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第15話:女神が流した涙は愛の涙。

 俺がドラゴンの尻尾の近くにある小さな泉に行くと、頭がクラクラするぐらいの強い魔力を感じて、よく見ると、泉の脇ある岩の小さな割れ目から水が湧いて泉に流れているのが見える。


 その岩から、とんでもない魔力を感じて身震いがした。


 その岩自体が宇宙のような、うち震えるぐらいの強い魔力と神力を感じていると、ドラゴンが俺の精神に、再び語りかけてくる。


「この泉は、女神の涙と呼ばれている。天地創造の時に邪神と戦った神が討たれて死んだ。その討たれた神の妻が流した涙が未だに滴り落ちているのだ。我はそれを人間や魔族に悪用されないように神に命じられて守っておる。」


「だから、女神アフロディーテさまが、貴殿をここに住まわせて守っておられるのでしょうね?」


「そういうことだ。我はアフロディーテさまに、この泉を守るように命じられている。」


 俺はドラゴンとの会話をしながら、泉に手を入れて水をすくって一口だけ飲むと、頭がクラッとして魔力が瞬時に回復するのが分かった。


 そして、空になっていた水袋を取りだして、水を手ですくって入れていると、再びドラゴンが精神に話しかけてくる。


「それでいい。人間は欲をかくとロクなことにならぬからな。なるほど、おぬし達がアフロディーテさまから気に入られるわけだ…。」


 その水袋を持つと、ドラゴンの目の前に立っていた陽葵に駆け寄ると、その表情が神々しい感じではなく、可憐で可愛い陽葵そのものだったので俺は喜びを露わにして、陽葵をシッカリと抱きしめた。


 陽葵は俺を見て涙を浮かべている。

「あなたっ!!。やっと帰ってこられたわ。もう、そのまま天上界に住み続けなければいけないと覚悟していたのよ!!。」


 陽葵からも強く抱きしめ返されたけど、このまま愛してしまう前に、やらなければいけない事がある。


「陽葵、嬉しいのはよく分かったし、俺もそのまま抱きしめて激しく愛してしまいたい。でも、喜ぶのはドラゴンの呪いを解いてからだよ。」


 そう言うと、陽葵は少しだけ残念そうにしたが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。


「分かっているわ。天上界でアフロディーテさまやアポロンさまとお話をしていたの。あなたの様子もよく見ていたわ。これから、あなたのトンチで、このドラゴンを倒して呪いを解除するのよね?。」


 それに答える前に、俺は水袋を陽葵に差し出すと、それを不思議そうに見ている。

「陽葵、とりあえずこれを飲んでくれ。作戦を説明するのはその後だ。魔力が切れかかっているのがよく分かるから。」


 陽葵は俺の勧められるままに、それを飲むと、倒れかかるように俺に寄りかかってきた。

「つっ、強すぎるわ…。これが女神の涙なのね。人が飲んではいけない水だわ。」


 俺は陽葵を抱き寄せて支えながら、ドラゴンを人の力によって横倒しにする作戦を説明する。


「ドラゴンよ、少しだけ氷の寒さに耐えて欲しい。氷漬けにして転がりやすくする。その後に魔術によって横倒れになるように強い力をかけるから、それに耐えてくれぬか?」


「それぐらいお安い御用だ。我が油断して受けた神罰だと思えば、多少の寒さやと痛さには耐えられる。それで、おぬし達を怒ったり恨むことはない。安心してくれ。ただ、我は重いから倒すには相当な力が必要だぞ?」


 そのドラゴンの言葉に、陽葵が一歩前に進んで悪戯っぽく笑いながら言った。


「ドラゴンさん。夫の魔術で倒されたら痛いでしょうから、わたしがアフロディーテさまの力を使って横に倒すわ。それなら体は痛くないはずよ。」


 俺は陽葵の言葉に驚いた。

「陽葵、どうやって強い神気を繰り出して、ドラゴンを横に倒すだけの力を得るんだ?。俺は少しばかり疑問に思っているぞ。」


 陽葵は悪戯っぽい表情を浮かべながら俺を抱き寄せて、右手の人差し指で俺の頬をツンと軽く突いた。


「あなた♡。わたしは天上界でアフロディーテさまから、ネクロマンサーを倒したあの神気の出し方を教わったのよ。わたしの力でだけではドラゴンを押し倒せないけど、あなたの魔力を融通してアフロディーテさまの神気も借りれば、なんとか横倒しにできるなんて、アフロディーテさまが言っていたのよ。」


「神様は怖いね。なんでもお見通しだ…」


 それを聞いたドラゴンの声が俺たち2人の精神に響いた。

「さすがはアフロディーテさま。全てお見通しだったか…。」


 そして陽葵をよく見ると、恥じらうように俺に言う。

「でもね♡、その力を使うのには、もの凄く大胆にならないと力を起こせないわ♡。」


「まっ、まさか…、陽葵を押し倒すまで???」


 陽葵はそれを聞いて顔を真っ赤にした。


「いっ、いや、そこまでやってしまったら、アフロディーテさまが完全に降りてしまうし、わたしはこの世にいられないわ。それにさっきの降臨は、魔族が人の魂を軽んじるやり方にアフロディーテさまが怒っていたから、強制的にわたしの身体に降りたのよ。」


「でっ、では…、そこまいかなくて、その一歩手前ですか…。」


 俺は恥ずかしさのあまり、敬語で陽葵に話しかけている。


「そうよ。…それにね…。あなたに激しく抱かれるとき、わたしは絶対に女神を降臨させないように、一切の精神と魔力を断ち切るのよ。その時に降臨させない方法もアフロディーテさまから詳しく教わったわ♡」


 陽葵は顔を赤らめて、体をよじらせながら俺にもたれかかるように体を寄せたが、ふと、ドラゴンを見ると、ほんのりと赤みを帯びているように見えたが、それは気のせいだろうか…。


『ドラゴンの目の前とはいえ、これはマジに恥ずかしいなぁ…。』

 俺は羞恥をこらえながら、大好きな陽葵ちゃんへの愛を前面に出すことにした。

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