俺と陽葵はオーガキングが大量にいる洞窟の近くまで行くと、陽葵が急に険しい表情をした。
「あなた、少しだけ瘴気を感じるわ。遠くから僅かに感じる瘴気だけど、近寄られたら人が飛ばされてしまうぐらい強そうよ。アフロディーテさまのお力を借りて剣に付与するわよ。」
「陽葵、難しい相談になるが、オーガキングはこの位置で遠距離で倒してしまおう。そこで、俺はかなり意識を集中してアフロディーテさまの魅了から抜けてみる。前にもやった事があるからな。そうしないと剣でスケルトンと戦えない。」
「あなた、分かったわ。ただ、この位置で倒すとなると、わたしはあなたを愛しすぎて手加減ができないわ♡。たしかに、前に女神様の魅了から逃れたことがあったわよね。あれは凄かったわ。」
「うん、あれはね、陽葵の愛を尊い存在へと気持ちを置き換えて、僧侶が悟りを開くような気持ちでいないと逃れられない。陽葵は俺が剣を折るまでの間、アフロディーテさまの力を維持していてくれ。剣を折った段階で聖騎士は女神様の元に帰る筈だ。」
俺は陽葵と熱いキスをしつつ心の中に広大な宇宙を描きながら魅了から耐える準備をする。
少しでも邪な気持ちで、陽葵を強く抱きしめて襲ってしまうなんて考えたら、アフロディーテ様に魅了されて、自分が動けなくなってしまうから終わりだ。
もしも、その状態でスケルトンが襲いかかってきたら、俺と陽葵は恥ずかしさを我慢しながら、アフロディーテ様の力による神気を際限なく放って、身を守るのが精一杯になる。
そうなったら愛の力比べになるが、陽葵の精神力と魔力が尽きてしまう可能性もあるから、とても危険だ。
俺は意識を集中して、陽葵はアフロディーテ様の一部を自分の身に降臨させるために、互いにしっかりと身体を抱き寄せた。
「あなた♡。いくわよ♡。アフロディーテさま、どうかお力添えを。そして迷える聖騎士の魂をお救い下さい。」
「陽葵…もう大好きだよ♡」
「わたしも大好き♡」
そして、互いに抱き合いながら、陽葵と俺は熱いディープキスをするが、俺はそんな熱いキスをしながらも欲情に耐えているから、今のところ俺はアフロディーテ様の魅了にかかっていない。
しかし、陽葵と熱いキスをしている途中で、かなりの違和感を覚えて、俺はとっさに離れた。
とてつもない神気を陽葵から感じて、あまりの神々しさから、自然と離れざるを得なかったのだ。
俺は普段とは雰囲気が違う陽葵に呆然としながらも、すぐさま愛する妻に向かって呼びかけた。
「陽葵!!どうしたんだ??。何があった???」
その心配になった言葉に陽葵が口を開いたが、声色が明らかに違うので、心底、何が起こったのか、心配になっている自分がいる。
「恭介よ!、わらわは女神アフロディーテ。少しばかり、そなたの妻を借りるぞ。聖騎士のことはすでに知っている。この女神アフロディーテが必ずや天に帰す。そなたは、その知力と剣技を持って、あの魔剣を折るのだ!!。魔族が人の魂を天に帰さず彷徨わせるなど、あってはならぬ!!。そなたの妻は聖騎士の魂が天に帰ったら必ずや返す。」
俺は吃驚して、すぐに陽葵の前にひざまずいた。
「あっ、アフロディーテさま、承知しました。不承の身ではありますが、力の限りを尽くします。」
陽葵…いや、アフロディーテさまは笑みを浮かべて俺に向かって再び話しかけたが、その放った言葉ですら強い神気を感じて、それが重く俺にのしかかるぐらい凄まじい。
その言葉に魔法がかかっているかのようだ。
アフロディーテ様は、右手をかざすと、まばゆいばかりの光の玉を上空に放つと、それがキングオークがいる方向へ飛んでいったのが見えた。
「ふふっ、そなたのことは依り代を通じて見ていたぞ。この女神アフロディーテがいるのだ、キングオークは全て消滅させた。しかし、この距離ではスケルトンが持つ魔剣も少しだけしか威力を抑えられぬ。もうじきに来るから剣を構えよ!。」
