-メリッサにいる王たちと、魔道通話をつなぐ少し前-
俺と陽葵はオーフェンの近くにある、湖の湖畔にテレポーテーションすると、まずは魔物がいないか、あたりを見回った。
「やれやれ、あの術式がなかったら、いまごろは湖の真ん中にドボンだった…。まったく、神の奇跡は凄すぎるし、魔力の消費が激しい…。」
テレポテーション後に魔力を瞬時に使いすぎて立てないぐらいクラクラだったので、泉の水を飲んで魔力を回復させる。
陽葵は、目をぱちくりさせながら、今の状況を把握するのに精一杯な様子だ。
「あなた、ここは間違いなく、オーフェンの近くの湖だわ。ここは、2人で最初にギルドの依頼を終えた後に、メリッサに戻る途中、お互いが大好きなあまりに、激しいキスをしたところよね♡」
「完全なテレポーテーションだから、魔族のように転送先に魔法陣を描かなくても、術者のイメージした場所に飛ばせるけど、これが、なかなか難しくてね…。」
「それで、あなたは、わたしと激しいキスをしたところを選んだのね♡」
陽葵は俺の頬に軽くキスをして右腕を抱き寄せて、しばらく俺の身体が安定して、歩けるようになるまでしばらく休んだ。
そして、少し動けるようになってから、オーフェンの街に向かった。
「フフッ、だって、どんなに早い馬でも、ドラゴンの谷から、ここまで5日間はかかるわ。一瞬で、ここまで来たのよ。凄すぎるわ…」
「これは日常茶飯事に使えるような術じゃないよ。もうクラクラだから、実のところ、身体があまり動けないぐらいに魔力を消費している…」
やっとの思いで陽葵と一緒に歩いて、日が落ちて街に明かりが灯りだした頃に、オーフェンの街につくと、街の入口には、多くの兵士が詰めていた。
門にある見張り台で、顔なじみの遊撃自警団の1人から声をかけられた。
「キョウスケさん、ヒマリさん!!!。もう帰ってきたの???。マジか???。マジか?。俺は夢でも見ているのか?。何か起こった?。これも女神様の奇跡か???」
その言葉に、魔物の襲撃に備えている兵士達が騒ぎ始めている。
「すまぬ、その恭介と陽葵だ。女神アフロディーテさまのお力があって、ドラゴンの谷から、ここまで連れてきて頂いた。すまぬが、今日はここで一泊して、明日の夕刻にはメリッサに戻りたい。まずは、エリオンさんに会わせてくれ。」
それを聞いていた、王宮騎士団の1人に俺たちは声をかけられた。
「キョウスケ殿、ヒマリ殿。ドラゴンの件は無事に解決できたのでしょうか?。魔族らと共に、魔族に操られたドラゴンに襲われたら、国は一瞬にして終わってしまうから心配で…。」
「騎士殿。ドラゴンの危機はアフロディーテさまのお力で回避できています。まずは、エリオンさんと、騎士団や宮廷魔術師の方々を集めて話をしましょう。魔王軍襲撃で、この町も余波を受けるだろうから、万全の体制が整っているのが分かります。しかし、ここで具体的なことを話しても兵士が動揺するばかりです。」
騎士は俺の言葉にうなずくと、すぐに幾人かの騎士と宮廷魔術師を連れて、俺や陽葵と一緒に、遊撃自警団ギルドに入った。
すぐさま、エリオンさんが来て、ギルド長室で騎士や宮廷魔術師を交えて、キングオークやスケルトンを倒した話や、女神アフロディーテさまのお力を借りてドラゴンの呪いを解いたり、裏にはタチの悪い魔族がいて、どうもヴァルカン帝国と繋がっている気配がある話もする。
陽葵も、俺の話に補足を入れたり、アフロディーテさまのお陰で、俺達が治癒魔術を使えるようになった話なども交えて、とりあえずギルドと国に対して報告をあげた形を作ったのだ。
その報告が終わると、俺は、慎重に言葉を選びながら、宮廷魔術師にお願いをした。
「魔術師殿、申し訳ございませんが、ここから先の話は、神の使いであるドラゴンや、女神様のご神託に関わることなので、ローラン国王と魔道通話にて直接、お話がしたいのです。ここで事前にお話をしても、国王のご決断が必要になるような、とても重要なお話ですから、無理を承知でお願いできないしょうか?。」
