-翌朝-
俺と陽葵はオーフェンにある宿屋の近くにある食堂で、仲良く朝食を食べていた。
「あなた、まだ顔色が悪いけど大丈夫?。お昼まではゆっくりとしていたほうが良さそうね?」
陽葵は俺の体調がすぐれないことをとても心配している。
「そうしよう。もうね、今までにないぐらい魔力を消費して、疲れが取れない感じだからさ…」
陽葵とそんな会話をしていたら、王宮騎士団の騎士と宮廷魔術師が食堂に入ってきたので、嫌な予感がして眉をひそめていると、血相を変えて騎士が俺に声をかけてきた。
「キョウスケ殿、ヒマリ殿。緊急事態でございます。ローラン国王が、オーフェンに貴殿を出迎えに来るそうです。」
俺は、びっくりして、サラダを食べていたフォークを落としてしまうし、陽葵も、驚きのあまり、ポカンと口を開けたままだ。
「え?。わたくし達のような卑民に、そのようなお出迎えなど、恐縮すぎますよ!!。わたくしどもは、今から、急いでメリッサに向かいますから、国王は、なにとぞ、私たちを待って頂くよう…。」
俺が慌ててそう伝えると、宮廷魔術師は急いで魔道通話を繋いで、周りに聞こえないように遮蔽の術式を使いながら、その旨を伝えていたが、それを終えると俺と陽葵に声をかけた。
「キョウスケ殿、ヒマリ殿、王はすでに出立しています。その旨は王に伝わっていますが、王は、それでは、救国の英雄に対して国王の面目が立たぬと、王妃までもが、王に同意して同伴しているのです。」
宮廷魔術師から説明を聞いた、俺と陽葵は、驚きのあまり腰を抜かす。
『これでは朝食どころではない…』
「騎士殿、それに宮廷魔術師殿、明け方にメリッサに向かっていれば、こんな事にはなりませんでしたが、魔力の消費が激しく、わたしも実のところ、思うように動けない状態ですから、情けなく思います。なんとお詫び申し上げれば…。」
俺が今の身体の現状を正直に話すと、宮廷魔術師は俺に向かって、大きくうなずいている。
「キョウスケ殿の魔力は、勇者パーティーの賢者様に匹敵するが、いまのところ、その半分も回復していないと見える。聞くところによると、アフロディーテさまのお力を借りて、大魔術を使ったようだから、仕方あるまい。それは、私も承知しているし、国王も王妃も承知しておるようだ…」
「魔術師殿、そういうことです。本来なら夕刻までに、半分ぐらいは回復させた後に、軍議に備えたかったのですが、これでは寝る間もなく、メリッサに向かわなければなりません。まして、陽葵は女神様を自らの身に降臨させたわけですから、こちらも万全ではなく…。」
俺はテレポーテーション後に泉の水を、半分ぐらいに抑えて飲んでいたから、少し余っているが、立て続けに飲み干すのは危険だから、できれば自然に魔力を回復させたかった。
それには理由がある。
魔力を急激に出し入れすると、体が順応せずに、体の中の魔力の受け皿に異常をきたして、魔力の保持が少なくなってしまう事もあるのだ。
魔道書の中で、戦役などで魔力を融通させながら激戦を制した魔道士が、それを繰り返すことによって、魔力の受け皿が少なくなってしまい、一線から退いた例が少なからずある。
だから、魔道士は極力、魔力を自然回復させるのが通常の手段であるのだ。
魔力を少しだけ回復させるポーションも存在するが、それの多飲も同じような理由で危険であるし、あの系統のポーションは味がマズくて、普通に飲めるような代物ではない。
騎士と宮廷魔術師は、お互いに顔を見合わせて、苦虫をかみつぶしたような顔をして、俺たちに声をかける言葉を探っているようだ。
少し間を置いてから、騎士が話しかけてきた。
「キョウスケ殿とヒマリ殿、貴殿達の状況はよく分かります。私もあのスケルトンと戦って、騎士団長の命令で撤退してきた身でありますから、激戦であったことは安易に想像ができます。おそらく王は貴殿達を出迎えて、メリッサに戻る手筈だろうと思っています。」
宮廷魔術師が続けて、俺に話しかける。
「キョウスケ殿もご存じかと思いますが、私たちの魔力を貴殿に融通させることもできます。ヒマリ殿も含めて、今ではローラン国の最後の砦であります。なにとぞ、そのあたりはご心配なく…。」
「魔術師殿。決戦を間近に控えて、魔術師は魔道弾の一つでも多く唱えなければいけない状態です。それは、なにとぞ、ご自重ください。明日になれば、わたしの魔力は、ほぼ回復しているでしょう。それよりも、1週間以内に、魔物がスタンピードして、メリッサに襲来するはずです。それに備えましょう。」
俺は魔術師に自分の状況を説明すると、魔術師も少しだけ安堵したような表情をしている。
「キョウスケ殿は、その大魔力を持ちながら、驚異的な回復力ですな…。なんと羨ましい…。」
「キョウスケ殿、ヒマリ殿。食事が終わったら、すぐに支度を調えて、遊撃自警団ギルドに来て頂きたい。そこで王を出迎える準備をしたいのです。」
「わかりました。すぐに食事を終えて、身支度を調えましょう。」
俺はラフな格好で朝食を食べていたので、鎧などは全く着ていないし、陽葵もそれは同様だ。
騎士と魔術師は、俺達に一礼すると、食堂を後にしたのだが、2人が去った後に、馴染みの店主が、俺たちに駆け寄ってくる。
「おぉ~~、お前ら夫婦は、やっぱり凄いよ!!。前から、王宮騎士団でも苦労しているような魔物もアッサリと倒していたけど、今回は凄いコトになったな…。これから国王の出迎えを受けるとは…。いやはや。お前ら夫婦は、随分と出世したなぁ…。」
店主がそう言うと、大きいステーキ肉を2つテーブルに置いたのを認めて、俺は怪訝な顔をして、それを制した。
「店主、この分の金は払うけどさ。もう、腹がきつくて食えないよ…。朝からステーキなんてキツイよ?。」
俺の抗議に、店主は両肩をポンと叩いて笑顔でこう言い放つ。
「救国の英雄に、粗末な料理なんか食べさせられるか!。それを食べて、早く栄養をつけて、魔力を回復させてくれ。そこの奥さんも、女神様を自分の身に降臨させているから、疲れているだろ?。ささっ、王様が来る前に、沢山食べてくれっ!!。」
俺と陽葵は顔を見合わせて、苦笑いしながら、豪華な朝食を急いで食べる事にしたのだ。