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第20話:ローラン国王の出迎え。~後編~

 俺と陽葵は、やっとの思いで豪華な朝食を食べ終えると、宿に戻って急いで着替えて、いつもの遊撃自警団の装いになると、まずはギルドに向かった。


 エリオンさんは俺たちを待ちわびるように、ギルドの入口に立っていたし、早馬で駆けつけた王宮騎士団長のネッキーさんが隣に立っているから、俺は驚きを隠せないでいる。


 まずは、2人に一礼をして、ギルドに来るのが遅れた事を詫びた。

「遅くなって、申し訳ありませんでした。なかなか宿の隣の食堂の店主が帰させてくれなくて…」


 俺がギルドに来るのを遅れた理由を聞いて、エリオンさんが声をあげて笑っている。


「ははっ!!。あの店主に気に入られたら、山のように料理が出てくるからな。しかも、タダなんて言われると、気が引けてしまって、帰りは金貨の1枚でも置かないと、こっちの気が休まらないから困る。」


「エリオンさん、その通りですよ。陽葵もいるので、金貨2枚を置いてきました。朝からステーキは勘弁ですよ。」


 そのボヤキに、騎士団長のネッキーさんが言葉を返した。


「キョウスケ殿、わたしは、昨晩、あそこで若い騎士達と一緒に食事をしていたら、店主に、国を守る騎士団長だから、いっぱい食べろと言われて困り果てましたよ。若い部下に食事を分け与えたら、部下の食事までタダにすると言うじゃないですか…。」


 そのネッキーさんの話に、陽葵が一緒になって愚痴を吐き始める。


「騎士団長殿、あの店主は、いつもそんな感じなので、いつも困り果ててしまうのです。でも、料理は美味しいくて、値段も安いので、文句のつけようがないし、タダなんて気が悪くて…。」


「ははっ、ヒマリ殿も、やっぱりそうですか。私も部下の分まで、金貨を置いていくハメになりましたから、皆さん、考えることは一緒なのですね。」


 エリオンさんが、さらにあの店主に愚痴を入れ始めたから始末におけない。


「騎士殿。店主は、そういうことでお金を払ったことを全部、覚えているから始末におけないのですよ。そうだ、キョウスケやヒマリは、あの店主が、メリッサの宿まで豪華な食事を作りに来たことがあったから、覚えているだろ?」


「あれには参りましたよ。大きな依頼が終わって、一息ついてメリッサの宿で昼過ぎまで陽葵と寝ていたら、宿の部屋をノックしたかと思うと、いきなりメリッサの宿の近くの食堂を借りて、俺たちに飯を作るのですから。しかも、メリッサの隣の宿の店主と親類だから、やりたい放題ですよ。」


 それを聞いた、ネッキーさんは、かなり困惑をしている。

「え??。それは、色々な意味で凄すぎますよ!!。もしや…、私たちも、何かありそうな…。」


「それって、若い騎士団の全員分を金貨で払ったのなら、メリッサの全兵士に食事が提供される勢いですよ…。」


 俺がネッキーさんにツッコミを入れると、長い溜息をついている…。


 余談だが、その俺の予想は、別の形にはなったが、ほぼ的中したのだが…。


 それは、そんな話をしていると、オーフェンの領主がギルドにやってきた。


「おおっ、これは、騎士団長殿、それにエリオンさんや、キョウスケさん、ヒマリさんも、待たせてしまって申し訳なかった…。」


 オーフェンの領主がきたところで、俺たちは、オーフェンの街の入口まで歩いてローラン王を迎え入れることに。


 その道を歩きながら、領主が俺たちに話しかけてくる。


「キョウスケさん、ヒマリさんは、いつも湖の魔物討伐をやってもらって、うちの街は助かっているから感謝をしていますよ。ところで、王国の伝令を見て、私は吃驚しましたよ。女神様のお力を借りたとは言え、ヴァルカン帝国の息の掛かったスケルトンやネクロマンサー、それに、呪われていたドラゴンやキングオークの群れを1日で倒すなんて…。」


「領主、恐縮です。あれはアフロディーテさまのお力が偉大すぎたのです。私たちは、女神様のお力の手助けを少しばかりしただけです。問題なのは、これから数万もの魔物に、どうやって対峙して殲滅させるかですから。」


 俺の言葉に領主は、シッカリとうなずいている。


「キョウスケさん、その通りですね。しかし、魔物の数が数万とは…。こちらは、もしもメリッサが崩壊した場合に、最期の砦となるように、王から細かい指示を受けているのです。やれることはやるつもりですし、私もメリッサの領主と同じように、この街と共に運命を共にする決意ですからね。」


