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第21話:ケビン導師長は俺の師匠。~前編~

「あなた!!。シッカリするのよ!!。こんなところで倒れないで!!」 


 陽葵は俺が意識を失って倒れ込んだのを見て、俺を抱き寄せて体を支えている。

 師匠が慌てて、魔力を融通する術式を展開して、少しだけ魔力を注入すると、俺は意識を取り戻した。


 少し意識が朦朧とする中で、師匠の呆れたような声が聞こえる。


「キョウスケよ。こともあろうに、王の目の前で魔力不足で倒れるなど、言語道断と言いたいところだが、わしの予想以上に、アフロディーテ様に、おぬしが倒れる寸前まで、力を分け与えていたのだな?」


 俺は師匠から魔力を注入されて、なんとか立ち上がると、まずは王の前にひざまずきなおして、自分が倒れた非礼を詫びる。


「王よ、こんなところで魔力不足により、目眩がして倒れ込んでしまい、申し訳ありませんでした。師匠の言うとおり、妻がアフロディーテ様の依り代となった時に、肉体を崩壊させないよう、アフロディーテ様に全魔力を注入した影響で、昨夜、オーフェンに着いた時点で、歩くのが精一杯でした。」


 まさか、テレポテーションで魔力を使い果たしたとは言えず、俺はそのような嘘をついたのだが、師匠は、魔術師の潜在魔力を見抜いて、どの術式が展開できるのかを見抜くような鑑定魔力に優れているから、テレポテーションが使えることがバレないかが心配だ。


 さっそく、師匠が魔力を俺に融通した魔術回路を利用して、俺の魔力を見定めるように、鑑定の術式を展開すると、いつもよりも眉間にしわを寄せている。


 そして、師匠は長い溜息をついて、王に言葉をかけた。


「王よ、わたしが、オーフェンまでご一緒したのは、このキョウスケが、わたしに弟子入りしてから、どれだけ成長したのかを見極めたかったからであります。この弟子は、とっくに、わたしを越えているばかりか、神の英知にもふれております。この場では、色々とありすぎて語りきれませんし、この弟子の体調も心配です。」


 王も王妃も師匠の言葉を聞いて、相当に心配そうな顔をしている。


「ケビン導師長。それだけ、キョウスケは強大な魔力を使ったと申すのか?。それに、神の英知とは、どういうことだ?」


「話せば長くなります。こやつの体調は、あまり良くありません。このままメリッサに連れて行くのは、また倒れる危険性があって、とても心配です。魔物や転送用の魔法陣の動きから予測すると、魔物の襲撃は、数日間はないでしょうから、今日はこのオーフェンで一泊してはいかがでしょうか…。」


 師匠の忠言を受けた王は、静かにうなずいて、そばにいた騎士団長のネッキーさんを呼び寄せた。


「騎士団長のネッキーよ、今日はオーフェンで一泊するぞ。まずは遊撃自警団ギルドで、キョウスケやヒマリ、それにケビン導師長と一緒に話を聞くことにする。」


 その王の決断に、周りは相当に騒がしくなっているのが分かる。

 予定外の行動なので、王のお付きは、様々な手配に忙しくなるのであろう。


 王はネッキーさんと詳細な打ち合わせをしているから、俺たちに構っている余裕がないようだ。

 そんな喧噪の中で、陽葵は師匠に声をかけて挨拶を済ませようとしている。


「ケビン導師長さま、お久しぶりです。」


「ヒマリよ、久しぶりだのぉ。おぬしも、命を女神に捧げることなく、精神も女神に取られることもなく、五体満足で、よく完全な降臨を成し遂げたかと思うと、腰を抜かしているぞ。」


