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第10話:オーガキングとスケルトンの討伐作戦会議。

 俺と陽葵がオーフェンの中心にある遊撃自警団ギルドに入ると、受付がすぐに気付いて、ギルド長がいる部屋に案内された。


 オーフェンのギルド長のエリオンさんは、困った顔をしながら俺たち夫婦を部屋に迎え入れた。

「2人とも、よく来てくれた。少し疲れているだろうが、すぐに話を聞きたいので、そこの椅子に座ってくれ。」


 エリオンさんは、俺たちを椅子に座らせると、テーブルの向かい側に座って、話を切り出す。


「メリッサのセシルさんから概要は聞いていると思うけど、湖を過ぎて少し歩いたところにある洞窟に、オーガキングが20体もいてね。どうやら王宮騎士団の情報によると、魔王軍の幹部の息が掛かった魔族が、そのオーガキングを率いているらしい。」


 俺はエリオンさんの情報にうなずくと、過去に俺と陽葵が体験した事例を打ち明けた。


「エリオンさん。カーズの街の周辺で、キメラが大量発生した時と状況が似ています。うちの陽葵と一緒にキメラを一網打尽にした時に、剣で切っても魔法を使っても効かないスケルトンがいましてね…。ソイツがキメラを率いていた大ボスでしたが、邪神の神気があって、聖剣みたいなの神器かアフロディーテ様のご加護でしかダメージが入らなくて、とても辛かったですよ。」


 その話を聞いたエリオンさんが、頭を抱えだして口を開く。


「そうなんだよ!。きみたち夫婦は、カーズでそれを倒したと聞いて、白羽の矢を立てたのだが、本来は勇者が出てこないと無理な仕事だよね?。今回は魔王軍に倒された聖騎士の霊を、無理矢理にスケルトンに降ろした挙げ句に、その聖騎士に魔剣を持たせたんだ。さらに、その剣を折らないと聖騎士の霊が天に帰れない細工があってな…。」


 エリオンさんの話を聞いた陽葵が、とても珍しく激怒している。


「なんててことを!!。人は死んだらその魂は神様のもとに帰って慈悲を受けるのに、それを無理矢理に魔王軍のネクロマンサーが利用してるのね!!。絶対に許してなるものですか!!!」


 俺はそれを見て、陽葵の怒りを少し静めようとしたが、エリオンさんのほうが先に口を開いて、陽葵の怒りを静めようとした。


「い、いや、ヒマリさんは聖女様だから怒りは当然だけどね。個人的な想いとして、迷える聖騎士を女神様の元へ帰してあげたいです。それに、勇者様だとヒマリさんとは違って、女神様たちのご加護がないままに、迷える聖騎士が天に向かいそうで…。」


 エリオンさんの言葉を聞いて、陽葵はハッと我に返ったように、怒りを静める。


「あなた、どうしよう…。その迷える聖騎士を女神様の元へ送り届けたいわ。今はあなたの知恵が必要なのよ。」


 俺は腕を組んで、剣が折れそうな作戦を考えているが、まだ妙案が浮かばないので、とりあえず状況を整理することにした。


「まずは、なんとか魔剣を折る術を考えなくてはいけません。私が持っている得物は、古代魔術王国の遺跡から発掘された代物ですが、根元に1山だけソードブレーカーがある魔法剣なのです。剣のつかのつなぎ目に、特殊なミスリルが仕込まれていて、神気も吸い込むのです。」


 それを聞いたエリオンさんが少し顔を緩めているが、楽観視するのは、まだ早い。


「そうすると、ヒマリさんがアフロディーテさまのご加護で、キョウスケさんの剣に神気を宿らせてソードブレイクをするのですか?」


「うーん、そう上手くはいかないと思います。魔王軍のネクロマンサーはタチが悪いと思うので、私の剣に、陽葵が力を使って神気を付与したぐらいで、簡単に折れるような魔剣ではないでしょう。その魔剣は、勇者様が持っている聖剣の真逆みたいなイメージでしょうから…。」


 エリオンさんは、安易には剣が折れない話を聞いて、ハッと思い出したように、俺たちに情報提供をした。


「王国騎士団にいる騎士の部隊長が、そのスケルトンに挑んだけど、あっさりと負けて撤退したらしいぞ。そのスケルトンに乗りうつっている聖騎士の剣技もさることながら、魔剣の威力が凄すぎて、剣を合わせただけでも瘴気が凄いらしいよ。」


