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第12話:勇者トリスタンはローラン城へ。

 恭介と陽葵が魔族に操られたスケルトンを女神アフロディーテ様の力で倒す前…。

 勇者トリスタン達はメリッサの街から川を下ってローラン城に向かっている。


 船の上で大きな魚系の魔物が跳ねたところを賢者シエラが氷魔法で氷漬けにした。

「これで8匹目よ。魚を山積みにすると面倒だから、あと2匹ぐらいで止めておこうかしら。」


 賢者シエラの言葉に、船長が舵をとりながら振り向いて、船の状態を確認しながら慎重に答える。

「賢者様、あと4匹ぐらいは大丈夫だな。それ以上は船が沈んだり舵が取れなくなる。」


 賢者シエラは魔法を発動するのをやめて、少しだけ微笑むと、両腕を組んで、あたりの様子を見わたす。


「船長、OKよ。もう、凍らせることはないわ。この魚の影響で、この川は、船の往来ができないことがよく分かったわよ。この川下りはすごく楽で早いし、川幅も大きいから、大きい船も楽に入れるのに…。」


 船長が舵を握りながら勇者トリスタンのほうを向いて声をかけた。


「勇者殿、これでも自警団のキョウスケとヒマリが相当な数の魔物を減らしたから船が動きやすいよ。思ったよりも早く着くと思うよ。」


 勇者トリスタンは船長に向かってうなずくと、彼が言葉を発する前に、シエラが少しだけ考えて船長に口を開いて問いかける。


「船長ぉ~、キョウスケ殿はあの魚を氷漬けにできなくなった後に、どんな魔法を使って倒していたの?」


「あ~、賢者様。キョウスケは風魔法でバラバラに切り裂いて下に沈めていたぞ。この川は魔物系の魚が釣れてしまうから、釣りをしたり川の水を使う人もいない。下手にこの川の水を引いてしまうと、水路に魔物が来て危ねぇから、誰もこの水を飲まないよ。」


 出航直後から川の水をジッと眺めていたイジスは、腕を組みながら船長に問いかけた。

「船長、この川の上流は、ローランの東の山にある魔物の巣と呼ばれている辺りが水源ですよね?。」


 そのイジスの問いに船長が答える。

「聖騎士様、よくご存じで。魔物の巣は国境を越えてヴァルカン帝国の領土にあるからローラン国は手を出せない。」


 それを聞いた勇者トリスタンは溜息をつくと、本音をポロリと吐き出した。


「ここだけの話だが、この世界の厄介ごとの大半はヴァルカン帝国が原因だ。私達はその尻尾を捕まえる使命も帯びている。各国が合従してヴァルカンの暴走を抑えているのが実情だが、いつかはあの王にお仕置きをしなければいけない。」


 その言葉を聞いて少しだけ船長が震えているのが分かる。


「あっ、あの…勇者様…。やっぱりヴァルカン帝国が魔王軍を密かに操っている疑惑ってマジっすか…?」


「船長、それは各国の王の共通認識になっている。私たち勇者や遊撃自警団を含めて認識は同じだ。ヴァルカン帝国には、勇者法も遊撃自警団の各国協定も通用しない。困ったことよ…。」


「メリッサがアルラン帝国の街が襲撃されたザマになるのは勘弁してくれ…。俺達はメリッサが守られるのなら、こんな川なんて力ずくでも下りますぜ。」


 船長の悲痛な叫びを聞いていたイジスが、勇者トリスタンに真剣な目差しで思いをぶつける。


「トリスタンさま、ヴァルカン帝国にしてみれば、アルランとローランは東の険しい山脈があって容易に攻められないから、魔物を使って嫌がらせをしているとしか思えないです。ここは意地でも奴らの陰謀を止めないと…。」


「イジスよ、その通りだ。だからこそ、我らはキョウスケ殿やヒマリ殿と手を組んで動いている。アルランの2つの街の惨状を思うと魔王軍やヴァルカン帝国が憎い。魔物が攻め入る時に戦術や戦略を用いながらの素早い行動を考えると、絶対に人間の知恵が入っている。」