 その領主の言葉に、揺るぎのない固い決意が伝わってきた。


 メリッサの領主は、もっと厳しい状況だから、街と共に運命を共にすると決意を固めたことを、セシルさんが魔道通話の中でも語っていたから、俺は、オーフェンの領主に対しても、何とも言えぬ気持ちになっている。


「領主殿、それに騎士団長殿。私としては、国を守る為に、微力を尽くすだけです。できる限り民を守り、一人でも多くの民の命を繋がなくてはなりませぬ。」


 この魔物の襲撃により、数多くの兵士や民が犠牲になるだろう。


 他国に援軍を望もうとも、1週間ぐらいかかるから、頼みの綱は、勇者パーティーと、神の使いのドラゴンと、アフロディーテさまのお力だけになる。


 あの魔物の数で、1人の死者を出さすに民を守るのは無理だが、1人でも多くの民を救わなければいけない。


 そんな複雑な心境を持ちながらも、街の入口に着くと、しばらく経ってから、国王と王妃を乗せた馬車が見えてきて、俺たちは緊張した面持ちで、国王と王妃を待つ。


 国王と王妃を乗せた馬車が、街の入口に近づいてきて、護衛をしていた騎士団が門の前で止まって、俺や陽葵を含めて、その場にいた住民も含めて皆はひざまずいている。


 そして、馬車が門の前に止まると、騎士団長が馬車の扉を開いて、国王と王妃を馬車から降ろすと、俺たちに近づいた。


 ローラン国王から俺と陽葵は声をかけられる。


「キョウスケ、それに、ヒマリよ。よくぞ、ヴァルカン帝国か仕向けたスケルトンや、ネクロマンサーを倒して、いち早く駆けつけてくれた。礼を言うぞ。」


 俺と陽葵は王の労いと礼を賜って、気が引き締まる思いがした。


「王よ、こんな場所まで私たち夫婦を出迎えるなど、恐縮すぎて言葉が出ません。それに、様々な案件が解決できたのは、妻が召喚した女神アフロディーテ様のお陰であって、私たちの実力ではありません。なにとぞ、過分な評価を避けて頂きたく…。」


「王様、夫の申す通りであります。私はアフロディーテ様のお力を受けて、偶然に、私の体を女神にお貸しただけなので、何もやっていませんので…。」


 陽葵も俺と同じ意見だったようで、内心は安心してたのだが、王はその言葉に首を静かにふっている。


「いや、アフロディーテ様や神の使いのドラゴンが、お前たち夫婦を、お認めになったことが、この国にとって大事なのだ。古い伝承の中に、女神と神の使いのドラゴンが記された石版が、この国の宝物倉の中にあって、王は即位をすると、その石版を必ず見ることになっているから、ドラゴンは特に大事なのだ。」


 俺はその王の言葉に、思い当たる節がありすぎて、反射的に尋ねてしまった。


「それは、女神アフロディーテ様と、ドラゴンを結びつけるお話では…」


 王はしっかりと俺の目を見て、強くうなずいている。


「うむ。キョウスケよ、その通りだ。女神アフロディーテ様は、この国の北の谷に神の使いとして、ドラゴンを住まわせた。この国に危機があれば、そのドラゴンが必ず助けるから、決して刃を向けてはならぬと。」


 王と俺たちが話している時に、見覚えがありすぎる1人の老人が、俺と王に近寄って来るのが分かった。


「キョウスケよ。お前は城に来ても、師匠のワシにも会わずに、そそくさと帰ってしまうのだから…。仕方のない弟子よのぉ…」


 王と王妃は、その声を聞いて微笑んで、王は喜びを露わにしているのがすぐに分かった。

 うちの師匠はことある毎に王の宰相や参謀も兼ねているから、この国の柱となっている存在だ。


「おおっ、ケビン導師長殿が、一緒にいるとは思いもしませんでしたから。是非ともキョウスケを王宮に引き込んで頂きたい。」


 俺が師匠に何かを言おうとした直後、頭がクラッとして、大きな目眩を覚えた。


『しまった、完全に回復していないし、魔力のバランスが悪くて、身体がいうことを利かない!!』


 陽葵が、俺の身体の意変に気付いて心配そうに見つめた直後、その場で意識を失って俺は倒れてしまった。

 急激な魔力の放出を繰り返せば、体がむしばむのは当然である…。

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