俺のお願いを聞いたリーダー格の王宮騎士団の1人が、目を閉じて決断をする。
「すぐに王に魔道通話をお繋ぎしろ。緊急事態であると判断する。この2人は女神様や、この国の守り神のドラゴンからご神託を賜っている。相当に深刻な話に違いない。」
魔術師が魔道通話の術式を展開して、しばらくすると、どうやら、メリッサのギルド長室で軍議でも開いているような会話が聞こえてきた。
そして、国王のそばにいた魔術師が、王に声をかけると、王が俺に呼びかけてくる。
「キョウスケ殿、なにがあったのじゃ?」
「単刀直入に申し上げます。この国の守り神である、ドラゴンは女神アフロディーテさまのお力で、魔性の呪いから解放されたので、皆様は安心して下さい。しかし、守り神であるドラゴンより神託を賜りました。」
「なんと!!!。」
「メリッサに襲撃する魔物は、私たちの予想を遙かに超えていて、数万の規模です。それで、形勢が不利になった場合、守り神のドラゴンが加勢に来てくれるようです。しかし、それぐらい事態が深刻であります。」
俺の報告に、メリッサのギルドにいる面々や、オーフェンのギルドの面々も含めて、ざわめきが起こっている。
「数万!!。なんと…数万!!」
国王も言葉を失っているのがすぐに分かるぐらい、動揺をしているようだ。
「ドラゴンは、我が国の東にある、魔物の巣の動向を神術によって探っていて、その方向から、とんでもない数の魔物の声が聞こえるとのことです。それは、間違いありません。」
俺の報告を聞いて、王は椅子から立ち上がる音が聞こえて、語気を強くして、言葉を発した。
「これは、我が国の危機であるが、我々には、女神アフロディーテさまと、この国の守り神のドラゴンがついておる!!。ここで魔王軍に負けるわけにはいかぬ。隣国のアルラン帝国の王に魔道通話を繋げ!!。アルラン王も、あの件があるから動くだろう。」
そして、王が隣国のアルラン帝国の王と、魔道通話で話をしている間に、俺は勇者トリスタンさまに声をかけられる。
「キョウスケ殿、ヒマリ殿、明日の夕刻までには、メリッサに戻られるのであるか?。魔王軍が襲撃するまで時間がないが、特にキョウスケ殿は、かなり疲れた声をしているから、今日はゆっくり休まれよ。シエラもそうだが、相当に魔力を使っていると思われる。」
「トリスタンさま、お察しが早くて助かります。ドラゴンの呪いを解くために相当、力を使ってしまいましたし、女神様のお力を剣に宿す神術を少しばかり授かりました。朝までゆっくり寝て魔力を回復させて下さい。それよりも、陽葵が切り札です。女神様より治癒や、あの時にネクロマンサーを倒したお力も少し授かりました。」
「なんと!!。あの神気があれば、普通の魔物であれば一瞬で2万は倒せそうだ。」
「そこまで強い力を使うと、陽葵の体が崩壊してしまいます。あれは私の魔力を注入しながら、女神様が陽葵を崩壊させないように、人の言葉とは思えぬ神言によって発動させた結果です。無闇に使うことは控えましょう。形勢が不利になった場合の切り札かと。」
「キョウスケ殿、わかった。明日の夕刻に、軍議があるから、それまでに2人はメリッサに来てくれ。それだけ大魔力を使えば、キョウスケ殿は立っているだけで精一杯だろう…。今日はゆっくり休んでくれ。」
そこで、軍議は散開になって、俺たちもようやく解放されて、オーフェンの中心にある宿屋に行くと、 部屋に荷物を置いて、夕飯を宿屋のそばにある店で済ませた。
そのあと、宿に戻って、俺と陽葵は、一緒にシャワーをあびると、部屋の明かりを消して2人で下着姿のまま、抱き合ってベッドに入る。
陽葵は俺と軽く抱き合いながら、イチャイチャしていたが、俺の顔をジッと見ると、陽葵は軽くキスをして強く抱きしめてきた。
「あなた♡。もう、ズッと我慢していたの♡。わたしを滅茶苦茶にして♡。大好き♡。愛してる♡」
その夜、2人はどうなったのかは、皆さんのご想像にお任せしたい…。