 そんな事を話しているうちに、ローラン城が見えてきて、船長が驚嘆したような声を出した。


「いやぁ、思った以上に魔物が少ないとは…。勇者様のお力もあったけど、上流の川の流れも速かったら、もう着いてしまった…。」


 ちなみに、この川はローラン城のそばを流れる川と繋がっていて、船長は慎重に舵をとりながら、船着き場がある支流に向う。


 城周辺は騎士団が常に魔物を狩っているから、川の中も街道も、子供が安心して通れるぐらいに安全だ。


 ローラン城は城郭都市なので城壁で囲まれている中に街がある。


 その城壁の手前にある船着き場に船が着くと、勇者が来ると噂を聞きつけた街の人々や案内をする騎士団を含めて多くの人だかりができていた。


 勇者トリスタンたちは船を降りると、ローラン国王と会うために急いで城内へ向かった。


 ◇


 ローラン国王は謁見の間で勇者トリスタンとメリッサを魔王軍から防衛する作戦について話している。


「勇者トリスタンよ、遊撃自警団ギルド長のセシルより話は聞いている。メリッサの街が魔王軍により襲撃されることは我が国が独自に入手した情報からも可能性が高いようだ。あの川沿いに堀を作る計画も了承して早速、騎士団や兵なども駆使して動こう。」


 勇者トリスタンたちはローラン王の前でひざまずきながら、その言葉を聞いていた。


「ローラン王、かたじけない。北東の山麓にあるオーガキングの群れに関しては遊撃自警団ギルドが動いて討伐に向かっています。私たちはメドゥーサがいる沼へ向かいますゆえ、お力添えをお願いしたく。」


 ローラン王は静かにうなずくと、少しだけ笑顔になりつつも、トリスタンたちに問いかける。


「オーガキングの群れの討伐は、例のあの夫婦か?。あの夫婦は、そなたの別働隊としてパーティーに入ったと聞く。ははっ、あの山を吹っ飛ばした魔法剣士も、その妻で可憐な聖女も我が国では貴重な存在だ。いやはや…、あの夫婦を王宮に呼ぼうかと思ったら断られたのでガッカリしたが、そなたの所に入ったのなら我が国としては、この上ない名誉であるぞ。」


 トリスタンは、恭介や陽葵をローラン王が気にかけていたのを自分が横取りしたような形になってしまって、ローラン王の心証を悪くしないか、少しだけ冷や汗をかきながら、サラッと本題に入るべく、話を切り出した。


「恐縮です。あの2人がいれば、数千の魔物がメリッサに押し寄せても防げてしまう力があります。今回のオーガキングには、恐らくヴァルカン帝国の息がかかった魔族まがいのスケルトンがいるでしょう。厄介なことです。」


 それを聞いたローラン王は、スケルトンになった聖騎士の件で、とても怒りを露わにしている。


「勇者トリスタンよ。我が国の騎士団が、あのスケルトンに挑んで敗れて帰ってきた。あの聖女なら愛の女神のご加護で迷える聖騎士の魂を救えるだろう。そして、夫の魔法剣士であれば、呪われた魔剣が折れるかもしれぬ。しかし、死者の魂を天に帰さず、この世に無理矢理に踏みとどまらせるなど言語道断…。」


「ローラン王よ、私たちはアルラン帝国の悲劇を二度と起こさない為に、メドゥーサがいる沼に向かって魔王軍とヴァルカン帝国の悪巧みを止めたいと考えています。そして、最後に魔王軍はドラゴンの谷に行って悪巧みを働くでしょうから、それを阻止した後にメリッサに戻ってきます。」


 王は玉座から立ち上がって大きくうなずいた。


「勇者トリスタン、そして仲間達よ、あの夫婦も合わせて健闘を祈っている。我が国は、魔王軍と黒幕のヴァルカン帝国によって危機に面している。頼んだぞ。」


「御意。」


 勇者トリスタン、聖騎士イジス、賢者シエラが声を揃えて立ち上がると謁見の間を後にしたのだ。

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