「あれは、私が望んだというよりは、魔王軍のネクロマンサーが、死者の魂を天界に還さなかったことに、アフロディーテ様がお怒りになられたからです…」


 そんな会話を聞いていたが、俺は少し歩こうと思って立ち上がろうとしたときに、少しだけよろけたので、陽葵がとっさに俺の身体を支えた。


 陽葵に少し抱えられるように歩くと、心配そうに俺を見つめている。


「あなた、そんなに魔力を使い果たしていたの?。だから、早朝からメリッサに向かわずに無理をしなかったのね…」


 王妃が、それをとても心配そうに見ているのが分かって、俺たち声をかけてきた。


「キョウスケ殿、それにヒマリさんには無理をさせてしまって、とても後悔をしているわ。ケビン導師長があのように言うからには、大変な事態になっていたのが分かるのよ。何も知らなかったとはいえ、王に代わって、お詫びするわ…。」


 俺は王妃の謝罪を聞いて、とても慌てて、とっさにその場を取り繕うことに。


「王妃さま、そのような事はありません。私の力不足から招いた失態でありますので、どうか、お気になさらずに。私はケビン師匠以上に精進せねばいけません。お恥ずかしい限りです。」


 そして、この後、こともあろうに、王と王妃が乗る馬車に、俺と陽葵、それに師匠が乗って、ギルドまで向かうことになってしまった。


 その馬車の中で、師匠が、俺をマジマジと見て厳しい目を向けると口を開く。


「王よ、この弟子に色々と聞きたいことがある故に、ご無礼をお許し下さい。」


 師匠はそう言うと、王は「うむ」と、一言だけうなずいて、静かに師匠の言葉を待っている。


「キョウスケよ、お前は、アフロディーテ様のお力に随分と触れたな。魔法剣士の力と、聖騎士の力を兼ね備えた、とんでもない化け物になった。魔力不足もあるが、アフロディーテ様にお力を入れられて、体が吃驚している状態だと理解した。」


 それを聞いた王と王妃は驚いて、王が馬車の中で声をあげた。


「なんと!!。魔法使いと聖騎士の力を共に備えた人物など、この世に存在するなど聞いたこともない。伝承の中にあった、神の血を引く子のような存在であるのか?」


 師匠は王の言葉にうなずいて答える。


「王よ、それに近い状況でございます。この弟子は、アフロディーテ様のお力を授かったお陰で、超古代文明の宝剣に、アフロディーテ様の神気を宿らせながら、魔力を帯びた剣気を放つことができる技を編み出しました。もはや、聖剣を持った勇者と同等でございます。」


「おおっ、そうすると、このローラン国に、新たな勇者が誕生したと?」


 その王の問いに、師匠は首を横にふって答える。


「勇者は、遠く神話の時代から、神の血を引く者が使命を果たします。この弟子は神の血を引いていませんが、神から直接、お力を与えられたので、聖騎士と同じような感覚なのです。」


「なるほど…。この国は女神アフロディーテ様と、その神の使いのドラゴンがいるから、聖騎士は置いてならぬと掟がある。ヒマリは聖女だから、その存在は良しとして、キョウスケは如何なものか…」


「王よ、こやつは聖騎士とは異なります。神よりお力を授かっただけです。さらに、回復の魔法も、神から授かっているので、ある意味では聖女の役割も担っていて、とても不思議な存在です。彼は魔法剣士が主体であるために、聖騎士として名乗ることができません。」


 その師匠の言葉を聞いて王と王妃は、あんぐりと口をあけたままになっている。


「ケビン導師長よ、わしは開いた口が塞がらない。キョウスケはヒマリと同様に、アフロディーテ様のお気に召されたのか?」


「推察するに、その通りでございましょう。わたしも長いこと、魔法の術式や、複雑な神言に触れてきましたが、この弟子に流れ込んでいる神の言葉は、わたしでも分からない部分が多く、その力に畏怖さえ覚えます。それは、妻のヒマリも同様であり、彼女のもつ力は、神そのものであり、恐れ多いのです。」


 師匠が、そこまで話を終えたところで、馬車はギルドの目の前で止まった…。

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