俺は依然として魔力不足が深刻なので、体調が優れなくて部屋のベッドで寝ていると、陽葵はオーフェンの街中を少しだけ散歩すると言って、俺を置いて出掛けようとしている。
陽葵が誰かに絡まれたとしても、今はアフロディーテさまが常に見ておられるだろうし、街の皆も陽葵を見た瞬間に、救国の英雄のとして声をかけてくるから、下手な手出しなんてできないはずだろう。
彼女もいざとなれば、護身用のショートソードを装備しているので大丈夫なはずだと信じたい…。
いちおう、陽葵は俺から基礎的な剣術を習っているし、陽葵が持つショートソードは古代魔法時代の物で、剣に軽量化の術式や、剣の威力を少しだけ倍増させる効果を持つ術式も入っている。
そして、俺は陽葵が部屋に出て行くときに、術式を織り込んだ小さな木の棒を持たせた。
この木の棒を振れば、3回だけ俺と魔道通話が繋がる仕掛けが施されているから、何かあったときの連絡手段になるはずだ。
「陽葵、何かあったら、例の木の棒を振って、俺に魔道通話をつないでくれ。街中には王宮の騎士や兵士、それに魔術師がいるから、大丈夫だと思うが、くれぐれも気をつけてくれ。陽葵は可愛すぎるから、誰かに狙われたら心配でしかたがない。」
俺がそんな感じで心配になっていると、その心配をよそに陽葵が少しだけ顔を紅くして、恥じらっている。
「あなた、それは大丈夫だから心配しないでね。もぉ…♡。付き合った時から、わたしのことを、可愛すぎるなんて、ズッと言い続けているけど、この年になると、流石に恥ずかしくなってくるわ♡」
「そんな恥じらう陽葵が可愛いすぎるから、俺が悶えてしまう…。」
女神アフロディーテは、微笑みを絶やさずに、そんな夫婦の会話を天界から聞いて、大きな独り言を放っていた。
「そう、それこそが、わらわのご馳走なのよ!。」
そして、庭を駆け巡って、そのイチャラブのご馳走を消化しようとしたが、恭介が宿の部屋で眠そうにしているのを見て、ハッと気づいて頭を抱えてしまっている。
「しまったぁ~~!。わらわはドジっ子なのよ。これでは、恭介は開戦ギリギリになって魔力が回復するから大変な事になるぞ。わたしは神よ。なんで、泉の水を恭介に授けなかったの…。」
女神アフロディーテは、腕を組みながら、天界にある庭園をウロウロと歩きながら、大きな独り言をブツブツと言っていた。
「どうしよ。そうだ、陽葵ちゃんの器も改造するために、ドラゴンを使って、わらわが細工をした泉の水を飲ませるのよ。恭介も少し魔法の威力を増やそう。でも器の拡大は駄目だ。これ以上の魔力保持は低級神に匹敵してしまうから、主神から何を言われるか分からぬぞ…。」
そんな女神アフロディーテの大きな独り言が終わると、アポロンがいる神殿に向かって、彼の知恵を借りながら、泉の水を改良して、それをドラゴンにオーフェンの街まで運ばせる暴挙に出たのだ。
そんな、少しドジっ子の女神は置いといて…。
陽葵は俺の頬に軽くキスをすると、宿の部屋を出て行ったが、しばらくすると、俺は、魔力不足のせいか、今までの疲れもあって、深い眠りについてしまった…。
◇
-数時間後-
俺が目を覚ますと、すでに夕暮れ時で、部屋の中は少し薄暗い…。
目を開けて部屋を見渡すと、陽葵と師匠、それに…王妃が椅子に座って談笑をしている。
3人は俺が目を覚ましたことに気づいたようで、俺が王妃がいることに、とても驚いて、ベッドから身を起こすと、3人は一斉に笑っているから、何が起こったのか、軽く混乱をしていた。
そして、王妃が、目を覚まして思考があまり働いていない俺に話しかけてきた。
「キョウスケ殿、目が覚めましたか。オーフェンの街をケビン導師長殿と一緒に歩いて見て回っていたら、ヒマリさんが、お店で服を選んでいるところに、バッタリと出くわしたのです。それからヒマリさんに街を案内して頂いて、大いに助かりましたよ。まだ、この部屋に入って、少ししか経っていませんから安心して下さい。」
俺は、王妃がいることを改めて認識して脂汗をかきながら、王妃に言葉を返す。
「まさか、この部屋に王妃がいるとは思わず、ぐっすりと寝てしまって恐縮です。」
その恐縮している俺に向かって、師匠が真っ先に口を開いて、王妃のフォローに入る。
「お前は、魔力を使い果たした上に、女神のお力に触れて、力を分け与えられた影響で、体が吃驚しているから、今はじっくりと休むのが正解だぞ。ヒマリは女神様を時分の身に降臨させたが、身の負担が少ないのは、女神のご加護が強いから、お前ほど疲れていないと考えている。」
まだ、魔力が完全に回復していなくて、俺が疲れた表情を浮かべているのが明らかに分かったらしく、3人は一様に心配そうな顔を俺に向けてきたが、王妃が優しく俺をなだめた。
「キョウスケ殿、さきほどの女神様のご神託を含めて、お力を分け与えられたので、かなり疲れているのが目に見えてわかります。それは、魔道士ではない、わたくしでも、明らかですからね…。」
陽葵も相当に心配そうな顔をして、俺をのぞき込んでいる。
「あなた、どうやら王は今日の晩餐に、あなたと、わたしを招待するそうよ。そこは意地でも出ないと。」
その陽葵の心配に対して、王妃が何かを言いかけようとした時だ。
この部屋の扉を激しくノックする音が聞こえて、騎士団長のネッキーさんが入ってきた。
「キョウスケ殿、ヒマリ殿、大変です!!。この街の入口に、どっ、ど、どどっ、ドラゴンが!!。ドラゴンは、2人に女神から頼まれた事があるから、門の前で待ってると言っています!!。」
それを聞いて、俺はネッキー殿にツッコミを入れる余裕を見せようと思って、少しだけ冗談を飛ばす。
「ネッキー殿、ドラゴンの大きさでは、ここの宿までドラゴンがきたら、全ての建物を踏み潰してしまうでしょうから、街の門の前で待っているのは正解でしょうね。」
その場にいる全員がクスッと笑ったので、一応は成功したのだろう。
俺と陽葵は慌てて、王妃や師匠やネッキー殿と一緒に宿の外に飛び出すと、ドラゴンの姿がしっかりと見えたので、俺は思わず苦笑いしている。
俺たちは街の門まで急いで行くと、王がドラゴンが何やら会話をしている様子だ。
「ドラゴンよ、数万を超える魔物から、この国を救ってくれると女神から聞いている。ほんとうに感謝しきれない。」
「我は、夫のドラゴンと共に、7万の魔族と戦えとアフロディーテ様に命じられている。1000年前の人間達の暴挙はともかく、この国は、王を含めて、女神や我をずっと崇めてくれた。その恩に応えなければいけない。それに、女神のご加護を得た恭介や陽葵もついておる。皆で心して戦え。」
その王とドラゴンが会話をしている様子を、兵士や騎士、それに魔術師や多くの民衆が見ていた。