 そんなエリオンサンの情報を聞いているうちに、剣を折るための作戦がふと、俺の中で浮かんできた。


「剣を折って、陽葵がアフロディーテさまを降臨すれば、聖騎士の霊は女神様によって天に帰りますし、オーガキングも女神様のお力で消滅するでしょう。作戦を思いつきましたので、やってみましょうか…。」


 エリオンさんとの打ち合わせが終わると、お昼が近かったので、一緒に食事をしながら、トリスタンさまの動向なども含めて、詳細な情報を流すと、早々にスケルトン討伐に出掛けることにした。


 エリオンさんは街の外れまで、俺たちを見送った。

「キョウスケさん、ヒマリさん、討伐の成功を祈っています。夕方か夜には良い情報を期待してます…」


 俺は、見送りにきたエリオンさんに少しだけ複雑そうな顔をして、万が一のことを考えて、細かい話を伝える。


「エリオンさん。もしも駄目だった場合、すぐにセシルさんに連絡をお願いします。先ほどのトリスタンさまの件も連動しているから、難しい話に発展するので…。」


「分かった。今回のスケルトン討伐は、相当に難しい依頼だと分かっているからさ。キョウスケとヒマリの力でカーズの街を救ったように、この町も救って欲しいのだ。」


「分かりました。微力を尽くしましょう。」


 そうして、俺と陽葵はオーフェンの街を出て、魔王軍が召喚したタチの悪いスケルトンとオーガキングがいる洞窟へと向かう。


 少し洞窟に近づいたところで、陽葵が不思議そうな顔をして俺に問いかけた。

「あなた、そろそろ具体的な作戦が聞いたいわよ。」


「うーん、魔剣と言っても所詮は鉄だからねぇ。それに着眼した作戦なんだ。陽葵はスケルトンが出てきそうな瘴気を感じたら、俺の剣にアフロディーテさまの力を付与してくれ。これは剣を折るためではなく、剣に帯びている瘴気を振り払うものだけどね…。」


「あなた、それは分かったわ。そろそろ、わたしも、オーガキングやスケルトンがいないか、少しだけ集中しようとしていたところよ。今のところ、少しだけ周辺にいる魔物が強くなっている程度で、普通だわ…。」


 しばらく歩いて、山の麓にさしかかって道が少しだけ開けた場所で、俺は足を止めた。


「陽葵さぁ、ここで5分程度、準備をさせてくれないか。スケルトンの魔剣を折るために、俺の剣に特別な術式を入れたいのさ。」


 俺は剣に『断熱』の魔法の術式を入れているのを見た陽葵が、もの凄く、不思議そうな顔をしている。


「あなた。それって、料理を作って熱い鍋を持つときに、手袋をはめるのが面倒だから、素手で鍋を持つために使ってる魔法じゃない?。なんでそれを、自分の剣に入れたの?。そういえば、冬になって、かまくらを作るときも使っていたわよね?」


「これこそが、剣を折るための下準備になるんだよ。これを入れておかないと、色々とマズいのさ。」


 そして、自分の県に剣に『熱魔法』と『氷魔法』の術式を組み込むと、陽葵がさらに首を傾げているが、俺は、首をかしげている陽葵が、とても可愛くてクスッと笑ってしまう。


「あなた。魔剣を、熱魔法で熱しても。氷魔法で冷やしても、無駄だと思うわよ。それとも、ネクロマンサーが操るスケルトンに、炎と氷の魔法が効くと思えないわよ?。骨を焼いても凍らせても所詮は骨よ?。あなたは何を考えているの?。」


「うーん、これは秘密さ。だって、この周りに気配を消した偵察がいたら、分かってしまうだろ?」


 とても可愛い陽葵は、俺が種明かしをしないから、顔を膨らまして、とても不満げな表情をしているが、その表情が可愛いすぎて、俺は悶えそうだ。


「あなた。あのスケルトンを、焼いたり凍らせたりして食べるつもりなの?。あんな骨、食べてもカルシウムが摂れるぐらいで、味もマズそうだし、なんにも恩恵がないわよ?」


 俺はニンマリと笑っただけで、不思議に思っている陽葵に対して、お茶を濁すことにした。


「不思議そうにしている陽葵って、とっても可愛いよね。そこで抱きしめたいぐらい、ホントに可愛すぎる!!。」


 陽葵はみるみる顔を赤くして、とても恥じらっていたので、とりあえず陽葵の頭をなでてしまっていた。

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