俺は剣を鞘から抜くと、今までに感じた事がないぐらいの神気が剣に流れるのが分かった。
そして、俺自身もアフロディーテさまの温かい神気に覆われているのを感じた。
陽葵…、いや、アフロディーテさまは俺の横に立って言葉をかけられた。
「そなたが剣を折る企ては、鍛冶の神ヘパイストスに尋ねて知っておる。ふふっ、しかし、よく考えたものだ。時間が掛かるのも承知している。そなたが不利になったら、わらわも力を貸そう。残念だが、この依り代では、あのスケルトンまでは簡単に倒せぬし、倒すまで力を使えば依り代が消滅してしまう。」
「アフロディーテさま、恐縮であります。私の妻を失いたくありませんので、どうか、お慈悲を。」
その言葉と同時に手に魔剣を持ったスケルトンがやってきたが、女神の神気によってスケルトンが気圧されたのか、大きな隙ができている。
俺は、その隙に、アフロディーテ様の神気が帯びた剣をスケルトンが持った魔剣に力いっぱい当てると、瞬時にスケルトンが持っている魔剣の瘴気が離散するのが分かった。
それを見て俺は自分の剣に断熱魔法をかけると、次は瘴気が消えた魔剣に強い熱魔法を使う。
魔剣が真っ赤に熱せられて、顔に熱気を感じた。
「なんだ?その力は!!。貴様に女神がついているなど聞いていないぞ!。しかし、剣に熱魔法など無駄だ。」
このスケルトンは魔族の魔力によって言葉を出せるらしい。
しかし、俺は、スケルトンには何も言わず、魔剣に向かって今度は氷魔法をかけると、剣から水蒸気があがった。
俺は、スケルトンと魔剣を交えるたびに熱魔法と氷魔法を剣をできるだけ、同じ場所を狙って、交互にかけ続けている。
しして、スケルトンが瘴気を剣に蓄えだすと、アフロディーテさまがそれを振り払う。
それが、嫌になるほど何度も繰り返された時だ-。
ピッキッン!!!!
魔剣に僅かなヒビが入る金属音が聞こえたので、俺はその瞬間を見逃さないように最新の注意をはらう。
「女神アフロディーテのご加護を!!」
パキン!!!!
魔剣にヒビが入った箇所を狙って、俺はソードブレイカーに引っかけると、剣をへし折って魔剣の呪いを解くことができた。
その瞬間、陽葵…いや、アフロディーテさまは、微笑みながらスケルトンを見みて言葉をかける。
「魔族に囚われた迷える騎士よ。わらわと一緒に天に帰るぞ。そなたが魔族に抵抗して頑張っていたのは見ていたぞ。天に召されたら神々がその魂を癒やすであろう。」
その女神の言葉にスケルトンから涙が流れたのが見えた。骨だけのスケルトンに、そんな事はあり得ないのだが…。
魔族に操られて、無理矢理に骸骨に憑依をさせられていた聖騎士は、女神アフロディーテ様の力によって、徐々に理性を取り戻していたように見えて、そのスケルトンから弱々しい言葉が聞こえた。
しかし、その声は、先ほどの声とは全く声色が違う。
「こっ、これはアフロディーテさま…。なんという女神のお導き。そして剣を折って私の呪いを解いた魔法戦士にも感謝をしたい…」
アフロディーテ様はその言葉にうなずくと、右手をかざした。
そして、淡い桃色の光が溢れるようにスルトンの周りを包んで、ひときわ強く光った瞬間にスケルトンは光と共に消えていく…。
横にいたアフロディーテさまが、微笑みながら俺に話しかける。
「恭介よ。ヘパイストスがわらわに言っていた。鉄を激しく熱して、急激に冷ますのを繰り返せば、自然と割れてしまうことがあると。そなたの知恵の勝利だ。」
俺はすぐさまアフロディーテさまの目の前でひざまずいたが、何も言えずに黙って頭を垂れるだけだった。
『それをヒートチェックと言うが、女神様に