王妃やネッキーさんも出てきて言われてしまっては仕方ながない。


 俺たち夫婦は、宿の隣の食堂の店主が、気合いを入れて作った豪勢な料理を、王妃や王宮騎士団や宮廷魔術師を交えながら食べている。


 王妃と一緒に、キングオーク討伐の時のことを話をしながら食事をしていると、王と師匠が俺たち夫婦に向かってきたので、慌てて、俺と陽葵が、王にひざまずこうとすると、王は右手をかざして、それ制した。


「キョウスケ、ヒマリよ。楽な格好で良い。しかし、守り神のドラゴンとも友好関係を作っているとは思わなかったし、ドラゴンがつがいで戦うとは思ってもいなかったぞ…。」


 俺もドラゴンのつがいは意外だったので、苦笑いをしながら、王の率直な感想に答える。


「ドラゴンのつがいに関しては、私たちも、思いも寄らなかったので…。雄のドラゴンが、どんなドラゴンなのか分かりませんが、女神様のご神託とあらば、必ずや力になりましょう。」


 そして、王とのやりとりが終わると、師匠が俺に向かって、あすの出立のことを伝えた。


「明日は、ドラゴンの言うとおり、日が昇ってからメリッサに向かおう。お前たち夫婦に鑑定魔法をザッと使ったが、お前もヒマリも、吃驚するぐらいの力を得たのはすぐに分かった。女神や守り神のドラゴンから、相当に気に入られたのが分かる。」


「師匠、戦いが厳しいものになると、女神様が予想しているからこそ、このようにお力を与えられたのだろうし、これから気が引き締まる思いですね。」


 王と師匠が俺の言葉にうなずくと、王が俺の右肩をポンと叩いてくる。


「キョウスケ、それにヒマリよ、女神と守り神のドラゴンのお導きによって、メリッサの街が守られることを期待しておるぞ。メリッサには勇者もいる。我が国は運が良かった。」


「いえいえ、私や陽葵がいるだけでは駄目ですよ。王が日頃から民を思っているからこそ、女神様は、この国を助けようと思ったのです。国を治める王が不適なら、ヴァルカン帝国のように、女神様のお怒りに触れてしまいます。」


 王と王妃は俺の言葉に深く頷いている。


「キョウスケよ、その通りだ。王は身を粉にしてまでも、国のために、そして民の為に働かなければいけない。それを蔑ろにしたからこそ、ヴァルカン帝国は女神様のお怒りを買ったのだろう。神を怒らせるとは…、いやはや、横暴が酷すぎたのだ。」


 そして師匠が、タイミングを見計らって俺たち夫婦に声をかけた。


「キョウスケ、ヒマリよ。あの時にドラゴンの声が、私のいるところまで聞こえたから、内容を理解しているから、早々に宿で休んでくれ。確かに、魔力は女神様のお力によって回復しているが、魔力や神気の受け皿が変わっているから、体がついていけないのが分かる。だから魔力も神気も揺らいでいる。」


 俺と陽葵は師匠の言葉に素直に従って、王に退出を告げて、宿でゆっくりと休んだのである…。


 そして、翌日の朝、俺と陽葵は宿を出て、宿代はタダでよいと言って聞かない主人を説得して、宿賃を置いていくと、宿の外で待っていた騎士団長のネッキーさんに声をかけられた。


「さて、メリッサに戻ったら、作戦会議を開かなければいけません。この戦いに2体のドラゴンが加わるので、無闇に軍議を開かなくて正解だったかも知れません。」


「そうですね。ドラゴンが2体もいることによって、作戦がだいぶ違ってますし、勇者トリスタン殿たちと情報交換も必要ですから。」


 俺の意見にネッキーさんは激しくうなずいている。


「キョウスケ殿、その通りです。勇者様たちとキョウスケ殿の夫婦は、我が国にとって最終兵器のようなものです。それにドラゴンも加わって、7万という大軍勢の魔物達を、おぼろげながらも撃退できる未来が見えてきました。今までが、とても絶望的すぎたので、やっとマシな戦術が見えてきました。」


 俺と陽葵は、オーフェンを出ると、ネッキーさんと歩きながらメリッサを目指すことにした。


 王の配慮で、俺たちに馬車が用意されていたようだが、下手に馬車を使って体力を温存したところで、足腰が鈍ってしまえば、元も子もないので、俺も陽葵も歩くことを懇願したのだ。


 オーフェンの街から出て、しばらく街道歩くと、ローラン城から流れてくる川が見えて、その川辺には土手が綺麗に築かれていて、等間隔で兵士や魔術師が立っていて、魔物の襲撃に備えている。


 そして、川を見ると、ひっきりなしに船が往来していた。


 往来している舟には、メリッサに物資や兵士を運んだり、メリッサの女性や子供、それに老人などが、ローラン城に避難する様子がうかがえる。


『いよいよ、メリッサか…』


 俺は川を往来している船を見て、つぎに陽葵と顔を見合わせると、魔族の大軍と戦う覚悟を心の中で強く決めていた。


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