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第17話:魔王軍の襲撃に備えて。-前編-

 ドラゴンは、俺と会話を終えると、高度な収納魔法を使って、ポンと俺たちの目の前に2つのアイテムを置く。


「これは、いまの人々が「古代魔法時代」と呼んでいる、少しだけ古い時代の品だ。我を悶えさせた上に、呪いを解いてくれた礼に授けよう。」


 見ると、相当に魔力が籠もった小さい魔法の杖に、かなりの魔力と神気が入った女性の下着がある。


「これはアフロディーテさまの配慮もあってな、1つは恭介が大魔術を使うときに、消費魔力を激減させる杖だ。そして、ヒマリにはアフロディーテさまの召喚した神気を増幅させるための下着を授けよう。」


 俺達はこれを受け取ると、陽葵はとても戸惑っていた。


「これは…今すぐに下着を着替えるべきなの?。あなたに、着替えを見られるのは構わないけど、相当に古そうな下着だし、汚れていて洗濯も必要だわ…。」


 陽葵が戸惑っていると、ドラゴンが声をかけた。

「洗濯なら泉でできるぞ。そんなの、水につけなくとも良い。近づけるだけで、その魔力と神気で瞬時に綺麗になるぞ。」


 その言葉に陽葵は、泉に駆け寄ると、下着を泉の水に触れずに近づけてみた。埃を被って汚れていた下着が、みるみるうちに綺麗になるのを見てびっくりした。


「うわぁ~~、これは凄いわ!!。さすがは女神のお力がある泉よね。汚れも落ちたけど、匂いも全くないわ!!。」


「この泉は、我の体を洗うときにも役に立っておる。すぐに体が綺麗になるからな。ささ、我の体の影に隠れて着替えるのだ。そなたの夫が欲情したら、それこそ、ふたたび悶えてしまうからな…。」


 陽葵は急いで下着を着替えると、俺の元に駆け寄った。


「あなた、テレポテーションでメリッサの街に瞬時に移動するの?。そのテレポーテーションって魔族が数千の魔物を使って、街に襲撃させるときの術式と同じなの?。アフロディーテ様から凄すぎる魔法を教わったわよね…。だって、ここはカーズの街から近いのよ?」


「陽葵、魔族が使うテレポーテーションとは違うけど、瞬間移動には変わらない。あと、このテレポーテーションは極秘にしたいから、王であろうと誰にも教えたくない。だから、メリッサとオーフェンの街を繋ぐ街道にある、湖の湖畔にテレポーテーションをするよ。」


「あっ、そうか、あそこなら、魔物がいるから誰も近寄らないわ。そうすると、今夜はメリッサじゃなくて、オーフェンに泊まるの?。メリッサまで歩いて行こうとすると、夜になってしまうわ。」


「陽葵、そういうことだ。それに、この杖を使ったとしても、相当に魔力を消費するから、立っていられるぐらいの力しか残ってないと思う。それに、術式を間違えたら、建物の壁の中にテレポーテーションして即死とか、空から落ちて落下死するパターンもあるから、それも避ける術式を使うしかないから余計に魔力を使うんだよ。」


 そんな会話をしていたら、ドラゴンに再び話しかけられた。


「人間よ、その泉の水を、一口だけ持っていけ。テレポーテーションに相当な魔力を使うのは、我も分かるからな。その杖の力を使っても、そなたでは全ての魔力を使い果たしてしまうだろう。」


 ドラゴンにお礼を言うと、手で泉の水をすくって水袋に入れた。

「さて、そろそろ、向かうとしますか…。」


 俺は、女神アフロディーテさまから教えられた複雑な術式を展開すると、テレポーテーションの準備に取りかかった。


 その時にドラゴンに声をかけられた。


「2人よ、魔族どもは、全力で、そなた達の街を襲うだろう。不利になったら、我も手伝うとしよう。魔物の数は、お前達が予想をしている数千の規模ではないぞ。我は耳が良いからな。あの遠くの山から聞こえてくる魔物の数は数万の声だ。久しぶりだ、そんな数の魔物の声なんて。」


 俺はそれを聞いて腰を抜かした…。


 ◇


 一方で、勇者トリスタンやローラン国王は、女神アフロディーテの神託を受けて、メリッサを魔物から防衛すべく、即座に動いていた。


 トリスタンがローラン城に戻ると、ローラン国王の命令で、城からメリッサまで流れる川に多数の船を浮かべて、川を使って兵士をメリッサに投入する作戦を実行していた。


 トリスタンたちは船に乗り込んで、川の魔物を撃退しながらメリッサを目指す。

 行きとは違って川を上ることになるが、流れは急でない為に、夜にはメリッサに着けるであろう。


 メリッサとローラン城の陸路では、草原の周辺にある村や小さな街にいる住民をローラン城に避難させて、被害を最小限度に食い止める措置がとられることになった。


 川沿いに堀と堤防を築く工事がすでに始まっている。

 城内にいた兵士を幾つかの船に乗せて、ある一定の距離で川岸に兵士を降ろすと、周辺の人民や遊撃自警団ギルドなども加わって、急ピッチで堀の工事が進められていた。


 メリッサの街でも、遊撃自警団ギルド長のセシルが中心になって、恭介がカーズの街でやっていたように、メリッサの周辺に魔道士や、あらゆる人員を駆使して街の防衛に関して陣頭指揮を取っている。


 セシルは女神の神託を聞いて、腰を抜かすほどに吃驚したが、確実にメリッサに魔物が襲撃することが判明したし、恭介や陽葵たちに女神の加護があると考えたら、心強さも感じていた。


 その人の夜になって、メリッサの街に、ローラン国王やトリスタンたちが到着すると、セシルは街の入口まで王を迎える。


 セシルは王の姿を見ると、すぐさま声をかけた。


「王よ、よくぞ、この町にお越し下さいました。メリッサは女神様のご神託の通り、滅亡の危機に面しております。」


「セシル、朕も分かっておるぞ。これはメリッサだけではなく、我が国の危機だ。それを女神アフロディーテさまが、お助け下さるのだから、なんという奇跡であろう。」


 ローラン国王やトリスタン、そして王国騎士団や宮廷魔術師たちが遊撃自警団のギルドに入って、すぐに軍議がひられた。


 その軍議の最中に、宮廷魔術師の1人が、ローラン国王のそばでひざまづいて、驚いたような声で王に声をかける。


「王よ、失礼いたします。勇者別働隊のキョウスケ殿とヒマリ殿より、魔道通話が繋がっております。かっ、か…、彼らは…」


 王は、魔術師が相当に動揺しているのを見て、なだめた。

「少し落ち着くのだ。この緊急事態だ。何が起きてもおかしくはない。構わず言いたまえ。」


「しっ、失礼しました。彼らは…、もう、オーフェンの街にいます!!!」


 軍議に参加していた全員が腰を抜かして驚きを露わにしたし、ローラン国王も驚きのあまり、その場で固まっている。


「なんということだ!!。2人は、どんな神の奇跡を使ったのだ?。あのドラゴンがいるカーズの街からこのメリッサまで早馬でも5日間はかかるぞ!!。はやく繋げ、2人と話がしたい。」


 宮廷魔術師が急いで魔道通話の術式を展開した…。


 勇者トリスタンは思わず独り言を放つ。


「キョウスケ殿とヒマリ殿は、女神アフロディーテさまから、ご神託やお力を授かったのだろう。そんなに早く移動できるのは、神の奇跡としか思えぬ。なんということだ…。」


 その独り言に、賢者シエラが加わった。


「おそらく、アフロディーテ様がキョウスケ殿やヒマリ殿にテレポーテーションを使ったのでしょう。魔族が時間をかけて魔法陣を移動先に描いて準備をするような代物ではなく、術者がイメージしたところに瞬時に移動できる、神のみぞ知る術でしょう。私も師匠も、ケビン導師も術式が分かったとしても、絶対に唱えることなんて無理です。」


 王が賢者シエラの話を聞いて目を見開いたいる。

「では、アフロディーテ様がキョウスケにそれを授けたと?」


「いえ、王よ、それはないでしょう。キョウスケ殿は人間として、かなりの魔力を持っていますが、テレポーテーションは相当な魔力を使うので、1人で行うことなど到底できません。魔族などは、あの瞬間移動のために、大量の仲間を生贄にして魔力を供給するほどですから。」


「女神様は偉大だ…。2人を瞬時に送り届けて頂けたのは、とてもありがたい限りだ…」


 ローラン王は、両手を組んで、女神アフロディーテに祈りを捧げたのである。

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